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京都を味わう
2月も終盤、不意に思い立って京都に行ってきた。冬の京都は久々だ。
普段の一人旅は何点か行きたいスポットを決めて旅を始める私だが、京都は三重時代に比較的頻繁に訪れていたので、よく言えば臨機応変に、悪く言えばその場のノリで行こうと、本当に行きの新幹線しか取らずに向かう。こんなに旅程を立てないのは初めてかもしれない。斜め後ろの少女がパチパチキャンデーを口いっぱいに頬張りキャッキャとはしゃいでいた。きっと酒を口にしたいだろうに炭酸水で我慢しているのであろう母親らしき女性が横でその様子を微笑ましそうに眺めている。今回イヤホンを会社に忘れてしまったのだが、これはこれで良い旅の始まりになりそうだ。
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遅延もなく無事に向かえて良かった。
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大階段駆け上がり大会の準備中だった。お邪魔しました。
鹿苑寺 金閣
日本人なら誰でも一度は必ず学校で習う、足利義満の建てた通称「金閣寺」。ユネスコの世界遺産にもなっているが、1950年の修行僧による放火によって金閣自体消失してしまい、国宝でも、そもそも重要文化財でもなくなってしまった。この放火事件は三島由紀夫の『金閣寺』の元にもなっているし、知っている人も多いだろう。かく言う私も中学生の時分に読み、それが実際に起こったことだと数年後に知った。国宝認定というのは、全焼した場合取り消されるのだと言うことも、その時に知った。
そんな金閣に修学旅行で行った人も多いようだが、私は金閣寺のルートを選択しなかったが故に実は今回が初めてである。だからどうしても行きたかった。雪が降ると金閣はとんでもなく混むので、予報ギリギリを攻めて朝早くに向かう。今回の旅程で唯一事前に決めていたスポットである。
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この旅で唯一無風の時間だったのでラッキーである。
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島に見立てた松が植えられた池のある日本庭園は美しい。
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白蛇は財運・芸術の神、弁財天の使いと言われている。
縁起の良い鳥である青鷺を見て幸運の前兆を感じる。
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本尊は1年に2回しか公開されていない。
今回は見れず。
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コロナ明けで心肺機能が低下しているので、
少しでも治ってくれと線香を立てて祈願。
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金箔が沈んで上手く撮れなかった。
寒空の下でホカホカの草餅は助かる。
北野天満宮
実は元々この2月は、梅の季節に合わせて福岡の太宰府天満宮に行きたかったが、日程とお財布の都合がうまく合わなくて断念。だったらせめて北野天満宮には行っておこう、と金閣から少し歩く。毎月25日は菅原道真の誕生日を祝う縁日が開かれており、今月は梅園で「梅花祭野点(のだて)大茶湯」が開催予定とのことだったでさぞかし梅も見頃なのだろうと思ったら、大寒波のせいで殆ど花開かずだった。
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この時期は受験真っ只中なので観光目当ての人が多い。
今年はTOEIC受験予定なので一応祈願。
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「三光」は太陽・月・北極星を示している。
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今年は過去10年でも最も遅いらしい。
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凄技。
梅苑前でわずかに咲いている梅を撮影していたら、上品そうなマダムに「まだ早かったわね〜!」と声をかけられた。奥に咲いていた1輪の白梅の方が香りは良かっただの、梅目当てに来たのにだのと軽く話す。解散後、名物である超老舗「長五郎餅」さんが偶然開店していたので、逃すまいと入店。この時外は雪が降り始めており、あまりの寒さに引き寄せられたもいえる。火鉢の隣に陣取っていると、反対側に座った女性がまた1人。すみません寒くって、なんて言われるので全然気にしないでと返し、折角だし少し話す。山口からきた彼女(おそらく同年代)は、同行者が宝物展に行ってしまったので寒さから逃れるために一服しに来たらしい。金閣は雪こそ積もっていないがとても綺麗だったと伝えたら、これから嵐山でランチだから明日行こうかな、なんてニコニコしていた。たわいもない話をしていたら、近くに先ほどのマダムと遭遇。埼玉から来たマダムは政治家さんの追っかけをしていて、午後は講演に行くので午前中何としてでも天満宮に来たかったらしい。3人で梅の見頃の話をして、長五郎餅を頬張る。偶然出会った出身も来た理由も違う素性も知らぬ女性1人ずつが、こうして旅先で話すことができるのが、本当に一人旅していて楽しいなあと思う瞬間である。きっと二度とは会えない彼女達のそれぞれの旅路が、より良いものでありますように。
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梅のシーズンと毎月25日の縁日の日だけ開いている。
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甘い餡が出来立ての餅に包まれていてホッとする。
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パチパチと炭の爆ぜる小さな音が心地良い。
慈照寺 銀閣
金閣と対に挙げられる銀閣、こちらは国宝である。どちらも相国寺の寺院であるが、煌びやかな公家文化の特徴が色濃い北山文化の金閣と対照的に、侘び寂びを重要視した武家中心の東山文化の銀閣は「日本らしさ」が強い。この2つの文化がどちらも室町時代に確立されたものであることに、怒涛の移り変わりを感じる。応仁の乱の影響もかなり大きいのだろう。
余談だが印象的だったのは、金閣は中国人の観光客が多いのに対して、銀閣は欧米人の方が多かった。国民性かな。
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銀箔が貼られていないことで、
この対比がより美しく見える。
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右側の方丈の特別拝観は予約で満員で見られなかった。
いつかこの目で見てみたいものである。
銀閣に向かう道中に見えた「にしんそば」の文字に、今日の昼食はこれにしよう、と思う。実はにしんそばは北海道の名物でもあるので、初見のビジュアルは物凄いインパクトであるが、その点は慣れたもの(そこまで慣れてもいないが)である。昼時だったので周辺のお店は観光客で満席。でもどうしても諦めきれない。少し離れたところにならお店があるようだ。雪も降っているしと悩んだが、折角の旅路なので歩く。傘を持ってきたものの、京都人は皆この程度じゃ差さないみたいだったので雪に濡れながら歩く。道中父娘の親子がスキップ競争をしているのを見かけた。なんて可愛らしい日常の風景だろう、と心を温めながら歩く。
北白川にある「手打蕎麦 みな川」さんで念願のにしん蕎麦をいただく。北海道の濃い関東風の出汁とは違い、関西風の鰹節と昆布出汁が優しく沁みる。鰊も箸を入れるとほろほろと崩れるほどに柔らかく、あっさりと上品な味わいであった。もうこれだけで歩いた甲斐があったものである。
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手打ちされた蕎麦も大変美味しゅうございました。
鴨川〜下鴨神社
何となくSNSでよく見かけていた鴨川デルタに行きたい、と思いバスに揺られる。今回はバスを最大限有効的に利用した旅だった。学生の頃訪れた際はバスに乗ることすら出来ないほどの混雑だったので、こんなにのんびりした京都のバスは初めてだ。というかそもそもこんなに1日でバスに乗っている旅自体めずらしい。
私は元来「バス」という乗り物が苦手なのだ。三半規管があまり強い方ではないので基本的に飛行機以外の交通機関は乗り物酔いになるし、パーソナルスペースが広めなせいで閉鎖的空間で第三者と密着して座るのも苦手だし、何より支払いのシステムがややこしい(先なのか後なのか地域で違ったり現金のみだとかお釣りが出ないとか)のも困るし。バスに乗るくらいなら自分の足で歩いた方がマシだと、今でもほんのり思っているくらいには苦手だ。
それでもGoogleMapの「徒歩45分」の表記に心が折れて、加齢に伴う体力低下とタイパには敵わず今回バスで巡ってみて、思っていたよりバスって便利だなと感じる。良い意味で子供の頃より鈍感になった部分もあるのだろう。ちなみに京都市営バスはお釣りが出るシステムになっていた上に、交通系ICカードが使えるようになっていた。やっぱり京都はバスで巡るのが一番楽かもしれない。
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日本人しかいないのは珍しかった。
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雪が止んで良かった。次は夏にリベンジしたい。
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亀(の石像)がいっぱいいた。可愛い。
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冬の川に落ちるのだけは回避できた。
鴨川に泳ぐマガモの姿を中洲からぼんやりと眺めながら、己の人生のことを考えそうになる。何にもなれず、きっとこれからも誰かの背景の一部としてかろうじて存在だけはする人生。一丁前に「一人旅と写真と読書が趣味です」なんて言うけれど、仕事でも趣味でも特筆すべき功績はこれっぽっちも残していない人生。ああいけない、このところ悪いことばかり続いているせいか旅先なのにどうも感傷的になってしまう。さっさと次に行こう、とその場で地図を確認すると、少し歩いた先に下鴨神社(賀茂御祖神社)があるらしい。レースのお守りで有名になったところか、と向かいながら下調べをすると、紀元前90年からの由緒正しい京都最古の神社と知りひっくり返ってしまった。そんなに歴史ある素晴らしい神社なのに知らなかった自分も恥ずかしい。縁結びにもご利益があるとのことで足早に向かう。
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祭典行事のためあと少しで閉門だった。セーフ。
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21年に1度で、35回目の準備が昨年始まったばかり。
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今回は2月らしく四季守「梅」を購入。
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夏には緑のトンネルになるだろう。美しい。
河原町三条
下鴨神社でたくさん歩いてしっかり縁結び祈願をしたら、程よく小腹が減ったので、旅の締めに大好きな「六曜社珈琲舎」に向かう。数年前に友人と訪れた際に完全に惚れ込んでしまった店内空間と珈琲に再会するために並んで着席。今となっては少なくなってしまった喫煙可のお店なので、愛煙家たちの憩いの場としても栄えていて、何だか懐かしく感じるような少しだけ煙たい店内が私は大好きだ。
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前回はモーニングだったので今回念願叶って。
今回は感情や学んだこと、風景を都度ノートに書き殴りながらの旅だったので、店内で味わいつつ文章をまとめる。ミミズが這ったような文字で自分自身でしか解読できないが、アナログな人間なのでスマホにメモするよりも数倍早く残せる。一瞬を逃さず写真を撮れる人はすごいと思うし、それと同じくらい文章で情景を切り取れるのも本当にすごいと、さまざまな作家さんやエッセイストさんの作品を読み漁っている人間として実感する。誰かの真似事は良くないとは分かっているけれど、自分もいつかそのレベルまで少しでも近づければな、とミミズメモを読み返しながら先の長い未来に目を細める。そのうちいっそう混雑してきたので、店内中を見渡せる一人用の席から立ち去る。味覚的にも視覚的にも、そして思考的にも味わい深い時間だった。
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どこにでもあるスタバも京都色に馴染んでいる。
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さようなら、またね。
あとがき
人間の記憶は有限だから私は記憶を記録するために写真を撮っているようなものだが、今回の旅は記憶にも深く刻まれるような、願わくば走馬灯にも流れてきて欲しいと思えるような、そんな良い1日だった。国内外で人気な京都の魅力をちっぽけな私がわざわざ語る必要もないと思うが、心が疲れている人こそこの地で一人少し足を止めてみると、古都に比べてたかが80年そこらの人生なんだからもっと自分を大切にしてあげても良いんだなと思えるかもしれない。