沈みゆく甲板より、ベーシックインカムへ祈りを捧げる。 5月の1000円

24年5月の乞食エッセイ

どうせ読まれることは無いだろうし、さっきの会議の愚痴を書くことにした。
私は今、強く憤りを感じている。

話は今日の夕方のことだ。
私はノンアルコールのビールを求めて、集合住宅中の自動販売機があるフロアを駆けずり回っていた。
なぜノンアルコールなのか。それは、私が何気なく手に取ることができるお酒に枠を絞って考えた時、アルコールを摂取することによる身体へのデメリットを打ち消すような、私に感動をもたらすことのできる銘柄が一切ないからだ。
そう、私のような感受性に乏しく、嗅覚と味覚が貧弱な人間が、部屋に一人、お酒を飲むのだ。一体、どこに味わいがいるのだろうか。。。

釣果はゼロだった。まぁ、それは分かりきっていたことだ。
比較的若い、貯金のないボンクラどもの巣窟なのだ。酔えない酒など需要がないのだろう。
せっかく美味しい唐揚げが手に入ったのだから、今日くらいはと思っていたが、ノンアルコールがないからと言って、ただの木曜日にアルコールを摂取するつもりなど毛頭ない。
手を伸ばせばいつでも手に取れるような一時の楽と引き換えに、数日にわたる苦の積み上がった上にある功績を引き渡すことなど、誰がやることか。
そんなことを考えているうちに、私の部屋の前に到着した。

時に、私は勤め先で、ある企画の実行委員をしている。と言っても、インフォーマルなものだ。
その実行委員の会合がリモートで開催されていたため、コンビニまでノンアルコールビールを買いに行けなかったのだった。
我々のいう企画というのは、ビンゴ大会的なものだ。ただ社員同士の親睦を深めるためだけにやっているものだ。職場の誰かが実行委員になり、他職場の実行委員と案を練る。当然だが、私にも、ほかの実行委員にもその番が回ってきたというだけなのだ。

私はある一本の企画に熱を入れていた。それはすでに、前回の会合で発表したのだった。私は何としてもこの企画を通したかった。なぜなら、実行委員のリストに私の名前が載っているからだ。実行委員に私がいる以上、何の捻りもないどこにでもあるような企画を実行するわけにはいかない。
実際、私は独自性で飯を食っていると言っても過言ではない。
入社以来、数字で表せる成果を全く提出してこなかった私にも席が残っているということは、僅かながら使い道を見出されているということだろう。

私が企画を提出する前の会合は、ひどいものだった。
企画を考える気など更々ない、フリーライダーのようなものの集まりだからだ。
給料が出ない仕事には熱を入れたくないのだろう。
実現可能性の低い箇所が随所に存在している企画1本、後ろ盾すら確保していない状態で、イベント1ヶ月前まで来てしまっていたのだ。
なんといっても、企画の内容がひどい。
ボウリングで例えると、みんなで順位を競って高得点のレーンに景品を与えるといった感じだ。
共通点として、
①わざわざ会社の人間が集まる必要がない
②楽しさはボウリング任せ
が挙げられ、私は大変嫌っている。
なぜならば、おもしろくないから。
仕事終わりなど一刻も早く帰宅して自分のやりたいことをする必要があるのに、なぜおっさんと遊ばなければいけないのか。
というか、そんな投げやり企画で親睦が深まるのだろうか?
つまらない愚痴になってしまった。

企画会議の初期段階で、自分の思い描いていた企画と方向性が全く違うものが採用されたため、私はやさぐれ、半分フリーライダーのようになっていた。与えられた課題はこなすが、及第点に達した段階でやめていたのだ。
しかし、どうせやるしかないのだから、面白いイベントにしたい。
定期的なイベントだからといって、無味乾燥なものを披露していいのだろうか?
私は、私が実際にイベントの運営をしている姿を見ようと、揺れるバスのなか、まぶたの力を抜いた。

この会合の司会は交代制をとっている。
前回司会だった私は、現状の問題点の説明から、自分が考案した企画の説明まですることができた。
そして、会議の途中で念を押すつもりで、再三忠告をした。
私の企画以外の企画を考案したのであれば、実現可能性を十分に説明できるものに仕上げておくように」と。
私の強気の忠告に、他の実行委員は首肯していたのを覚えている。
そして、今日の会合の話に入っていく。
今回の一番最初の議題は、企画を確定させるというものだった。
言い換えるのならば、今までの企画と私の企画のどちらをとるのかということになる。
先週の司会をしていた時に、私は勝利を確信していた。
なぜならば、企画の説明中に内容があまり理解されていないことを感じ取った私は、備品準備からイベント当日の運営まで、実行委員の負担がとても軽いということを全面に押し出すように切り替えたからだ。
どうせフリーライダーばかりならば、フリーライダーにとって乗り心地の良い船を製作した方が、双方にとっていいに決まっているのだから。

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