9月に読んだ本、見た映画
コロナにかかってベッドにいる時間が長かったのでそこで結構本が読めた。
読んだ本
『Hマートで泣きながら』(ミシェル・ザウナー著)
『テヘランでロリータを読む』(アーザル・ナフィーシー著)
『それから』(夏目漱石著)
『怠惰の美徳』(梅崎春生著)
『菜食主義者』(ハン・ガン著)
『浮遊霊ブラジル』(津村記久子著)
『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』(小野寺伝助著)
『クソみたいな世界で抗うためのパンク的読書』(小野寺伝助著)
観た映画
『アステロイド・シティ』(ウェス・アンダーソン監督)
『コンパートメントNo.6』(ユホ・クオスマネン監督)
①『Hマートで泣きながら』(ミシェル・ザウナー著)
韓国人の母親とアメリカ人の父親を持つ筆者が、母親を亡くした後に書いたエッセイ。
引用する箇所を探そうと読み返してたけどどこも良くて、良くて、というか、エッセイとしてぐっと引き込まれる箇所が多かった。電車でうっかり開いてしまって涙ぐみながら読んだし、コメダコーヒで読みながらおしぼりで涙を拭った。ヤバいやつじゃん。元から涙もろくもあるんだけど最近とみに涙が出やすい。
Hマートはアジアの食材を専門に扱うアメリカのスーパーマーケット。そこに並ぶ食材を眺めながら、フードコートの人々の様子を見ながら、著者は母親と交わした言葉を思い出し、涙ぐんだりする。元気だった頃の母親は食べることに対してとても情熱を持つ人で、エッセイには度々、母との思い出の韓国料理が登場する。
著者と母親はずっと仲の良い母娘だったわけではなく、進路に関して激しく対立したときは家というのは彼女にとって地獄だった。また、アメリカで育ち、その価値観を持つ著者にとって、韓国人である母親のあまりにも子供本位の生き方は不可解でもあった。
それでも、家を出てから母との関係は雪解けを迎えた。互いに価値観を受け入れ、ぎこちなかった関係がもっといい形に落ち着こうとしていた矢先に、母はステージ4の癌が見つかり、闘病の末帰らぬ人となる。
大切な人を亡くした経験は誰にでもある。(幸福なことに今はなかったとしても、いつか必ず経験する)そのとき、わたしたちは、悲しみに塞ぎ、なにを見ても故人を思い出し、あのときこうしていれば、というどうしようもない後悔をするだろう。それでも、残されたものは生きていくしかない。それしかできない。そのことがあまりにも鮮やかに描かれていて泣いてしまう。人生ってなんでしょうね。
②『テヘランでロリータを読む』(アーザル・ナフィーシー著)
テヘランの大学で英文学を教えていた筆者は、抑圧的な大学当局に嫌気が差して辞職し、イスラーム革命後の圧政の下で、優秀な七人の女生徒とともに、当時禁書となっていた西洋文学を自宅で語り合う勉強会を開いた。筆者がアメリカに移住するまで続いたその勉強会を中心として回想の形で綴られている。その当時のイランの圧政と、その中で苦しみながらも、勉強会でいきいきと文学を論じる少女たちの聡明さが印象に残った。
三十年ほど前のテヘランで、革命による国内の混乱や戦争という過酷な状況の中でも文学を学ぶ人がいたということに人間の持つ強さや善性を感じた。取り上げられていたオースティンやナボコフやフィッツジェラルドも読みたくなった。
引用したのは、筆者が大学で教鞭を取っていた時期に授業で『グレート・ギャッツビー』を取り上げた時に、ある女生徒が発言したものだ。一部の生徒が、ギャッツビーのような文学は「頽廃的」で「ブルジョワ的」でイスラームの価値観にそぐわない、若者の心に悪影響を与えるものだから授業で扱うのは不適切だ、と述べた際、それに反論し、諭すようにザッリーンは言う。人間はもう少し複雑なものではないでしょうか? 私はこの本を読むのが楽しかったし、それも大切なことなんです。
たぶん文学を学んだものなら誰もが、文学を学んで何になるのか、結局、自己満足以外の何者でもないのではないかと思ったことがあるだろう。文学は万能薬ではなくて、圧政や虐殺、理不尽な扱いから守ってはくれない。
けれど、内政は混乱しきっていて、言論の自由はなく、戦争で、あるいは粛清で、あまりにも簡単に人の命が失われて行く中で、それでも、そんな状況でも本を読むことをやめない人間がいるということが、なんだか文学の価値を表しているように感じた。どんな状況でも人は本を読むことで慰めを得ることができる。(こともある)それは十分価値のあることではないか。
③「それから」(夏目漱石著)
高校生の時に現代文の評論の試験問題で「漱石という人はおそろしく孤独な人だったが、漱石の作品は不思議と読者を孤独にしない」から始まる文章を読んだことがあって、ずっと心に残っていた。大学受験が終わったらたくさん漱石を読んでみようと思っていたのに、十年以上も積読してしまった。
百年前くらいに書かれたにしては読みやすすぎる。「真理」の話しかない。人間の感情の普遍のところを書いているから長く読み継がれているんだろうな。面白かった。
主人公である代助と父親との関係について。ウワー!!!!! 真理の話をしている。世代を超えて普遍的な、あーこういうこともあるよねっていう人間関係、親と子の話をしている……全然古びない……。
そりゃ今は昔と違って独身も本人の自由だけど……って百年前から言われてたんだ。
家族の金で暮らしていた代助が働かなければいけない状況になった時の文章。就活中の私じゃん。
夏目漱石、思った以上に面白くて、古典の読みにくさとかもあんまり感じなかった。他にも色々読んでみたいな。
④『怠惰の美徳』(梅崎春生著)
エッセイと小説。タイトルで『怠惰の美徳』とか言ってるし、筆者も自分をものぐさの怠け者とか言ってるけどめちゃくちゃ誠実な人だと思った。
戦中戦後に書かれたものとは思えない感性の新しさを感じた。周りが戦争に高揚している中で自分も一歩離れて世間を見ることができるか自信がない。たぶん私が戦時中に生まれてたら周りに流されて戦争を賛歌したかもしれんと思うと、なんか……すげえなと思った。(言語化の放棄)
⑤『菜食主義者』(ハン・ガン著)
これもいずれ読まねばの積読だったので崩せてよかった。
救いのない話なんだけどほのかに薄ぼんやり光るものがあるというか、「正気でいる」ということの細い紐を手放してしまっても、それでこの世の苦しみから逃れられるのならそれが不幸だなんて誰にも言えないんじゃないかと思った。
⑥『浮遊霊ブラジル』(津村記久子著)
津村記久子を一冊も読んだことがなかった。自分の親しい人に津村記久子が好きな人が多いので視界には入ってたんだけど。コロナになって家にいなくちゃいけなかったので31歳人間の本棚にあったものを読んだ。「給水塔と亀」がよかった。
他にも読んでみたいな。『君は永遠にそいつらより若い』とか、タイトルがいいよね。
⑦クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書 (小野寺伝助著)
⑧クソみたいな世界で抗うためのパンク的読書 (小野寺伝助著)
会社員をしながらパンクロックで音楽活動をしている筆者の、パンクの視点からの読書案内。パンクについて全然知らなかったけれど、紹介されている本がどれも面白そうでよかった。実際『テヘランでロリータを読む』や『怠惰の美徳』はこの本の中で紹介されていたので読んだものだったけれどどちらもとても良かった。パンクロックも聞いてみるかという気持ちになった。
このクソみたいな世界で、あークソだなーと思いながら何をするわけでもなく生きている私だけれど、思考停止してはいけないなと思った。例えばチェーン店ばかりで食事をするのではなく地域のお店で買い物をするとか、政治に関心を持つとか、ヘイトに耳を貸さないとか、他者への想像力を忘れないとか、とにかく自分にできることを自分にできる範囲でやっていくしかない。やっていくぞ。
観た映画
①『アステロイド・シティ』
画面作りにすごいこだわりを感じた。色や構図で楽しませてくれるので画面を見ているだけでなんだか楽しい。ストーリーはよくわからないけどとにかく宇宙人が来て隕石を持っていくシーンが良かった。まったく前情報なしで映画館で見たのも楽しかった。
②コンパートメントNo.6
感想むず。人生の話だった。(だいたいそうだよ)
恋人に旅行をドタキャンされた、モスクワに留学中のフィンランド人女性が、一人で寝台列車でペトログリフ(岩面彫刻)を見に、ムルマンスクというロシア最北端の街を目指す。そこで粗野な炭鉱労働者の男と同室になり、最悪の旅になるかと思ったが、だんだん心を通わせるようになり、という話。
少しだけロシア語を齧ったことがあるので少しわかる単語が聞こえてきて良かった。
感動する場面も気に入ったフレーズもあるけれど、100点満点のお気に入りという感じではなかった。なんでかはわからない。
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