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裸の付き合い

 メディナの路地の奥深く、香ばしいパンのにおいを辿って行くとハンマムに辿り着く。ハンマムはイスラム世界に特有の公衆浴場、つまり銭湯である。銭湯とコーヒー牛乳の関係には気づいても、銭湯とパンの関係には気づくまい。各町内に数件あるハンマムでは、釜に薪をくべてお湯を沸かし、その熱でパンを焼く。そのためハンマムの隣にはパン屋と言う配置になる。人々の主食であるパンと体を清潔に保つために欠かせないハンマムの熱源を共有してしまう画期的なエコシステムが数百年も前から都市の中に組み込まれているというのは驚きだ。
 能書きよりもまず体験。ということで知り合いのモロッコ人おやじにハンマムに連れて行ってもらった。入り口を入ると番台がある。入浴料(5DH=約60円)を払い、荷物を預けるとそこが脱衣場だ。服を全部脱ごうとすると、「パンツははいとけ。」と同行のおやじの指導。ちょっと抵抗はあるもののパンツをはいたまま浴室へ入場。
 浴室に湯船はなく、蒸気風呂という風情。天井ドームの小窓から湯気の中に光が差し込む。部屋は温度によって3つに分かれており、はじめは温度の高い部屋で汗をかき、垢を浮かせる。熱い蒸気に頭がもうろうとしてきたころ、ぼーっとしたままおやじに手を引かれ、中位の温度の部屋に移る。
 そこには背中を流しあうモロッコ人達の姿が。国は違っても裸の付き合いは一緒だな、と思っていると「背中を流してやる。」と同行のおやじ。この時、一抹の不安がよぎったが、ローマではローマ人のするようにしろというし、モロッコではモロッコ人の慣習に従うのが礼儀だろうと思い、背中を流してもらうことにした。
 まず、背中をごしごしこすられる。 次に「横になれ」とおやじ。え、寝るの?と思いながらも従うと、柔道の関節技を掛けるときのような姿勢で 腕と胸をごしごし垢擦りされる。さらに膝を立てさせられて腿の内側を洗われ、微妙に体位を変えさせられながらなすがままの僕。 やがて垢擦り手袋をはめたおやじの手はお腹の辺りへ下り、さらにパンツのゴムをくぐり抜けてデンジャーゾーンの至近距離へ。 心の中で「ま、待ってくれ、それ以上近づくなー!」と叫ぶ。石けんでぬるぬるとした手は脚の付け根の辺りをかすめながら腿の方へ抜けて行き、 最大の危機はなんとか回避した。
 いくら付き合いとは言え、そこまで体を触られまくるのはかなり抵抗があるものだ。そういえば、モロッコおやじ同士道端でほおをすり寄せて挨拶しているのを見かける度に、人間同士の距離が近い文化だなぁとは思っていたが、これほどだとは。 男に迫られ、抵抗できずコトに及んでいく時の心境ってこんななんだろうか。

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