ミドリ 『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』
2010年代の音楽シーンの評価もそろそろまとめられつつある昨今。
流石にネット社会はそういうのが非常に速い。回線速度が向上するにつれ、時代の総括をするときの余韻に浸る暇もない。
しかしこのネット社会のおかげか、当時は陽も当たらなかったシーンが今更ながら注目されるなんてこともある。昨今のリバイバルブームなんて、ネットがなければ起きなかったであろう。
去年か一昨年くらいに、ミドリの『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』が海外の一部音楽ファンから評価を得ているという話を耳にした。
最初は耳にした自分の耳を疑った。次にその耳にした言葉を疑った。耳耳うるさい。
色々確認してみると、どうやらノイズ系の一部シーンで評価されている様子。だよな。日本人でもあのアルバム、意味わかんねえもん。
とはいえ、名盤には違いない。2008年のリリース当時、浪速のアホな高校生をざわつかせたことは間違いないのだから。すなわちそれは、私である。
ココから少し、自分語り。
2008年のいつごろか、私は普通の高校生だった。銀杏BOYZとかthee michelle gun elephantとか、ROSSOとか、The birthdayとか、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが好きなごく普通の高校生だった。大事なことなので二回言う。
とにかくあの当時は、周りが知らない音楽を求めてツタヤに入り浸ったり、ガラケーで調べたりしていた。
ミドリを見つけたのは、ツタヤのCDコーナーだったと思う。あの当時はロキノン系(当時はまだ下北系って言ってたと思う)とかが奥に専門コーナーがあったので、ビギナーにはすごくいい環境だった。裸のラリーズとかも一時期あった気がする。
そこの若手コーナーっぽいところにあったのが、この『あらためまして、はじめまして、ミドリです』だった。
なんとなく手に取ったが、まずジャケットがエロい。悩まし気な表情をしている裸の女の子の絵。当時の私にはあの乳首が刺激的だった。
とはいえ、知らないバンドだしなんだかなあと、その時はレンタルしなかった。
多分しばらくしてから、ガラケーでバンドを調べたと思う。その時に、セーラー服の後藤まりこが、客席にぶっ飛んでいる写真か何かを目撃した。
何コレ、女版銀杏BOYか? 明らか頭がおかしいように見える。
数日後、とりあえずツタヤで借りてみたが、これは非常に危険なアルバムだと認識した。
まず家で流せねえ。オカンに聞かれたらイヤだ。それくらい破廉恥でヤバいアルバムだと確信した。
しかし当時の私は既に、この手のジャンルの虜になっていたので、こっそり聴いていた。友達にもあんまり言わなかった。
何聴いてんのって言われたら、10-FEETって答えていた。
あれから14年。
ミドリを知っている人間には3人であったが、どちらも一般的とは言い難い音楽の趣味をしていた。そのうちの一人は、私を音楽の泥沼に引きずり込んだ張本人だ。
1.スキ
一つの物語が始まりそうなロマンチックなメロデイ、歌詞。とても甘い雰囲気だが、明らかに狂気を隠し持っているような不穏さを感じる。
録音もあえてか、ローファイに仕上げている。
2.ゆきこさん
ヤバい。とんでもねえくらいうるさい。
デストロイで始まるヤバい歌。調べるとデストロイって破滅とかそういう意味らしい。
これこそノイズパンク期のミドリって感じの、超爆音に、不協和音のようなピアノが乗っている。このピアノが、爆音ノイパンにジャズの要素を付け加えてくれている。
歌詞の意味はよくわからん。
よくわからんけど、何か形容しがたいおぞましさが全裸でダイブしている。
この曲聴いて人生変われば、何者かになれるかもしれない。
3.かなしい日々。
『ゆきこさん』に引き続いて、ノイズパンク+ピアノという、超不協和音から始まる。しかし歌詞はまだ聴きやすい。
何かよくわからないエネルギーを耳に直接ぶつけられるようでただただ圧倒される。よくわからないけど何か胸に刺さる、フィーリングで聴く音楽だと思う(このアルバム全般がそう)。
4.お猿
いびつな歌謡曲? 所々で和の要素を取り入れるのは、この後の曲にも言えることだ。ノイズの要素はこれまでに比べて割と抑えられているが、エネルギーはそんなに変化なし。
性欲のままに生きる男女はまさに我々のことであろう。
銀杏BOYZの『人間』という歌詞に出てくる「僕等は飯食ってセックスするだけの人間様さ」に似たものを感じる。
5.根性無しあたし、あほぼけかす
ミドリは大阪のバンドなので、関西弁が結構出てくる。
あほもぼけも、イントネーションはそうだろう。
この曲は今までとは打って変わって、『嫌われ松子の一生』のような少女趣味に耐えがたい苦痛を加えたような曲になっている。
かなりポップなメロディ(バックのサウンドは重め)に、救いようのない孤独な少女の開き直りというか、諦めを感じる。
ポップだけど、かなり寂しい。
5.ちはるの恋
タイトルが可愛いのに、何でこんな重いベースから始まるの?
それはこの曲が、ちはるの恋をぶっ壊す曲だからである。
「壊してね壊してねこうやって作るんよ」って、すごく投げやりにどうでもいいことと本音を交えて語るのは、多分ちはる本人なのだろう。
わかるのは、ちはるは関西在住で、失恋して自暴自棄で馬鹿になっているのだろう。
この曲もどこか和を感じる。ノイズ要素はやや低めだが、ノリがよく重い。
6.ひみつの2人
ジャズの要素がやや強めな曲。
ノイズ系とジャズって、よく考えたらフリージャズとかと同じ括りで考えられるのではとふと思った。ジャズの知識ないから、よく知らないけど。
とりあえずメロディは踊れるけど、歌詞はセックスフレンドについてで間違いないと思う。
7.5拍子
あまり知識がなくて申し訳ないが、どうやらジャズには5拍子の曲があるらしい。この曲名からして、ミドリのジャズ要素は意図的なものかと思われる。
もしかしたらこの曲も、ジャズの何か要素があるのかもしれないけど、私にはわからない。
とにかく今までと違って、my bloody valentineやThe Jesus and Mary Chainのような、今までと違うノイズが続いている。
儚げな歌詞といい、絶対シューゲイザーを意識した曲だと思う。タイトルはジャズっぽいのに、今までより現代的な雰囲気に仕上がっている。
歌詞は今で言うと、トー横とかグリ下にいそうな子っぽい印象? ラブソングはラブソングだけど、結構重めじゃないか。少なくとも30代にとっては重く感じる。
8.ハウリング地獄
Melt-Bananaに儚さを足して、より歌謡チックにしたような曲。
ちょっと前に関西で『関西ゼロ年代』と後に呼ばれる、ボアダムズとかに影響されたアンダーグラウンドなシーンがあったらしい。ミドリはその最後あたりorブームが過ぎたあたりのバンドなので、90年代のノイズシーンの影響はバッチリ受けているんだと思う。
あの当時のライブハウスって、めちゃくちゃ怖いイメージだったけど、大体その辺りのバンドやアーティストの影響だったに違いない。十三のファンダンゴとか、難波ベアーズとか怖くて近寄れなかったし。
9.無欲の無力
フィードバック奏法から始まる楽曲は名曲揃いby私。
このアルバム唯一の(ほぼ)インスト曲であると同時に、この手のジャンルとしては一番『らしい』と言える内容になっている。これは純粋なノイズミュージックと呼ぶべき非常に実験的な内容になっている。
コード進行とかはよくわからんけど、譜面から起こされたものではないのは明らか(多分今までの曲もだけど)
途中、後藤まり子が何か言っているが、全く聞き取れない。そもそも聴かせる気なんてないだろうし、そこが重要ではないのは明らかだろう。
最後はノイズが厚くなって音が少し大きくなり、突然ブツっとアルバムが終わる。
ホントに、誰かにイタズラで停止ボタン押されたくらいの中途半端な感じ。一気に現実に戻された気がする。
しかし、「終わりましたよ」と言ってくれるような親切さをこのアルバムに求めちゃいけない。そんな人は、もっと売れてる人のアルバムを聴けばいい。
色々言ったけど、一番恐ろしいのが、これがメジャーで出したアルバムってことだろう。
ミドリは随分前に解散してしまったので、多感な時期にリアルタイムで遭遇できたことは、私の宝である。
一回くらいライブ行っとけばよかった。
ノイズ、パンク、椎名林檎、大森靖子好きなジャズ好きにおすすめです。ということにしときましょう。