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カネコアヤノ 『タオルケットは穏やかな』


音楽がティッシュの如く消費される時代になったが、世間では困っている様子はない。むしろ「え、まだティッシュでケツ拭いてるの? ちょっとそういうの求めてないです」と言われる時代。
要するに、TikTokで曲が消費されることが当たり前な時代。バズる曲を求めて三千里。
みんな同じ行き先の市バスに乗って同じ停留所に降りる。
私はヒッチハイクで日々Spotifyをディグる。たまにディスクユニオンにも行く。

いやー、ホントに私困っちゃうんですよねー。
世の中にはまだ未聴の名盤がたくさんあるというのに、一つ聴けばまた違う場所で名盤が生まれる。

カネコアヤノがまだすごい名盤を引っ提げてきやがった。感動。
何なんマジでと、キレそうなくらい素晴らしい。
まず音がいい。
いよいよ今作でソロからバンドになったと思う。使い古された魔法かもしれないが、とんでもないバンドマジックに溢れている。
ここから先は、各曲のレビューを参照されたし。


1.わたしたちへ
正直なわたしたちへ向けた歌。わたしたちにはカネコアヤノ本人は入っているのかしらん。
そしてこのサウンド。一発目のぶっ飛んだノイズ。
まるでboodthirsty butchersだ。彼らの境地にカネコアヤノが到達した。美しすぎてたまらない。

2.やさしいギター
キュッとするような可愛いメロディに弱い私たちをくすぐるような歌詞。
壮大な事はなく、日常を語ったもの。
それが「優しかばかりが愛か。分からずにいたい」。

3.季節の果物
海にはなりたくないんじゃなくて、なれないんじゃないか。それともならないという意思表示か。
あなたと季節の果物をわけあう愛からって、すごく絶妙な部分でしょ。それって友達以上の関係じゃないと成り立たないだろうし、新しい日常を想起させると思わないかい。


4.眠れない
カネコアヤノの凄いところは
日常を切り取る才能と、表現する時の言葉選び
だと思っている。
何で眠れないの? と訊かれたら、この曲を教えてあげればいい。君にもあるでしょ? 大体こんな感じだよ。
眠れない夜なのに何だか妙に明るいのも楽しい。

boodthirsty butchersの『9月』と真逆かなと思ったり、いや案外近い部分もあるかも。
吉村秀樹が生きていたら、対バンして欲しかったな。

5.予感
『わたしたちへ』、『気分』と同じく、先行シングル。
途中私はThe Black Keysを感じてギョッとした。『Little Black Submarines』という、素晴らしいガレージソングを想起させるバンドサウンドに途中変化して、この曲に物語性を持たせている、気がする。
というのも、私には曲中の天使がわからないので、断言する勇気がないのだ。
言葉選びが感覚的なのかな。「何かいい」としか言えないのがもどかしいけど、世の中大抵はそれでいい気もする。
すごくいい曲!

6.気分
ミニシアター系映画の、目が覚めたようなぼやけた導入。
そう、靄がかかった始まりだなと思った。
『予感』もそうだったけど、誰かを肯定している。
気分はいつも上がったり下がったりとか、堕落は悪くないって言ってるあたり、この薄ぼやけたメロディはすごく合っている。
肯定の先には哀愁とか救いとか、愛を感じる。
バンドサウンドもいいけど、カネコアヤノ単独の弾き語りで聴いてみたい。ライブ行きてー!

7.月明かり
何となくだけど、『気分』を感じた後の帰り道を歌っているんじゃないかな。
だとしたら、かなり気分が下がっている時の孤独な夜道だろう。
ゆったりしたオルタナか、静かな初期エモみたいなメロディがまさに月明かりみたい。
街灯がない道なのかな。

8.こんな日に限って
悲しみを消すための傷が絶えないって馬鹿らしいけど、これ以上ない言葉だと思う。
少し沈むかのように、途中シューゲイザーのような甘く深いメロディに変わる。朝が遠い夜って言っているあたり、『月明かり』や『眠れない』とつながっている気がする。
言っている事は割と後ろ向きなんだけれども、何だかポジティブに聴こえる。

9.タオルケットは穏やかな
来ました表題曲。
言わずもなが、古き良きシューゲイザー。
slowdiveみたいなロマンチックでポップな方ね。決して『Loveless』みたいなデカい音! とかではない。

こんなメロディで「いいんだよ、分からないまま」なんて言われた暁には、誰しも救われてしまうでしょう。
ライブハウスで聴きたい、ちょっとアングラな要素もありなのもGOOD。

10.もしも
打ち込みっぽい始まり。リズミカルなメロディ。
『タオルケットは穏やかな』が壮大なシューゲイザーであるのに対して、かなりミニマルなメロディ。
ベースがボンボン目立ってカッコいい。

「どこかの大地じゃ小さな悩みさ」は色々想起させるね。ワールドワイドもそうだし、電車のロングシートだって側から見たらどこかの大地である。
このアルバムの中心になっている出来事は、他人事ではちっぽけに過ぎないのだろう。
知らない人がどこを向いているのかを、すごく離れた場所から見つめているような気がする。
でも、その知らない人も私をそういう風に見ているかも知れない。
だって私にも小さな頃、夢見た頃の自分があるわけだから。


カネコアヤノのレビューってホント難しい。みんなたどり着く場所は一緒だけど、そこがどこなのかをバシッと伝えるいい言葉が見つからない。
何かそういう次元じゃないような気がするんだよなあ。

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