1〜3人用フリー台本『少年とイタチ』
<はじめに>
ようこそ初めまして、鳴尾です。
こちら、以前ボイコネで投稿していたシナリオになります。
20分、3人用(少年1、性別不問2)フリー台本です。
演者様の性別は問いません。ひとり三役やふたり三役も可能です。
セリフは、多少であれば言いやすいように変えていただいて構いませんが、なるべくそのままだと嬉しいです。
お芝居としての趣味、商業利用、ご自由に使ってくださってください。
その際、鳴尾の名前添えていただけると嬉しいです。
無断転載や自作発言は悲しくなるのでやめていただけますと幸いです。
もし使用後にこちらのコメントかTwitter等で教えていただければ、できる範囲で聴きに行きたいと思いますので、よかったら教えてください。
<あらすじ>
少年は愛に飢えていた。
イタチは孤独を知っていた。
これは冬の森で起こった、友情と悲しみの物語。
<登場人物>
語り部
性別不問。ナレーションです。半分以上語り部が喋ります。
少年
森の中でひとり暮らす少年。
寂しさを紛らわすために森の動物たちと遊んでいる。
母親
少年の母。出稼ぎに行っていて、ほとんど家にいない。
父親設定でも話は繋がるので、父親に変えていただいても構いません。
セリフ数がほとんどないので、朗読ならば少年と兼ね役で出来ます。
イタチ
セリフはありませんので声劇であれば必要ありませんが、もし映像を付けるならば必須です。
『少年とイタチ』
語り部:それはある寒い冬の日のことでございました。
語り部:少年は寒さに打ち震える一匹のイタチを見つけました。
語り部:イタチは雪に半分ほど埋まっていて、寒そうにブルブルと震えております。
少年:寒いのかい?
語り部:少年はイタチに声をかけました。けれどもイタチはなんにも返事をしません。
少年:大丈夫?
語り部:少年はもう一度、イタチに声をかけました。イタチはぐったりとしたまま、ちっとも返事をしません。
少年:声を出すこともできないほど苦しいのだね。もう大丈夫だよ、僕が助けてあげる。
語り部:少年は自分の身につけていたマフラーを外し、動かないイタチをそっと抱き抱え、家へと帰りました。
少年:そうだ、家に着いたら暖かいミルクをあげよう。それを飲んで、暖かい毛布にくるまって、ストーブの前で眠るんだ。そうしたらきっと、君も元気になるよ。
語り部:少年は家に帰ると、キッチンからミルクを持ってきてイタチに飲ませました。イタチはそのほとんどをこぼしてしまいましたが、かろうじて少しだけ、そのミルクを飲むことができました。
少年:おいしいかい?
語り部:少年はストーブの前へイタチを連れて行き、毛布にくるみました。イタチはピクリと少し動いて、それからすうすうと寝息を立て始めました。
少年:ゆっくりおやすみ。
語り部:少年はそんなイタチをほっとした目で見つめ、イタチを抱きしめて眠りました。
語り部:次の日、少年が目を覚ますと黒くて大きいふたつの丸が視界に映りました。
少年:わあっ!
語り部:少年がびっくりして大きな声を上げると、その丸はビクンと震えたあと一瞬で小さくなって、毛布の中にスポンと潜り込みました。
少年:君だったのか。おはよう。驚かせてごめんよ。
語り部:少年は毛布をそっと持ち上げて、中で小さく震えるイタチに優しく微笑みかけました。
少年:目が覚めたんだね。お腹がすいたかい?朝ごはんにしよう。
語り部:少年が笑うと、イタチは不思議そうに少年を見つめ、ゆっくりと毛布の中から姿を見せました。
語り部:少年はそんなイタチをそっと抱きしめ、イタチにミルクを飲ませました。
語り部:イタチは嬉しそうに、美味しそうに、噛み締めるようにゆっくりとミルクを飲みました。
少年:美味しいかい?もっとあるからね。沢山食べて、元気になるんだよ。
語り部:少年はイタチがミルクを飲むのを、優しく見つめていました。
語り部:その日から、少年とイタチは一緒に暮らすようになりました。
語り部:友人のいなかった少年は初めてできた友人に喜び、命を助けて貰ったイタチは少年に懐いていました。
少年:僕たちは友だちだよ。友だちが何か分かるかい?友だちは、どんなときも一緒にいるんだ。
語り部:少年はイタチに、本で読んだことを話してあげました。
少年:この世界にはね、大きな水たまりがあって、それは〝海〟って呼ばれているんだ。その海っていうのはとっても深くて、とっても広くて、しょっぱいんだ。
少年:〝砂漠〟っていうものを知っているかい?どこまでも砂が続いているんだ。地平線のずっと向こうまで、みえるものは全部砂なんだよ。
少年:世界にはたくさんの生き物がいるんだ。何千、何万という生き物がこの世界にいて、みんなが共存しているんだ。僕たちみたいにね。
語り部:イタチは少年の話を、いつも黙って聞いていました。
語り部:そんなある日のこと、少年の家に一通の手紙が届きました。
少年:なんだろう。
語り部:少年は不思議そうにその手紙を開けて、手紙を読みました。
少年:大変だ、どうしよう!
語り部:その瞬間、少年は顔色を青ざめて、イタチの元へ飛んでいきました。
少年:大変だ、今すぐ隠れておくれ。母さんが帰って来る!
語り部:少年はそう叫ぶと、イタチを毛布にくるみました。
少年:母さんはね、普段は遠くへ仕事に出かけているのだけど、たまに帰ってきてくれるんだ。
語り部:毛布にくるまれたイタチは不思議そうに少年を見つめました。
少年:母さんは動物が嫌いなんだ。君が見つかったらどんな目にあうか、考えただけで恐ろしい…。
語り部:少年はイタチを抱きかかえ、押し入れの中に入るといちばん奥にイタチを隠しました。
少年:ごめんよ、本当は隠したくはないのだけど、母さんは話を聞いてはくれないから。
語り部:少年はイタチの上にもう一枚毛布をかぶせると、押入れの扉を閉め、キッチンへ戻りました。
語り部:その日の夕方、少年の母親が家へと帰ってきました。少年はご馳走を作って母親を出迎え、笑顔で夕食を楽しみました。
語り部:イタチは押し入れの奥で、少年の楽しそうな笑い声を聞いていました。
語り部:いつもは自分へ向けられていた笑い声が遠くで聞こえてくることに、イタチは少し寂しくなりましたが、少年の言いつけを守り、押し入れの奥でじっと黙って、少年が戻ってくるのを待ちました。
語り部:その日は、その年でいちばん寒い日でした。吹雪が少年の家を襲い、家の中はストーブの前以外、凍えるような寒さでした。
語り部:イタチは押し入れの奥で、少年が戻ってくるのをじっと待っていました。毛布をぎゅっと掴んで、ぶるぶると震えながら、少年が押し入れの扉を開けてくれるのを待っていました。
語り部:長い時間が過ぎました。イタチの足先はすっかり冷たくなって、思うように動きません。それでもイタチは、少年が戻ってくるのを黙って待ちました。
語り部:そのとき、声がしました。
母親:また拾ったのね。
語り部:女の人の声です。イタチがこれまで聞いたことのない声でした。イタチはびっくりして声のするほうを見ました。
語り部:そこには、少年に少し似た、ひとりの女の人が立っていました。
語り部:女の人は不快そうに顔を歪ませて、イタチを毛布ごと鷲掴みにしました。イタチは必死に暴れて抵抗しましたが、女の人の力の前に為す術なく体は持ち上がり、押し入れから引きずり出されました。
語り部:イタチは必死に声を上げて少年を呼びました。けれども少年の耳にそれが届くことはありませんでした。少年は暖炉の前で眠っています。木のスプーンを握ったまま…。
母親:あの子ったら、いつも私が留守のうちに動物を連れてくるんだから。お母さんが動物はダメって何度言っても連れてきて…。
母親:分かってちょうだい。これはあなたのためなの。
母親:こんな汚らわしいものが家にいたら、あなたが病気になるかもしれない。怪我をしてしまうかもしれない。悪影響を受けて、おかしくなってしまうかもしれない。
母親:だからこれは、あなたの安全のためよ。
語り部:女の人はイタチを掴んだまま家を出ると、そのまま森の奥の湖のほとりにイタチを捨てました。
語り部:朝になって少年が目を覚ますと、女の人は優しい笑顔で少年の前に立ちました。
母親:おはよう。朝ご飯ができているよ。早くお食べ。
語り部:少年は眠い目をこすりながら食卓につき、ぼんやりとした頭でパンを口に含んでいましたが、パンを二枚食べたところでようやく、いたちのことを思い出しました。
少年:母さん、僕もうお腹いっぱいだから、部屋へ戻るよ。ごちそうさま。
語り部:そういうと少年はミルクを手に急いで押し入れへ向かいました。
少年:どうして昨日、会いに行かなかったんだろう。どうして寝てしまったんだろう。
少年:あんなにも寒いところで親友を一晩も待たせてしまった。ごめん、ごめんよ。
語り部:少年は押し入れを開き、母親に聞こえない声量でイタチの名を呼びました。けれども返事はありません。
少年:夜の間にどこかへ出かけたのかな。
語り部:押し入れの奥にイタチがいないことに気づいた少年は、イタチを探して家の外へ飛び出しました。
少年:どこにいるんだい?
語り部:少年は森の中に入ってイタチの名を呼びましたが、イタチの返事はありません。
語り部:日が暮れて辺りが暗くなっても、イタチは少年の前に姿を現しませんでした。
少年:どこに行ってしまったんだい?
語り部:少年は寂しさに涙を流しました。大粒の涙は雪に溶けて、少し雪を溶かしました。
少年:まるで君の足跡のようだ。これが本当に、君の足跡ならよかったのに。
語り部:そのとき、遠くのほうで声がしました。
少年:君なのかい?
語り部:少年は無我夢中で声のするほうへ走り出しました。
少年:もう一度声を聞かせておくれ。僕の前に姿を見せておくれ。
語り部:しばらく走っていると、少年は小さな湖を見つけました。
少年:足跡だ…!近くにいるんだ。
語り部:少年はさらにイタチを探して走りました。そうして走って走って…突然、少年の視界がひらけました。
少年:うわあああああああっ!
語り部:そこは、崖だったのです。
語り部:気づいたときには少年の足元は何もなく、その手につかんでいる細い木の枝だけが、少年の命を握っていました。
語り部:その枝も、メキメキと音を立てて、今にも折れそうです。もうダメだと少年が諦めかけたそのとき、少年の視界に黒いふたつの瞳が映りました。
語り部:イタチです。あのイタチが、少年の叫び声を聞きつけてやってきたのです。
少年:ここは危ないから逃げるんだ!
語り部:少年はそう言ってイタチを逃がそうとしましたが、イタチは少年に近づき、その手をくわえました。
少年:助けようとしてくれているのかい?
語り部:少年は必死なイタチを見て嬉しくなりました。
語り部:けれども体の小さいイタチには、少年の体を持ち上げることなど到底できません。
少年:ありがとう。最後に君に会えて、僕は幸せ者だ。
少年:僕の友だちになってくれてありがとう。
少年:僕は幸せだった。
語り部:そう言うと、少年はイタチにくわえられている手を強く振ってイタチを崖の上に投げ飛ばしました。
語り部:振り払われたイタチは、もう一度少年を助けるために慌てて少年の元へと駆け寄りました。
語り部:そうしてイタチが少年を助けようとその手に近づいたその瞬間、めき、とひときわ大きな音がしました。
語り部:そして必死に伸ばしたイタチの手の僅か数ミリ先を、折れた枝が音もなく落ちていきました。
語り部:数秒ののちに、どおん、と大きな音がして、辺りは静かになりました。
語り部:イタチの伸ばした手の上には、大粒の雫がふたつ、キラキラと月の光を浴びて光っておりました。
こんにちは、自他共に認めるいかれポンチ鳴尾です。 いかがでしたか? あなたの期待に応えられるよう、これからも良い作品を書き続けますね。