【漫画原作アイデア】『地の底より愛を込めて』シナリオ・設定まとめ
1タイトル
『地の底より愛を込めて』
2ジャンル
オカルトアドベンチャー
3ターゲット読者層
10〜20代男女
4あらすじ
「地底都市アガルタ」。それは誰もがただの都市伝説としか思っていない空想上の世界だった。しかし今も地面の下の世界では、かつてアント・ピープルと呼ばれホピ族から信仰されていた地底人たちが、地上世界の平和を願って私たちに愛を送っていた。ある時アメリカ軍の秘密部隊「アンダー・ワーデン」がアガルタにやって来て、地底人の子供を地上での極秘任務に就かせるため、幼いアント・ピープルたちを地上に連れ出して行った。主人公の少年アックは、地上世界に憧れを抱く好奇心旺盛な変わり者の地底人だった。軍の命令で地上にやって来たアックは、軍の施設から脱走し、憧れの地上世界を旅してまわるのだった。地底人の存在が民間に知れ渡れば、世界中が大混乱に陥ってしまう。アメリカ軍がそう懸念する一方で、アックは地上で出会った個性豊かな人間たちと交流を重ねていく。これは、究極の国家機密である地底世界から来た少年が、人類に愛を振り撒くことで、世界を変えていく奇跡の物語だ。
5登場人物
■アクーリア・マッテ(愛称:アック)
地上世界に憧れを抱く地底都市アガルタの少年。アント・ピープルという種族に属し、見た目は二足歩行になった蟻のような姿をしている。シャイプシフトによって自在に姿を変えることができる。しかしまだ子供であるため、世間知らずで知識がなく警戒心も薄い。しかし彼の持つ純粋な心に、地上の人間たちが次々に惹かれていく。嫌いなものはグリーンピースと武器を持った兵士。
■ビクトール・ホワイト
「史上最強の老兵」という異名を持つ白人の軍士官。秘密部隊「アンダー・ワーデン」の司令官でもある。政府のやり方に疑問を呈しており、アント・ピープルの知恵を使ってハルマゲドン勃発の阻止を目指す。軍の基地から姿を消したアックのことを心配し、任務より彼の保護を優先しようとする。厳つい見た目に反して心優しい性格をしているが、敵には一切容赦しない。
■エリザベス・マーフィー
ニューヨークのブルックリンで一人暮らしをしている大学生。常に金欠に悩まされており、大学以外の時間はバイトに明け暮れている。世界の歴史や宗教に詳しく、特にチベット仏教に伝わる伝説の地底王国について熱心に調べている。子供の頃から極度の金属アレルギーを持っている。ある時、偶然地底人のアックに出会い、彼女の人生が大きく動き出す。
■アンナ・スチュアート
エリザベスの親友。生まれつき体が悪く、大学を休むことも多い。犯罪と陰謀論が蔓延するニューヨークで、エリザベスがまともだと思える数少ない人物の一人。
6用語解説
■地底都市アガルタ
古代から存在するいくつもの地底都市の一つ。地上世界よりも進化したテクノロジーが存在しており、人類が見たことない動植物で溢れかえっている。地上世界よりも少し周波数が高いため、犯罪者やテロリストなどの極悪人は決して近づくことができない。逆に入ることが許されているのは、優しく純粋な心を持った人間のみ。
■アント・ピープル
かつてアメリカの先住民であるホピ族が信仰していた謎の生命体。ホピ族の救世主である彼らは、太古の地球で起きた大洪水の後に地底世界に避難したという伝説が残っている。作中では、蟻の見た目をした非常に優しくて賢い種族として登場する。
■アンダー・ワーデン
アメリカ政府に対抗するために軍内部に極秘で作られた秘密部隊。地底都市アガルタの住民と協力し、ハルマゲドンの阻止を目指している。陸・海・空全ての領域で軍事行動を起こせる超エリート集団で構成されている。しかし軍内部にも様々な派閥があり、中にはアント・ピープルの非常に優れたテクノロジーを恐れて、彼らを抹殺しようとしている勢力もいる。
■ハルマゲドン
第三次世界大戦のことであり、新約聖書のヨハネの黙示録で語られる人類最終戦争のこと。
■フリーダム
アメリカ政府を裏から操る謎の組織。目的はハルマゲドンを引き起こして人類の文明をリセットさせること。アンダー・ワーデンを敵視し、アガルタから地上にやってきたアックのことを狙う。組織のボスは「陛下」と呼ばれる性別も国籍も年齢も全て不明の謎の人物。
7脚本
第一話
・「アガルタ」・それは、チベット仏教やヒンドゥー教に古代より伝わる伝説の地底都市の名だ・そこには人類文明よりも発展したテクノロジーが存在し、高度に進化した様々な種族が、争い合うこともなく平和に暮らしているという・かつてはナチスのヒトラーがそこにアトランティス人の末裔が住んでいると考え、彼らの叡智を手に入れるためにチベットに調査団を派遣した・地底都市の存在は長らく人類の憧れだった・しかし現在では、地面の底に理想郷があるなどという話はただの都市伝説として扱われている・アガルタなんてただの伝説だ・今では誰もがそう考えていた・しかし、現実は違った・地上では人々が日々の生活に追われている中、1万2000メートルの地下深くで、人ではない別の生命体が、美しい理想郷の中で平和な世界を築いていた・そこではある巨大な女神像の前で、白装束を身に纏った女性たちが、目を閉じて何かを祈っていた・女性たちの中には一人だけ年配の男性がいた・彼は他の女性たちとは違って、祭祀王であることを示す装飾をいくつか体に身につけていた・するとそこに突然、軍服を身につけて武器を所持した兵士らしき一団が、ズカズカと神聖な祭祀場に足を踏み入れてきた・祭祀王であるダルマ大師は、怒りを露わにして兵士たちを怒鳴りつけた・「おい!いくらあんたたちでもアガルタで最も神聖であるこの場所に土足で踏み入るとはどういう了見だ!?」・すると兵士を率いていたある一人の屈強な老兵が、力強い口調でここに来た理由を話した・「地上の情勢に変化があった。今すぐあんたらの力が必要だ。それも、まだ若く地上世界に対する先入観が全くない純粋な心を持った子供たちの力が」・ダルマ大師はその言葉を聞いてさらに怒りを爆発させた・「何ぃ!?よりによって子供たちを地上での任務に就かせると言うのか!?ふざけるな!!ただでさえお前たちの世界では今でも醜い殺し合いが起きているというのに、そんな危ないところに子供たちを行かせられるわけがないだろ!!!」・すると老兵は、落ち着いた様子で彼を説得した・「ダルマ大師、あんたとの付き合いは長い。私はあんたのことを心から信頼している。だからあんたも私のことを信じてくれ。地上に行っても子供たちには一切危険が及ばないと保証しよう」・しかしそれでもダルマ大師は納得しなかった・「危険がない?ますます怪しいな。お前たちの任務は常に危険が付き物だ。なんせ政府を相手にしているんだからな。教えてくれ。子供たちを地上に連れて行って一体どんな仕事をさせるつもりだ?」・二人の老人の鋭い視線が絡み合う・その緊迫感は、一人の少年の元気な声によって破られた・「それ本当か!?地上に連れてってくれるのか?」・二人が声のする方に目を向けると、そこには背が低い子供のアガルタ人アクーリアマッテが目をキラキラ輝かせながら老兵を見つめていた・「俺、いつか地上の世界を旅するのが夢なんだ!おっちゃん、俺も地上に連れてってくれよ!」・彼の言葉を聞いて呆れ果てるダルマ大師・「アック〜。何度同じことを言わせるんだ。地上がどれだけ危険な場所かあれほど教えたろ?」・しかしアックは引かなかった・「危険な場所でも別にいいんだ!俺、どうしても地上を見たいんだよ!」・二人の言い争いを黙って聞いていた老兵は、アックを睨みつけて質問した・「小僧…任務に乗り気なのは構わんが、あまり地上世界を舐めていると命を落とすぞ?地上で起きている戦争の話はこのアガルタにも伝わっているはずだ。それでも地上に行きたいという理由を聞かせてくれ。ふざけた返答をすれば、お前の地上行きは無しにする」・アックは最初驚いた顔をしたが、すぐに真剣な眼差しになって叫んだ・「危険だからってだけで、憧れの場所に行けないまま人生を終えるのは俺は嫌だ!俺は地上がどれだけ地獄のような場所でも別にいいんだ!それに俺は……こんな息の詰まりそうなアガルタで堅苦しいルールに従うんじゃなくて、自分の魂に従って生きたいんだ!!」・その言葉を聞いたダルマ大師は、忘れかけていた女神エレボルンの本来の教えを思い出した・エレボルンとは、古代よりアガルタで崇められていた偉大な女神のことだ・神話では地球を創生した女神であり、エレボルンの子孫がアガルタの初代祭祀王に就いたと伝えられている・エレボルンの教えは時代の経過と共に過去の権力者によって大きく改変されている・しかし女神エレボルンの直系であるダルマ大師は、口伝で伝えられていたエレボルンの本来の教えを知っていた・それでも、本来の教えは現在アガルタで通説とされている教えからは大きく逸脱した内容だったため、ダルマ大師は口伝の内容を世間に公表することを控えていた・アックの言葉を聞いたダルマ大師は、自分が世間体を気にするあまり、エレボルンの本来の教えから目を逸らし続けていたことを実感した・(自分の魂に従う……。そうか……、私たちはどうやらすっかり忘れていたようだ。この宇宙の全ての魂は、何事にも縛られない自由な存在だということを……!)・アックの主張を聞いた老兵は、突然大声で笑った・「何笑ってんだ!おっちゃん!!」・怒るアック・老兵は涙を流しながら彼に謝った・「いやぁすまんすまん、ついツボに入っちまったよ。なかなか面白い小僧だな。いいだろう、お前を地上に連れて行ってやるよ。だが、地上ではどんな目に遭っても決して泣き言を言うなよ?」・「本当か!?やったー!!」・アックは大喜びしながら町の方に駆け出して行った・ダルマ大師は慌ててアックを止めようとした・「待てぇ!アック!それでもわしは認めんぞぉ!!あんな危険な場所にお前を行かせられるかぁ!!!」・その後アックは、自分の自宅に帰って母親であるキリルに先程の出来事を教えた・するとキリルは、アックの地上行きが決定したことを喜んでくれた・「ま、地上に行くのはアックの小さい頃からの夢だもんね。母さんは止めないわ。でも十分気をつけるのよ。地上で暮らしている人類という種族はとても野蛮で凶暴なんだから」・アックは興味津々でキリルに聞いた・「人類が凶暴なのはもちろん知ってるけどさー、本当に地上には悪いやつしか住んでいないの?」・キリルはそれに答えた・「さあねぇ。母さんも地上に行ったことがないから、何とも言えないけど」・「でも父さんは地上に行ったんでしょ。で、人類に捕まって殺された……」・アックのその言葉を聞いて衝撃を受けるキリル・「あなた……どうしてそのことを?」・するとアックは申し訳なさそうに渋々答えた・「この間、父さんの書斎で遊んでたら、偶然見つけた新聞に書いてあって……」・キリルは膝をついてアックに向き合った・「アック…怖かったら行くのをやめてもいいのよ?誰も地上に行くことを強要したりしないわ」・アックは黙って床を見つめた・その頃、アガルタを出て地上の軍事基地に戻った軍の兵士たちが雑談をしていた・「しっかし司令官も物好きだな。あんなよく分からん地底人ともう30年以上は付き合ってんだろ?それも目的はハルマゲドンの阻止のため。どーせ人類はいつか滅びるんだ。こんな大して意味のない任務に就くよりも、残された時間を家族と過ごした方が有意義と思うけどなぁ」・もう一人の兵士が言った・「司令官はこれまで何度も地獄を見てきた。政府の企みについても知っている。あの人は元々正義感が強いから。俺たちには止められねぇよ」・すると部屋の奥にいた大柄な兵士が言った・「おい、お前ら知らねぇのか?軍の中には司令官や地底人のことをよく思わない連中も大勢いる。司令官が地底の奴らと絡んでいるのは正義感だけが理由じゃない」・「じゃぁ何でなんだよ?」・大柄な兵士は怖い話をする時のような表情で静かに言った・「俺たちの中に、政府に告げ口してる裏切り者がいるって噂だ。俺たちの仕事は政府にすら知られていない超極秘の任務。だが、その裏切り者が俺たちのしていることを政府にチクっていれば、俺たちだけでなく地底の奴らも全員政府に殺される。司令官は世界のためではなく、俺たちや地底人たちを守るために戦ってるんだ」・衝撃的な内容に一瞬部屋の空気が凍りついた・しかし、すぐにその場にいた兵士たちは大声で笑った・「ただの噂話だろ?そんなの!それが本当なら俺たちはとっくに政府に殺されてるっつーの!バカバカしい」・その頃、アメリカのワシントンD.C.にあるホワイトハウスの大統領執務室では、先程アガルタから帰還した老兵がウィルソン大統領と面会していた・「ビクトールホワイト。元ラグビー選手。現在76歳。ベトナム戦争に従軍後、その類まれなる身体能力を評価され、正式に軍に入隊。その後はデルタフォースに所属して我が国のために戦い続けた。君の経歴はこれで合ってるかな?」・「えぇ、大体は」・ビクトールは決して自分の感情を表に出さないようにした・自分の立場が大統領にバレれば、今までの努力が全て無駄になってしまう・「実は、君のこれまでの功績を讃えて、来週の土曜日にセレモニーを開こうと軍上層部が計画していてな。君の予定が空いていれば、ぜひそのイベントに出席してほしいんだが?」・ビクトールは頭の中で思案した・(来週の土曜日は、ちょうどアガルタの子供達を地上に連れて行く日だ)・しかしウィルソン大統領の機嫌を損ねて自分の立場を危うくするわけにはいかない・「分かりました。大統領」・それから1週間後の土曜日、アガルタから選ばれた子供達は、ビクトールの部下が運転する軍用車に乗せられて地上に向かっていた・その中にはアックも含まれていた・その頃キリルは、地上に旅立ったアックが無事に戻ってくるように女神エレボルンに祈っていた・軍用車の中では子供達が不安そうな顔でブルブル震えている中、アックだけがこの先に待ち受ける運命に対してワクワクしていた・「ねぇ、これから地上のどこに向かうの?」・アックにそう質問された見張りの兵士は、退屈そうな顔で答えた・「黙って座ってろ。別に取って食うわけじゃない」・助手席に座っていたビクトールは、心の中でこの後の計画を練っていた・(子供たちを一旦基地に置いた後、急いでセレモニーの会場に向かえば勲章の授与式には間に合うだろう。だが、我々がアガルタ人と接触していることは絶対に政府にバレてはいけない。そうなれば私の部下もアガルタ人も、そして我々人類の未来も終わってしまうかもしれない……)・その頃ワシントンD.C.では、セレモニーの開会式が行われていた・しばらくして地上の軍基地にアガルタの子供達を連れてきたビクトール・ただでさえ怯えている子供達の不安そうな顔を見たビクトールは、セレモニーに行く前に任務の詳細くらいは先に伝えておいてやろうと考えた・基地の中にある広い一室に子供たちを集めたビクトールは、子供たちに仕事内容を伝えた・「すでに伝えたように、君たちを地上世界に連れてきた目的は、君たちにある任務に就いてもらうためだ。安心しろ、任務の内容は簡単だ。君たちが持っているシェイプシフトの力を使って人間に化け、政府の主要施設に侵入してほしいんだ。そしてそこで得た情報を私たちに教えてくれ」・シェイプシフトとは、自分の体の形を物理的に変化させる能力のことだ・アガルタの住民は全員この能力を生まれつき持っているため、子供でも簡単に姿形を変えることができる・すると一人の女の子が震える声で質問した・「ど……どうして私たちみたいな子供がやらなきゃいけないんですか?大人の方がぴったりだと思うんですけど……」・ビクトールはギロリとその少女を睨みつけた・小さな悲鳴を上げる少女・「理由は単純だ。政府の中には大統領直属の超能力者部隊がいる。やつらの中には政府に楯突こうとする不純な魂の存在を察知することができる能力者もいる。だから政府の陰謀や地上世界の情勢について全く知識がない君たちのような子供を潜入させた方が都合がいいんだ。君たちは我々の正体についても知らない方が身のためだろう。分かったかい?お嬢ちゃん」・少女は涙を必死で堪えながら黙って頷いた・「さて、私もこの後軍のセレモニーに出なければいけないんでな。君たちとゆっくり話すのはそのイベントが終わってから……」・その時、ビクトールの部下が慌てて部屋に入ってきた・「司令官、大変です!アガルタのガキが一人、基地の外に逃げ出しました!」・ビクトールは落ち着いた様子で言った・「何を言ってるんだ?アガルタの子供ならここに全員……ん?」・ビクトールたちがアガルタから連れてきた子供は全部で13人・しかし冷静になったビクトールは、その部屋にいた子供の人数を数えてみた・そして彼はようやく気づいた・「ひ……一人足りない……。誰だ!誰がいない!?」・すると部屋に駆け込んできた部下が何かに気づいて言った・「そういや、さっき軍用車の中で俺に話しかけてきたガキの姿が見えねぇな。何だか故郷を離れるってのに妙にワクワクしてた妙なガキだった……」・その話を聞いてすぐにアックのことだと分かったビクトール・「あいつか〜〜〜!!!着いて早々問題を起こしおって〜〜〜!!お前ら!急いでそいつを探してここに連れ戻して来い!!政府に見つかったらあの子が殺されるだけじゃなく、この部隊の存在もバレてお前らの首が飛ぶぞ!!!」・その言葉を聞いて事の重大さを理解した部下たちは、急いで街に向かった・(アック……無事でいてくれ……!)・ビクトールは幼い地底人の子供の無事を神に祈った・その頃、ニューヨークの高層ビルを見上げてワクワクが最高潮に達していたアック・「ここが地上か〜!」
第二話
・エリザベスマーフィー・彼女はニューヨークのブルックリンで一人暮らしをしている大学生・大学教授になるという夢を叶えるために田舎から出てきたが、家が貧乏だったため毎日金欠に悩まされている・その日もエリザベスは、大学の講義を終えた後に、バイト先である小さな映画館に向かった・最近のニューヨークでは犯罪率が異常な程高まっており、女性だけで夜に外を出歩くことはとても危険となっている・それでもエリザベスは自分の生活費や学費を稼ぐため、夜遅くまで働き続けた・そしてバイトが終わったら、毎日一人で暗い夜道をアパートまで歩いて帰っていた・エリザベスが住んでいるアパートは街の中心からは少し離れた場所にあるため、人通りが多い場所に比べたら治安は悪いと言える・道端には物乞いをするホームレスや薬中になった廃人、薬の売人など関わったらヤバい奴らがそこら中にいる・最近では政府が受け入れた不法移民が殺人やレイプなどの事件を起こすことも多い・あまりにも犯罪件数が多いため警察の手には負えず、何かの事件に巻き込まれて警察に通報しても、現場に警察が駆けつけるまで15分以上かかる始末・自分たちの国がこんなに腐り果てているのは、全て馬鹿な政策ばかり行う政府のせいだ・今やアメリカ国民の誰もがそう思っていた・しかし政府は、国民の政府に対する疑惑の数々を陰謀論や都市伝説と呼んで隠蔽した・それでも最近は、政府内部からの衝撃的な告発が次々とネット上に拡散されていたため、国民の怒りは最高潮に達していた・エリザベスも例外ではなく、心の中でアメリカの行く末を憂いてはいたものの、日々の生活に追われてばかりで、政府に対するデモや集会には一切参加したことがなかった・大学の友人やバイト先の同僚は、政府が何かとんでもないことを企んでいると言っていたが、その噂がどこから発信されたものなのかは誰も知らなかった・今や真実と嘘が混在し、何を信じればいいのか誰も正確な判断ができない状態だった・今はディープフェイクなどのAIテクノロジーが非常に進化しているため、政府がその気になれば本物と区別がつかない偽動画や加工画像をネットにばら撒き、国民を操ったり扇動することもできる・エリザベスはなるべくそういった政治やイデオロギーが絡むことには関わらないようにしてきた・そうは言っても、エリザベスの母方の祖父は今でも米軍で士官として活躍している・エリザベスが彼と最後に会ったのは小学生の時だったため、祖父の記憶なんてほとんどなかったし、祖父の仕事について詳しいことは一切知らなかった・なぜアメリカがこんな酷い状態になっているのか、もしかしたら彼はその理由を知っているかもしれない・エリザベスはこれまでに、何度か祖父に連絡しようと考えたが、その度に何かしら口実を作ってそれを後回しにしてきた・エリザベスの周りでは毎日のように事件が起きている・それにも関わらずテレビのニュースでは、大統領や政治家たちが嘘八百を並べて誰にでも分かるような嘘を平気で公式声明として発表している・しかもメディアはそれを批判するどころかむしろ称賛し、嘘に同調していた・誰もがそんな政府に嫌気がさしていた・そうして、エリザベスの周りでは目まぐるしく日々が過ぎていった・ある日大学で友人とランチを食べていると、その友人がある噂話を語り出した・「ねぇエリザベス、最近この大学の近くに出没してるUMAの話知ってる?」・エリザベスはそれを話半分で聞いていた・「UMA?それって未確認生命体のこと?どーせまた政府がヤバい実験で生み出したとか言い出すんでしょ?」・すると友人は急に神妙な顔つきになった・「それが…噂ではそのUMAは軍の秘密施設から逃げ出したって言われてるのよ」・軍という言葉に反応するエリザベス・確かニューヨーク州の中にはいくつかの軍施設があったはず・エリザベスの脳裏に祖父の顔が思い浮かぶ・「そのアリみたいなUMAの後を、軍人が急いで追いかけてる動画がSNSで最近バズってたのよ!コメント欄は本当にUMAだって言う人とフェイク映像だって言う人で分かれてるの!」・「アリみたいなUMA?」・エリザベスの質問に、友人はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりにドヤ顔で説明しだした・「そう!目撃者が言うには、そのUMAはまるで、二足歩行した巨大なアリみたいな見た目だったって証言してるのよ!」・にわかには信じられなかったエリザベス・しかし彼女の頭の中では何か思い当たることがあった・(確か……アメリカのホピっていう先住民が似たような伝承を持ってたような……?)・その後、午後の講義を終えたエリザベスは自宅に真っ直ぐ帰ることにした・今日はバイトのシフトは入れていなかった・エリザベスは家に帰ったら少しアリ人間について調べてみようと思っていた・どうしてもさっきの友人の話が気になってしょうがなかった・すると、いつも帰宅する道の片隅にあるハンバーガー店の前に来た時、ある異変に気づく・いつもこの時間になると、店の前に生ゴミやプラスチックゴミが詰め込まれたゴミ袋が数個置かれているが、その日はなぜかいつもよりゴミ袋の数が少なかった・エリザベスは普段から治安が悪い場所に住んでいるからか、自分でも知らないうちに、日常の中で普段とは少しでも違う状況に出くわすと、それにとっさに気づけるという力が身についていた・現在の混沌と化したアメリカでは、街の違和感にすぐに気付けないことは命取りになる・エリザベスは目の前の違和感にとっさに気づいたが、ゴミ袋の数がなぜ少ないのかは分からなかった・その時、エリザベスの視界に何かが映った・その何かに目を向けると、それはハンバーガー店の店員が廃棄した傷んだレタスの切れ端だった・その奥には別の野菜が、さらに奥には期限切れで変色しているチーズが落ちていた・まるで何かが歩きながらゴミを落としていったように、それらの廃棄物は一本の道を作っていた・エリザベスは好奇心から、その跡を追うことにした・もしかしたら友人が話していたアリ人間かもしれないと、心のどこかで期待していた・道端に点々と落ちているゴミの跡を辿ると、狭い路地裏に辿り着いた・だんだん不安になってきたエリザベス・まだ日が沈んではいないが、こんな人気のないところで女子大生が一人でウロウロしているのは危険だ・エリザベスはヤバいことに巻き込まれる前に、さっさとここを離れようとした・その時、物陰からクチャクチャと何かを頬張るような音が聞こえた・エリザベスがこっそり覗いてみると、暗がりの奥では、謎の生物らしき存在がハンバーガー店から盗んできたゴミ袋の中の生ゴミを漁っていた・「ん〜、味はイマイチだけどまぁ食えなくはないな!」・英語を話すその生物の見た目は、まるで昆虫が二足歩行しているかのようだった・そう、先程エリザベスが友人から聞いたUMAの特徴に合致していたのだ・恐怖に駆られたエリザベスは静かに後退りしたが、足元に落ちていたピクルスに足を滑らせて尻餅をついてしまった・その物音に気づいて振り返ったUMAと目が合ってしまうエリザベス・その瞬間、エリザベスと目の前の謎の生物は二人揃って悲鳴を上げた・(ほ…本当だった……!アリ人間の話!とにかく、警察に通報して捕まえてもらわないと……!)・とっさにそう考えたエリザベスは、急いで街の方に戻ろうと走り出した・その時、エリザベスの目の前に3人組の大柄な男たちが立ちはだかった・「おいアニキ、こいつぁ上玉だぜ」「あぁ、きっと高く売れる」・エリザベスの顔は急に青ざめた・こいつらはきっと自分を人身売買業者にでも売り飛ばすつもりだ・近年のアメリカの裏社会では、人身売買で売られた女性や子供がその後、性奴隷や労働力として死ぬまで無理矢理働かされるという闇のビジネスが横行していた・(しまった!UMAに気を取られて全然気が付かなかったけど、ここ、よく見たらブラウンズビルじゃない!)・ブラウンズビルとは、ブルックリンの中で最も危険なエリアと呼ばれる地区だ・ここでは銃撃や強盗やドラッグなどあらゆる犯罪が蔓延している・カタギの人間が誰も近づきたがらないこの場所は、人身売買や臓器売買、麻薬の売人などの犯罪をビジネスにしている連中にとって格好の取引場所だった・「お嬢ちゃん、俺たちについてこれば一攫千金も夢じゃないぜ〜?」・恐怖のあまり足が動かないエリザベス・(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……!早くここから逃げないと………!)・するとリーダー格的な男が他の二人に命令した・「馬鹿野郎、んな誘い文句に今時のchick(若い女の子の意)が乗るわけないだろ。なぁお嬢ちゃん…少しの間眠ってもらうが心配はいらねぇ。目が覚める頃にはお前の新しい主人が仕事を与えてくれるはずだ」・そう言って男はポケットから何か液体が入った小瓶を取り出して、エリザベスの鼻にそれを近づけた・鼻をつくような悪臭がしたかと思うと、エリザベスの意識が遠のき始めた・(あ……ヤバい)・その時、エリザベスの背後から恐ろしい猛獣の唸り声が響き渡った・驚いた3人組が暗がりに目を向けると、そこには見たことない巨大な黒い塊が鋭い目でこちらを睨んでいた・その巨大な猛獣は鋭い牙を剥き出しにして今にも3人に襲い掛かろうとしていた・3人は恐怖に駆られ、情けない悲鳴を上げながらエリザベスを置いて逃げていってしまった・エリザベスは意識が遠のく中、目の前の巨大な猛獣が自分のことを心配そうに見つめている様子を確認した・その直後、視界が暗転した・その頃、ニューヨークのとある一角にある古い教会には、軍服を着た軍人たちが忙しそうに出入りしていた・教会の地下には、アメリカ軍の中でも屈指の精鋭のみで構成されたある秘密部隊「アンダーワーデン」の基地があった・地下の一室で、アンダーワーデンの司令官であるビクトールは部下からの報告をまとめていた・ビクトールの部下は政府の中枢に潜入し、政府が暴走しないように常に監視している・そのためビクトールのもとには、毎日部下たちが集めてきた政府の動きに関する大量の情報が舞い込んできていた・それらの情報が何を意味しているのか、そしてどのように利用すべきかを分析し、判断を下すのがビクトールの役目だった・その時、一人の部下が慌てた様子でビクトールのいる部屋に駆け込んできた・「大変です!司令官!!」・部下の慌てようからして良い知らせではないと察したビクトール・「どうした?」・「そ…それが、先日我々の基地から逃亡したあのアガルタ人の少年の映像が今ネットで拡散されており、そのことを政府がとうとう嗅ぎつけました!」・腹を一発殴られたような衝撃を受けるビクトールだったが、その感情を必死で抑え込み、平常心を装った・「分かった。政府よりも先にあの子の身柄を確保する必要がある。だが我々の存在が政府に知られるとまずい。我々だけでアックを探し出すんだ。地元警察にも決して悟られるなよ?それと、アガルタの子供たちがいる基地の警備の数をもっと増やしておけ。あの子らがいないと我々の戦略は成立しないからな」・「ハ!」・ビクトールは普段は温厚な老人だが、それでも彼が遂行する危険な任務に部下たちがついてきてくれるのは、どんな不利な状況でも冷静に物事に対処するビクトールの鋭い判断力と強いリーダーシップがあるおかげだった・ビクトールは一瞬、アックが行方不明になったことをアガルタの人々に伝えておくべきかと考えたが、自分たちがアガルタ人と接触していることをこれ以上政府に知られると、犠牲者は一人や二人では済まなくなる・そう考えたビクトールは、余計な心配をかけないようにこのことは彼らには黙っておくことにした・その頃アガルタの人々は、地上に連れて行かれた子供達の無事を、女神エレボルンに必死で祈っていた・ブルックリンの路地裏にある暗がりでは、エリザベスがようやく目を覚ましていた・すると目の前にクリクリした巨大な黒い瞳を持った謎の生物が自分を見つめていた・「きゃあっ!?」と悲鳴をあげるエリザベス・急いでその生物から距離を置くが、エリザベスの記憶は混乱していた・「た…確かあなたは、ハンバーガー店の生ゴミを漁っていたアリ人間!?でも…さっきあの3人組を追い払ったのはもっと大きかった、何かの猛獣みたいなやつ……一体どういうこと?」・すると目の前のアリ人間はニコッと笑ってこう言った・「あぁ、じゃあもう一度見せてやるよ!」・その瞬間、小柄なアリ人間の体がグニョグニョと変化し、先程の巨大な猛獣の姿にあっという間に変身した・「え…えぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!??」・驚くエリザベス・すると今度は、猛獣の体が縮んで小柄なアリ人間の姿に戻った・「これ、シェイプシフトって言うんだ!アガルタに住んでいる俺たちは皆子供の頃からこれができるんだぜ!」・これは夢かと疑うエリザベス・「ち…ちょっと待って。今サラッと聞き捨てならない単語が出てきたんだけど……アガルタってなんのこと?」・その質問にアリ人間は平然と答えた・「アガルタは俺たちの故郷だよ。この地面の下にあるんだ。ねーちゃん、そんなことも知らねーのか?」・(いや、そんな常識でしょ?みたいな感じで言われても……)・エリザベスは目の前の謎の生物が言ってることが本当なのかどうか図りかねていた・「まさか…そのアガルタって、世界中に伝わるあの地底都市の………?」・するとアリ人間は改めて自己紹介をした・「俺の名前はアクーリアマッテ!長いから皆にはアックって呼ばれてる。実は今地上を観光中なんだ!なぁ、ねーちゃんって人類なんだろ?なんかオススメの場所とかあったら教えてくれよ〜」・完全に意味不明な状況に巻き込まれてしまったエリザベスは、とりあえず大学の友人にあとで自慢するため、アックと一枚記念写真を撮った
第三話
・夏の観光シーズンになり、ニューヨークにも観光客の姿がちらほら見え始めた・しかしニューヨークの治安が過去最悪なことはすでに世界中に知れ渡っていたため、観光客の数は例年に比べて激減していた・ここ最近ニューヨーク州内では、軍服を着て武装した兵士の姿がやけに頻繁に目撃されていた・巷では、先日軍基地から逃げ出したUMAを探しているという噂が飛び交っていた・それと同時に一部の熱心な陰謀論者の間では、UMAの正体は政府が極秘に生み出した生物兵器であり、噛まれたらゾンビ化する、見ただけで命を落とす、実は逃げ出したのは一匹だけではないなどの、根拠の無い噂話が一人歩きしていた・今やニューヨーク全体がUMAの話題で持ちきりだった・エリザベスはその日もいつものように大学に講義を受けに来た・午前の講義が行われる部屋でいつもの席についた途端、後ろから急に名前を呼ばれてびっくりするエリザベス・声の主はエリザベスの親友であるアンナスチュアートだった・生まれつき病弱な彼女はとても聡明な女性で、エリザベスが知る中で陰謀論に振り回されない数少ないマトモな人間の一人だった・しかしエリザベスは、彼女は体調が悪化したと言い1ヶ月前から大学に来ていなかったため、てっきり今日も姿を見せないと思っていた・「あ…アンナ!?体はもう大丈夫なの?」・エリザベスがそう聞くと、アンナはニコッと笑って言った・「えぇ!この前母さんの知り合いが良い病院を紹介してくれて、そこでもらった薬を飲んだらだいぶ楽になったわ!」・「そう…良かったね」・エリザベスはそう言ったものの、アンナの顔色が前よりも良くないことに気づいていた・アンナはエリザベスとは違い実家暮らしだが、アンナの家がアメリカの高額な医療費を支払えるほど裕福な家ではないことはエリザベスも知っていた・エリザベスはアンナを何とか元気づけようとしたが、逆にアンナが心配そうな顔でエリザベスに話しかけた・「エリザベス、聞いたわよ。あなた、ブラウンズビルで襲われたって……何であんな危ない場所に行ったの?」・エリザベスはギクリとした・UMAを追いかけてたら知らずに迷い込んだなんてとても言えなかった・「い…いや、偶然路地裏に入り込んじゃって……それに私は襲われてないから大丈夫よ。ただ眠らされそうになっただけ」・それでもアンナの心配そうな表情は消えなかった・「最近この辺でよく軍人も目撃されてる。何かを探してるみたいだけど、あんまりそういうところに出入りしてると、あなたまで変な濡れ衣着せられて捕まっちゃうわよ。政府はもう私たち国民のことを助ける気なんてないんだから!」・「えぇ……分かってるわよ」(こりゃ……あいつのことがバレたらきっと私もブタ箱行きね)・そう心の中で呟きながら、エリザベスは1週間前の出来事を思い出していた・エリザベスの回想(1週間前)・アクーリアマッテという変わった名前を名乗る謎のUMAと出会ったエリザベスは、こんなやつは放っておいてさっさと家に帰ろうとしていた・するとアックが独り言を言い始めた・「あぁ、お腹すいたなぁ」・小さな生命体が発したその悲しげな声に思わず反応してしまうエリザベス・「ここの食べ物、全然腹膨れないしな…このままじゃ俺、餓死しちゃうかもなぁ」・エリザベスはその声を無視して先に進もうとするが、アックはさらに話し続ける・「俺、ねーちゃんが作る美味いご飯が食いてーなー」・我慢できなくなったエリザベスが横目でアックの方をチラリと見ると、アックはキラキラしたつぶらな瞳でこちらを見つめていた・「くっ、そんな目で私を見るな!!ま…眩しい!純粋で無邪気な生き物の瞳が眩しいぃ!!!」・その数分後…・「へー、ここがねーちゃんの部屋かー!」・アパートにあるエリザベスの自室にやって来たアック・(け…結局連れて帰っちゃった……)・するとアックは面白がって部屋の中を物色し始めた・「おぉー、これ何だ?カッケー!」・「あー!それは大事なものだから触ったらダメぇ!」・しかしアックはエリザベスの言うことを聞こうとせず、引き出しの中を勝手にのぞいたりクローゼットを勝手に開けたりしていた・「いい加減にしなさい!UMAのくせに!」・それでもアックは懲りずに部屋を荒らしていた・「この引き出しには何が入ってんだ?」・アックがその引き出しを開けると、そこには拳銃が入っていた・これと同じような武器をアガルタに頻繁に出入りしていた兵士たちが持っていたことを思い出したアック・エリザベスは急いで引き出しをバタンと閉じた・するとアックは少し怯えた顔でエリザベスを見つめた・「もしかして…ねーちゃんも誰かを殺したりするのか?」・エリザベスは最初何を言い出すのかと思ったが、引き出しの中の拳銃を見て驚いたのだろうと考えた・「バカね…私がそんなことするわけないでしょ?護身用に持ってるだけよ。この国では常識だわ。だけど、あなた何で拳銃のこと知ってんの?」・アックの怯えた表情は変わらなかった・エリザベスはそんなアックを見て考えを変えた・「アックって言ったわよね?ねぇアック、私は誰も傷つけないし、あなたをここから追い出したりもしないわ。だから、どうしてあなたがこんなところにいるのか教えてくれる?」・するとようやくアックは先程の無邪気な笑顔を取り戻した・エリザベスは気を取り直してアックに言った・「じゃあ、そこの椅子に座って待ってて。今何か夕飯を用意するから」・するとアックは大喜びした・「やったー!ねーちゃんの料理が食べれるぞー!」・その数分後、アックの目の前のテーブルにはエリザベスがデリバリーで頼んだハンバーガーが二人分置かれていた・「これ…ねーちゃんが作ったのか?」・そう聞かれたエリザベスは適当にはぐらかした・「ま…まぁ、まずは食べてみたら?それはアメリカでもトップクラスの美味しさだから!」(あんだけ手作りを期待された後だと、実は私料理しないのなんて絶対言えねー)・しかしハンバーガーを一口かじったアックは目を輝かしていた・「うんめぇー!地上の食い物ってこんなにうめぇのかー!?」・(どうやらそれがジャンクフードとは気付いてないみたいね)・エリザベスは話題を変えることにした・「それで、あなたがアガルタから来たってのは本当なの?」・アックが答えた・「本当だぜ。嘘だと思うんなら今度連れてってやるよ!」・エリザベスに真剣な眼差しで見つめられて困惑するアック・「な…何だよ?まさか嘘だと思ってるのか?」・その直後、エリザベスは両手を広げて大喜びした・「やったーーーーー!!!やっと地底世界の証拠を見つけたぞーーー!!よっしゃーーー!!!」・エリザベスの意外な反応を見て驚くアック・「ねーちゃん、アガルタを探してたのか?」・するとエリザベスは顔を輝かせて熱弁した・「何言ってんの?探してたのは私だけじゃないわ。アガルタは世界中の人類の憧れの場所よ!私の場合はただの趣味だけど、色んな文献や資料を読んで、地底都市が存在することには前々から確信を持ってたわ!でも誰も信じようとしないし、私にはアガルタを調査するためのお金もない。大学の講義とかバイトに追われて夢を諦めかけてたけど、あなたに出会えた!最高よ!まさか本物の地底人に出会えるなんて!」・一人で勝手にテンション爆上げになっているエリザベスを見て、アックも思わず笑顔になった・「人類っておかしな種族だな」・それからエリザベスは、アックに地底世界のことについて一晩中質問攻めにした・アックは人類と話すのは初めての経験だったが、エリザベスは危険な人間ではないと感じていたため、完全に心を開くようになっていた・すると、アンナの声で物思いから引き戻されるエリザベス・「何ボーッとしてるの?授業始まるわよ?」・午前の講義が終わった後、久しぶりにアンナと昼食をとることにしたエリザベス・しかしエリザベスは、見れば見るほどアンナの顔色が前よりも悪くなっていることに気付いた・アンナは自分の顔色などお構いなしに明るく振る舞い続けていた・エリザベスは思い切ってアンナに聞いてみた・「ねぇアンナ。体調が良くなったっていうさっきの話、本当なの?」・アンナの顔から笑顔が消えた・「アンナ、私たち親友でしょ?辛いことがあったら遠慮せずに言ってよ!私も一緒に解決策を考えるから!」・アンナはエリザベスを見つめ返した・「エリザベス、あなたの気持ちは嬉しいわ。ありがとう。あなたの言う通り、私の体調はちっとも良くなってないし、いい病院が見つかったっていう話も嘘。でももういいの。治らないことは前から知ってたし。大学を休むことはこれからもあると思うけど、エリザベスが友達でいてくれるだけで私は幸せだから」・それでもエリザベスは納得できなかった・するとアンナはエリザベスに何かを渡した・それは小さなアクセサリーだった・「大学を休んでる間にいい病院を探してメキシコに行ったの。そこでかわいいアクセサリー買ったから、エリザベスにあげるわ。今日はちょうど7月30日だしね!」・アンナはウインクをした・7月30日は「国際フレンドシップ・デー」という世界的に有名な非公式の祝日だった・だがエリザベスは申し訳なさそうな顔でアンナに謝った・「ごめん、アンナ…。私、実は金属アレルギーで……」・アンナは思い出したように言った・「そういえば前にそんなこと言ってたわね。全然気にしないわよ、心配しないで!」・その日の帰り道で、エリザベスは考え続けた・アンナを助けられる方法が何かないのか・あんな気のいい友人が苦しんでいるのに、放っておくわけにはいかなかった・そんなエリザベスの後を、謎の人影が尾行していた・アパートの自室に戻ったエリザベスは、部屋に入った途端大声で叫んだ・「はぁああぁ!?嘘でしょぉ!!!??」・部屋ではアックが大量のハンバーガーを一人でむしゃむしゃ頬張っていた・「どーしたのよ!?そんな大量のハンバーガー!!」・アックは口の周りにケチャップやら何やらをつけまくった状態でモゴモゴ話し始めた・「ねーちゃんの声で電話して頼んだ!」・「!!!??………嘘でしょ!?」・エリザベスは、後日恐ろしい金額の請求が届くことを覚悟した・するとアックは、エリザベスが自分の指先をポリポリ掻いていることを不思議に思った・「なぁ、指痒いのか?」・「あぁ、ただの金属アレルギーよ」・エリザベスは子供の頃から極度の金属アレルギーを持っていたため、ドアノブや硬貨に触れるだけで体に発疹や痒みが出るのが日常だった・それを見たアックは、自分の手のひらをエリザベスの体の前にかざした・その時、エリザベスの体から発疹や痒みが消えてなくなった・それだけではない・連勤続きだったバイトで溜まっていた体の疲れも一瞬で消えたのだ・信じられないくらい体が軽くなったことに驚きを隠せないエリザベス・「一体、何をしたの!?」・アックは笑顔で答えた・「ねーちゃんの周波数を少し上げただけだぞ。前にダルマのじぃちゃんからやり方を教えてもらったんだ!」・エリザベスにはそのダルマという人物が誰かが分からなかったが、それよりも重要なことに気付いた・「もしかして、その力で病気を治すこともできるの!?」・アックは平然と答えた・「当たり前だろ?アガルタではこのやり方で病気とか怪我を治してるんだから。まぁ、これを使えるのはダルマのじぃちゃんみたいな祭祀の人たちだけだけどな。俺は特別にこっそりやり方を教えてもらったけど…」・それを聞いた瞬間、エリザベスはアックに一言断って、彼の体をリュックに押し込んだ・「な……何すんだよー!」・「ごめん!ちょっとあなたに診てほしい人がいて!」・エリザベスは赤い夕日に照らされたブルックリンの街に飛び出した・そして全速力で親友の家に向かって走った・そんな彼女を、再び謎の人影が監視していた・「やはり彼女だ。陛下に連絡しろ」・その頃ブルックリンの片隅に佇む一軒家では、アンナが小さなナイフで自分の腕に小さな傷をつくっていた・病気の苦しみに耐え続ける中で、いつの間にかアンナにはリストカットという悪い癖がついていた・リストカットのことは親にも友人にも誰にも伝えていなかった・もちろん一番の親友であるエリザベスにも・その時、家のインターホンが鳴ったと思ったら、アンナの母親の声がした・「アンナぁ!エリザベスちゃんが来てるわよ!」・アンナは急いで服の袖を元通りに直して傷跡を隠した・アンナがエリザベスを迎えると、エリザベスはなぜか慌てた様子だった・「アンナ、あなたの部屋に入れて。今すぐ!」・アンナは言われた通りエリザベスを部屋に入れた・「どうしたの?そんなに慌てて。それに、その後ろの大きなリュックは何?」・エリザベスは安堵した様子でリュックのファスナーを開けた・するとリュックの中から見たことない奇怪な生き物が顔を出した・それを見たアンナは叫び声を上げようとしたが、エリザベスが咄嗟に彼女の口を手で塞いだ・「大丈夫!こいつは危険じゃないから!」・エリザベスの言葉を聞いて落ち着きを取り戻すアンナ・エリザベスは事情を全て説明した・しかしアンナはまだ疑っている様子だった・「その子が地底人だってことはまぁ百歩譲っていいとして、何でその子が私の病気を治せるって分かるの?」・エリザベスは、珍しくアンナが少し機嫌を壊していることに気づいたが、それを無視してアックに頼んだ・「さぁアック、さっき私にやったみたいに、アンナの病気を治して!」・するとアックはムスッとした様子で言った・「嫌だね!」・驚くエリザベス・「何でよぉ!?まさか、ここに無理矢理連れてきたこと怒ってんの?」・アックは言った・「そうじゃねぇよ。何か…ポケモンみたいに命令されるのは嫌なんだよ」・「あーそういうこと……って、何でアンタがポケモンのことを知ってんのよー!!?」・突っ込むエリザベス・「地上の兵隊がたまにアガルタでポケモンのゲームをやってるから知ってんだよ。ポケモンゴーって言ってたような…」・エリザベスは苦笑いをした・「いや、地底世界でポケモンゴーってできるもんなの?」(というかさすがすぎる…日本のアニメコンテンツ!)・すると二人のやりとりを聞いていたアンナは少し機嫌を直したようだが、親友の気遣いを再び断った・「エリザベス、あなたが私のことを本気で助けようとしてるのは本当に嬉しいわ。でも、私はもう死ぬまでこの病気と一緒に生きていくって決めてるから。それにその子のことが警察とか軍にバレたら、あなたどうなるか分からないわよ!?この子には悪いけど、今すぐどこかに捨てるべきよ!」・親友の忠告を聞いたエリザベスは一瞬迷ったが、それでもアックを見捨てることはできなかった・「確かにあなたの言う通りよ。でも、こんな小さい子供が困ってるのに、見捨てることなんてできないわ!!!」・エリザベスのその言葉を聞いたアックは、アンナの体に手をかざした・その直後、アンナは何か不思議な力で自分の体が癒やされていくのを感じた・これまで一人で抱えてきた痛みや苦しみや不安やストレス、体と心の全てのダメージが一瞬で消え去った・エリザベスは驚いた様子でアックを見つめた・アックはニコッと笑って言った・「これくらいどーってことねーよ。ねーちゃんめちゃくちゃ良いやつだから、ハンバーガーくれたお礼だ」・その瞬間、アンナがエリザベスにハグをした・アンナは涙を流してエリザベスとアックに感謝した・「エリザベス……あなたが私の親友で本当に良かった!感謝しても仕切れないわ!疑って本当にごめんなさい……!」・アンナに釣られて涙を流すエリザベス・「全然気にしないわよ、心配しないで!」・それからエリザベスとアンナは、アックの存在を二人だけの秘密にした・アックが故郷の世界に帰る時まで、彼を守り抜くと誓うのだった・その頃、ワシントンD.C.のとある豪邸で、一人の男が電話で話していた・「そうか…やはりアガルタは本当に存在したんだな。このことが世間に知れ渡ったら、世界中がパニックに陥ってしまう。何より、我々の長年の計画も台無しになる。何としてもそのアガルタ人を捕獲しろ!」・すると電話の相手が恐る恐る質問した・「アンダーワーデンの連中はどうしますか?」・「そのまま泳がせておけ。放っておけば奴らの方から手の内を明かすだろうさ。とにかく、世界にハルマゲドンを引き起こすにはまだ障害がいくつもある。全て排除しろ。これは陛下直々のご命令だ」・電話を終えると、男は大広間の壁に刻まれた巨大な紋章に目を向けた・それは、建国当初からアメリカ合衆国を裏で操ってきた謎の組織「フリーダム」のシンボルだった
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