この関係に名前をつけるなら
ここ数年、もう来ないかもしれない連絡を、ずっと待ち続けている。
相手は私の連絡先を知ってるけど、私は知らない。
だから、私は待つことしかできない。
昔付き合っていた人からの連絡を。
好きとかそういう感情は、さすがにない。
もう何年も前のことだし、何年も会ってない。
街ですれ違っても、たぶん気づけない。
それでもいまだに、心のどこかでずっと待っている自分がいる。
まさか私がこんな記事を書いてるとは。
全く予想もしてないんだろうな。
痛い女やと思うやろな。
どうか、気づかれませんように。
気づかれるわけないけど、一応祈っとこう。
彼と付き合っていたのは、大学生の頃。
今までで一番、素でいられる相手だった。
バカみたいに毎日一緒にいた。一緒にいすぎた。
結局、くっついたり離れたりを繰り返して、普通に別れた。
ただのよくある青春の1ページ。
別れた理由とか場所とか、この人のだけはなぜか完全に記憶にない。
頭が勝手に自分を悲しみから守ろうとして、記憶を抹消した説。
人間の脳はよくできている。笑
別れてからも顔を合わせることは何度もあったけど、なるべく避けるように行動して、会話も一切しなかった。
なのになぜか、LINEだけはたまに送られてきた。
別れて最初にLINEが来たのは、
「新しい彼女ができたんやで」
その後もたまにLINEをしてきた。
「就活どうなん」とか
「資格試験合格おめでとう」とか。
別れた後、お互いに別の人と付き合った。
私たちの思い出は、どんどん上書きされていく。
それも全部わかってて、たまに来るLINE。
周りは会話もしない気まずい関係だと思ってる。
水面下で、LINEで話す。
そこに意味はあったのか。
彼の真意はいまだにわからない。
気まずい関係が解消されたのは、卒業の時だった。
「今までごめん。」
握手をして、二人で泣いた。
飲み会の途中、彼をつかまえて手紙を渡した。
今までごめんっていう手紙。
彼は「今読んでいい?」と子どものようにワクワクしながら私に聞いて、その場で読み始めた。
恥ずかしくなって、彼が読み終えるまでにその場を離れた。
たぶんそれが最後。
それ以降、彼とは一度も会っていない。
数日後、彼は「迷ったけど」とLINEで手紙の返事をくれた。
私はその長いLINEを何回か読んだ後、トークルームも連絡先も削除した。
彼とのことは、これでやっと完結した。
そんなつもりで。
卒業して2ヶ月後。
「お誕生日おめでとう」
送れないはずのLINEを彼に送った。
共通のLINEグループから連絡先を再追加した。
衝動を抑えきれなかった自分が怖い。
「覚えててくれたん。ありがとう」
返事がきた。
また1年後。
「お誕生日おめでとう」
1年前と同じ。
なぜか送ってしまう。
「覚えててくれたん。ありがとう」
また返事がきた。
その後、私の恋愛事情を聞かれた。
風の噂で私が恋人と最近別れたことを知っていたらしい。
だから私も、ついでに聞いてみた。
「好きな人おらんの」
「おらんよ」
そう言われた。
「じゃあチャンスなん」
そう言ってみると
「俺はそういう気持ちはないねん。思わせぶりにしてたんやったらごめんな」
と大真面目にフラれた。
自分でもいまだに、なぜあんな言葉を投げたのかわからない。
嘘つけ!!と絶対に言われるが、当時、別に好きという感情はなかった。
いやこれだけはまじで。信じてくれ。
嫌いじゃない。
でも恋愛感情はもうない。
復縁なんて想像もできない。
ただ私はどうしても、お互いが特別な関係だと思い込んでしまっている。
その気持ちからどうやって抜け出せばいいのか、いまだにわからないでいる。
病気みたいなもん。
どうしようもない。
特別だと思い込んでいる理由。
それは、付き合ってた時のことも、話さない期間も周りには内緒でLINEしてたことも、卒業の時に和解したことも、全部の思い出が美化されすぎてるから。
しかもなんか、私だけじゃない気がしてしまう。
アホみたいや。
それから私は、今度こそ連絡先を消した。
共通のグループLINEも退会した。
誕生日おめでとうも、やめた。
その年の冬。
彼から突然の着信履歴。
ほら。
そういうことするから勘違いするねん。
戸惑った。
でも、嬉しかった。
なんの用か知らんけど。
いきなりかけ直すのは怖かったので、とりあえずメッセージ。
「どしたん」
「電話かけていい?」
秒でLINEが返ってきたので、電話に出てみた。
「今、好きな人に告白してきた。
返事は保留にされた。
これ、いけるやつやと思う?」
いや、ん?
どういう状況、これ。
好きな人に告白した直後に、わりと複雑めな関係性の私に電話かけてくるその思考回路を教えてくれたまえよ。
お相手のことは全く知らない。
でもとりあえず色々相談に乗った。
何回も、電話もした。
ずっと意味わからん状況。
でも、嬉しかった。
だってこの状況。
他にもいっぱい連絡できる人おるし、元カノも何人もおるのに、その中でも私って。
やっぱなんか特別?って思ってまうやん。
すぐ話聞いて欲しいから、他の人にも片っ端から連絡したけどたまたま一番にレスポンスあったのが私やっただけかもしれんとか、言わないで。笑
やとしても、候補の一人に入ったことは事実やんな!
私、アホやねん。許してくれ。
でもこのやりとりは、突然終わりを告げる。
その理由。
一つは、告白した相手が近々誕生日だという話を聞いていたら、偶然にも私と同じ誕生日だということが発覚して、ついでのような「おめでとう」を言われたから。
(でも私の誕生日を覚えててくれたことは嬉しかったし、そんな偶然あるか?とまた特別を感じてしまったりした。アホな自分。)
もう一つは、相談に乗って欲しいから会えないかと言われ、私は普段やりもしないのに髪を巻いて、わかりやすく気合を入れて準備してたのに、告白相手の友達に相談できることになったという理由で当日ドタキャンされたから。
ここでようやく目が覚めた。
よく考えたら、私は告白した相手のことも知らないし、その子と彼の関係性も知らないし、いけると思う?って聞かれても、わかるわけないだろ。
脳内お花畑の私は、ただ、彼と連絡が続くことが嬉しくて、内容なんてどうでもよかった。だからそんなことにさえ気づかなかった。
「今さらやけど、
たぶん相談相手間違ってると思う」
ドタキャンLINEにそう返信して、数週間に及ぶやりとりを終えた。
ちょっと、寂しかった。
次に彼から連絡が来たのは、その2年後の夏。
忘れた頃にやってくる。罪な男。
「元気?」
それだけだった。
何かあったのかと聞くと、何もないと言う。
他愛もない話を少しだけして、1週間ぐらいで自然とLINEは返ってこなくなった。
それが最後。
あれから1年が経とうとしている。
彼の真意はいつだってわからない。
彼が私をどういう存在だと思っているのかもよくわからない。
それでも私は、また彼からいつか連絡が来るんじゃないかと、いまだにずっと待ち続けている。
自分でも、馬鹿みたいだと思う。
でも、美化された思い出の上に、あの突然の着信から始まった不思議なやりとりが重なってしまったがために、もう私は抜け出せない。
どう考えても、私の中では特別な人になってしまった。
殿堂入り、的な。
我ながらさすがにキツいな。
彼の近況は全く知らないけど、
次に連絡が来るとしたら、
「結婚することになった」
という報告だと思う。
なんとなく。
もしそうだったら、
「おめでとう」
それだけ言って、LINEを終えたい。
そこでようやく思い出になる気がする。
(なってくれんと一生痛い女のままや…)
この関係に名前をつけるなら
ただの、「元恋人」か。
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