悪夢


「駅とかに音声案内ってあるじゃん。こちらは多機能トイレです、とかいうやつ。俺あれが滝のおトイレって脳内で変換されてさ、それ以降それ聞くたび笑っちゃうんだよね」

 なんの脈絡もなく、隣にいた人物がそう話し出した。一体何を、と思って声の方向を向くと、ガイコツがいた。

「食レポするアナウンサーってさ、口に入れてすぐ感想言うじゃん。だから多分、アナウンサーって舌じゃなくて、口に入れた瞬間から味が感じ取れるように進化してるんだと思うんだよね」

 ガイコツはまたわけのわからないことを言い出した。俺は今ある現状が全く理解できず、とりあえず右手に握りしめていた虹色のファンシーな棍棒でガイコツを殴り飛ばした。

 ボウリングを思い起こすような快音が鳴り響き、ガイコツはバラバラに吹き飛んだ。すると脳内にウ○ースポーツのボウリングでストライクを取った時の音が流れた。
 これって殺人なのか、と思いながらその頭部に近づくと、ガイコツは顎をカチカチ鳴らし、何か話そうとしているようだった。外れかけている顎の骨を、力いっぱい押して元に戻した。

「知らぬ地に ほそき暮らしの しゃれこうべかな」
 プレ○トで培った俳句能力を持つ俺は、その耳の垢を丸めただけのような俳句に耳を貸さず、その顎をもう一度外した。

 周囲を見渡すと、どうも見たことがあるような景色であった。寂れた国道、広い駐車場、吊り広告をつけた大きな建物。
 もしやここは。そう思い、半分消えかかっている建物の文字に目を凝らした。J U S C O。その文字は、そこがかつてのジャスコであることを知らせていた。

 大きな入り口を見つけたものの、そこから入ることは躊躇われた。何故なら老人がそこで肩を叩いてもらっていたからだ。
「ありがとうな、けんちゃん。わしゃ幸せものじゃ」
 割れたガラスの散らばる地面にカゴを置き、その上に座っている老人はまさに幸せそのものであった。何人も、その幸せを邪魔立てしてはならない。
 なぜなら老人の後ろに立つ「けんちゃん」は、どう見てもカイ○キーだったからだ。誰だってばくれつパンチを食らってピヨって自滅はしたくない。

 どこか入れる場所がないかと周りを見渡すと、そこから少し離れた場所に大きな穴が空いていた。どうもフードコートのようで、テラス席だったであろう場所に赤とか黄色とかのバカみたいな色の瓦礫が散らばっていた。
 そこから中へ侵入すると、二人の男が立ち塞がった。ドナ○ドとカーネルサ○ダースだった。

 和服を着たドナ○ドが、ゆっくりと脇差を抜いた。
「にいちゃん、あんたも欲しいのかい。スマイルがよォ...」
 それに対して、むちゃくちゃでかい剣を肩に担いだ、ベルセ○クのガッ○みたいなカーネルサ○ダースは何も言わず、鼻歌を歌っているだけだった。それはなんだか心地の良い歌だった。

 俺が戦う意思がないことを伝えようとすると、ドナ○ドが切りかかってきた。
「朝マックは終わりましたァ!」
 鋭くながいポテト(イギリスのアーチー君が、後にジェフと命名してギネス認定される長いやつ)が、振り下ろされる────
 避けられない!そう思った瞬間だった。

「喝!」
 その声と共に衝撃波が起こり、ドナ○ドは吹き飛ばされた。サブ○ェイのカウンターから出てきたのその声の主は、張○勲だった。

「あいつ、俺のパティ倍の斬撃を喰らっても生きてやがったか...」
 そう言うと、ドナ○ドは腰巾着からビッグマ○クを取りだし、ひとかじりして身体を癒してから、張○に向き直る。
 決して交わることのない二人が、相手の殺気のかけらでさえ逃さんと目を光らせ、空気を辛くした。
 チャンスだ!そう思って、背後の刀がぶつかり合う音を無視してダンジョンの奥へと走り出した。

 全然知らないブランドの安い靴ばかり売っている店のあたりまでくると、もう金属音さえ聞こえなくなっていた。胸を撫で下ろすと、どこからか鼻歌が聞こえてきた。
 この鼻歌は...
 目を向けると、エスカレーターから、ゆっくりゆっくりとカーネルサ○ダースが身体を表した。
 そうだこの歌は...この歌は8.6秒バ○ーカだ!

「私にはわかったんだよ...ラッ○ンゴレライの意味がね...」

 あんな大きな鉄塊で切り付けられたら、ファイナルデッ○コースターぐらいグロテスクな死に方をしてしまう。
 そう思って、棚にあった瞬○に履き替え、おれは走り出した。

 なんだかコーナーで差をつけられそうなこの靴は走りやすく、あっという間に屋上に着いた。しかし逃げ場はない。
 すると遠くから音が聞こえた。ヘリだ!ヘリの音だ!
 その方角を見ると、ヘリから先ほどのガイコツがこちらに手を振っていた。

「オタクにだけ優しいギャルは居ないけど、誰にでも優しいギャルはいるよなァー!」
 ガイコツは拡声器で俺に問いかけた。
 しかしその瞬間、とてつもない悪寒がした。その正体はすぐにわかった。そのヘリの側面に、青で縁取られた黄色のロゴがあったからだ。そう、それはCAPC×M製のヘリだったのだ。CAPC×M製のヘリは大体墜落する。
 そのヘリもちゃんと墜落した。メーデーメーデー!牛丼っていろんな種類試しに食べてみるけど、最終何も乗ってないノーマルの牛丼に戻ってくるよなァ!と言うガイコツの最後の言葉が耳にこびりついて離れなかった。何故なら俺はかつおぶしオクラ牛丼が好きだったからだ。

 俺は追い詰められた。階段からは、ちょとまてちょとまてお兄さん、と言う声が聞こえてくる。
  ここまでか...。そう思った瞬間、青いものが目に入った。どうやらそれは先ほどのヘリが落としていったようだった。
 ええいままよ!そう思い、青い缶を飲み干した。

 スパイダーフラッシュローリングサンダーという声と共に、ヤツが扉ごと叩き切って現れた。だがもう遅い。俺には、俺には翼があるのだ!
 その缶には確かに、レッド○ルという文字が認められた。

 ちょちょ、ちょっとまって、うぉにさん!と叫ぶヤツを残して、俺は空を羽ばたいた。多分俯瞰でみたらアニメのエンディングとかに使われそうだな、とか考えていた。

 それから長い年月が流れた。あの時の出来事が現実かどうか、今でもわからない。だがあのハンバーガーチェーン店を見るたび、あのチキンの店を見るたび、日曜のあのニュース番組を見るたび、あのことを思い出す。
 あれはおそらく、私の心の中にあった不安が見せた幻なのだろう。きっとそうだ。私は牛丼チェーンによって、かつおぶしオクラ牛丼を頼みかけたが、ノーマルの牛丼を頼んだ。

 真実かどうかなんてわからなくても構わない、帰ろう。暖かい我が家へ。脳内にガイコツの声がひびく。
 学園恋愛ものの漫画の休日回で、登場するキャラの私服がみんなダサいと、作者のセンスが終わってることが感じられて読む気失せるよな、と。

いいなと思ったら応援しよう!