創作》スキマの
時間って奴は、消費すればいいだけのものだ。
そのうち無くなって、自分がこの世から消えれば、それでいい。
スナック菓子の袋を新たに開けながら、欠伸をした。
もう何時だ。
パソコンの画面には大量の文字。
くだらないモノから役立ちそうなモノまで情報が散乱している。
適当に摘み上げて、時間を消費するための道具として再利用する。
この画面の世界は、まるで自分の部屋と同じだ。
居心地がいい。
スナック菓子を食べながら、文字を摘み上げていた。
その時だった。
「おい」
何処からともなく声がした。
部屋を見渡す。
当たり前に人間はいない。
この部屋に自分以外の人間が入らなくなって、どのぐらい経つか。
この部屋に自分以外の声が響くのは久々だった。
まぁしかし、気のせいにしてまたパソコン画面を見つめた。
「おい、お前」
また聞こえた。
今度ははっきりと、すぐ近くで。
「おい」
また。まただ。
周りを見渡す。
自分の横、右側、目線より少し下辺りから聞こえた気がした。
右側は棚だ。漫画とか雑誌とかスナック菓子の袋とか、積んである。
嫌な汗が滲んできた。
とりあえず、少し目線を下げてみた。
……みなきゃよかった。
壁と棚の微妙なスキマ。
そこに目があった。
ぎょろっとした、目が二つ並んでいた。
かたまっていたら、目が合った。
「おい、お前」
ギロリとした目がそう喋った。
正確には、その方向から声が聞こえた。
だってそいつには口がない。
しかし聞こえたのだ。
「おい、お前」
「な、なんだよ」
思わず聞き返した。
やばい、動揺してる。
「片付けろ」
「…は?」
「部屋が汚すぎるんだよ」
「は…はぁ」
「分かってるなら片付けろ」
目は怒ったように細められている。
口調にも怒りが混じっていた。
何がなんだか分からないまま、そいつの言う通りに片付けを始めた。
もうどのぐらいからやっていなかっただろう。
ゴミと雑誌と洋服とCDとDVDとゲームと…。
何がなんだか分からない物がごちゃごちゃ散乱している。
よく分からない恐怖にかられながら、必死で片付けた。
無我夢中。
途方もない時間を使ったが、部屋はそこそこ片付いた。
すると
「やれば出来るじゃないか」
なんだか嬉しそうな声色だった。
なんだかしらないが、照れてしまった。
ふと気付くと、そいつはいつの間にかいなくなっていた。
これからは小まめに掃除しよう。
やれば出来るんだし。
自分の中の時間消費の方法が一つ増えた。
original post:http://novel.ark-under.net/short/ss/85