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[VRChat] 京セラ「レーザーワールド」で体験できる、企業PRの光ある未来

説明が難しい製品や基礎技術をいかにしてPRするか。これは企業にとって悩ましい問題ですし、伝えたい技術や知識を持っている専門家にとっても大きな壁になっています。

これは実は、上手な説明を通して興味が理解につながったらその企業のファンになってくれるはずの潜在的な消費者 = つまり私たちにとっても損失だといえます。そうした専門的な話題を聞く機会は少ないですし、それがわかりやすく楽しい体験に落とし込まれているケースはさらに稀だからです。

こうした壁を一挙に解決する手法の一つが、PRしたい情報を仮想空間内の体験として提供する、メタバースPRです。

先日、京セラ株式会社がソーシャルVRプラットホーム「VRChat」上に公開した窒化ガリウム青色レーザーをテーマにした「Kyocera Laser World」を例に、メタバースPRという、まだ一般的にはあまり知られていない手法についてご紹介します。

関係性明示:今回の「Kyocera Laser World」について、私は一部コンテンツの原稿の整理や翻訳のお手伝いをしていました。ただし、以下の記事はメディアとしてご招待をうけたプレスツアーでの体験をベースにしています。

最新技術を「体験」する

VRChatはPCのデスクトップモードでFPSゲームのように操作することもできますが、Meta Quest 2 をはじめとするVRゴーグルをつけた体験のほうが圧倒的な没入感が生まれます。

ゴーグルを被ってワールドにアクセスするだけで、遠い外国や異世界をするに体験できるわけですが、すでにここで京セラのように専門性の高い技術を紹介したい企業の1つ目の悩みが解決していることに気づきます。

東京のどこかのコンベンションセンターで展示会をしていたとしても、ほとんどの人には縁がない話か、行くだけで大変な手間がかかります。つまりは、情報に対するアクセスの壁です。VRなら、好奇心が動けばすぐに体験できるのですから、この違いは大きいのです。

パビリオンの入り口。VRなら巨大な建物すべてを展示スペースにできる

今回、京セラが公開したワールドはパビリオンと、アトラクションの2箇所に分かれています。まずパビリオンでは商品や技術の説明を、そしてアトラクションではそれが実際に利用されている現場を仮想的に体験できます。

商品説明コーナー。実際に手にとって、光を出すことが可能。

こちらが今回紹介された製品が設置してあるパビリオンの一角ですが、その共通点はどれも光が出ること。1km先まで拡散せずに光が柱のように届く懐中電灯や、600m先まで届く車載用ハイビームといったように、強い光を出せることがアピールポイントになっています。

実際に青色レーザーを出しながらの説明

たとえ展示会であっても、青色レーザーを会場で自由に振り回すわけにはいきませんが、VRならばそうした制限はなく、来場している人に手に取ってもらうことも自在です。

もちろんこの光は実際の青色レーザーではなくメタバース上で再現されたものですが、ボタンをおせば1km先まで届きそうな収束性と言った部分は実際と同じように作っていますので、体験はむしろ現実に近くなるのです。触れられない現物よりも、体験できるバーチャル、これがメタバースPRのひとつの公式だといえます。

難解な話題をかみくだく

今回京セラが紹介したのは、窒化ガリウム(GaN)青色レーザーを用いた製品技術で、本来はなかなかに難解な話題です。

窒化ガリウムの結晶(出典:Wikipedia

ちょっと詳しい人ならば、窒化ガリウムが青色発光ダイオードに利用されている半導体だとご存知かもしれませんが、なぜここではレーザーなのか? どうして青色レーザーを使うのかといった基礎的な話題を把握してないと、そもそも京セラの技術の独自性の話題を始めることもできません。

普通のブースではとてもではありませんがスペースが足りないでしょう。これが2つ目の障害である「専門性の壁」です。

半導体の光励起についてアニメーションで説明が行われる

たとえば今回の京セラのワールドでは、なぜ半導体が光を生み出すことができるのかといった基礎的な話題から、一つ一つの製品の特徴までを網羅することができます。

レーザーの直進性がどのようにして生み出されているかのアニメーション

場所によっては、ボタンを押すことで動きのある説明も実現していますので、教材のような利用価値も出てきます。たとえばこちらのように、レーザーの仕組みを知ることで、どうして直進性の高い、波長が一定の光を生み出せるのかを目で見て、体験として納得できます。

今回ご案内いただいたプレスツアーでは、京セラのGaN事業部のかたが製品を手にとって詳しく説明してくださいました。よくよく考えると、これも凄まじいことです。私は自宅にいながらにして、専門家のブリーフィングを、実際の製品の3Dモデルを使って受けているのですから。

ただし、VRを使ったから理解が進むわけではないという点は注意が必要です。実際、今回の展示ではレーザーそのものについては理解できるのですが、なぜ青色レーザーが必要なのかといった点や、京セラのもっている7mm四方の基盤から発せられるのは強力な白色光ですが、どこで青から白に変わったのかといった部分の説明は希薄で説明にギャップがあります。

「上手に作られたVR体験で情報をかみくだく」これがメタバースPRの第二の公式といえます。

ライドアトラクションで未来の光を体験

今回公開されたワールドのハイライトは、これらの青色レーザー技術を応用した光無線(Li-Fi)が実現した未来を垣間見せるライドアトラクションでした。洞窟の中から海中に、現実には不可能な体験を通して未来を感じることができます。

なぜ海中のライドアトラクションかというと、青色レーザーを使った光無線通信によって、現在は非常に効率が悪い海中の通信が可能になると考えられているからです。

海中で作業しているドローン。青い光で通信して、テザーされていなくても活動できる

海中を進む船に乗っていると、ケーブルによってテザーされていない海中ドローンが青い光で中継機や近くの別のドローンと交信して作業をしています。

現実には、まだここまで高度な光通信を利用した海中ドローンは稼働していません。しかし、ライドアトラクションが海中に沈んで現実のラインを超えた瞬間、説明している内容のリアリティラインも変化しているのですんなりと受け入れることができます。

実際にはまだ現実になっていないことを、体験を通して信じさせてしまう。リアリティラインの向こう側を信じることができる。これが第三の公式といえるでしょう。

楽しい体験のもつ説得力

上手な説明、臨場感のある展示。そういったものはもちろん必要なのですが、最後にそれが記憶に残るかどうかは心が動かされたかどうかによります。そしてこれが専門性の高いコンテンツにとっては越えるのが難しい壁になります。青色レーザーで感動してもらう方法…といっても思いつきませんよね?

そこで重要になるのが「仲間と見にいけるかどうか」というポイントです。たとえばこのライドアトラクション、十数人で乗って一部の人が落ちたりしながら、わいわいと騒いでいるだけで記憶に残る体験になります。

「あっ、メンダコが居る!」「クリオネだ!」おそらく一人なら出てこないこうした言葉が、体験が記憶に残るかどうかの違いを生み出します。そしてVRワールドでは、そうした驚きや感動も演出として組み込むことが可能です。

ただし、これは非常に難しい設計が要求されます。単に見てかわいい!すごい!というのではなく、ユーザーのとなりに他のユーザーがいるときに、どのような反応が生まれるか。それを意識した制作が必要になるのです。

難しいですが、成功すれば専門性の高いコンテンツでも感動や説得力を生み出すことが可能になります。これが言葉にするとあやふやになるのですが、あえてまとめるならば「来場者のソーシャル・インタラクションを意識して先回りした制作をおこなう」という第四の公式につながります。

さまざまな「壁」を乗り越えるメタバースPRという手法

ここまでで、京セラのVRワールドが情報へのアクセスの壁や、専門性の壁といったように、さまざまな壁を乗り越えているのを紹介してきましたが、最後の壁がPRとしての広がりの壁です。

実際、ソーシャルVRを利用しているユーザーの数は他のSNSに比べればそれほど多いわけではありませんので、VRChatで体験できる人の数だけではPR効果はさほどありません。

しかしここに、VRChatユーザーがSNSに非常に強いこと、いまや大きなメディアとなったVTuberのコミュニティとも地続きであるところが活きてきます。メタバースのなかで起こったことがTwitterへ、YouTubeへと流れ出すことでPR効果が強まるのです。

さすがにこれは自動的に生まれる効果とはいえないので、この部分だけでさまざまなノウハウがありますが、簡単にまとめるならば「SNS映えする絵作り」というポイントになるはずです。

VRで体験できなくても、配信を見ることで体験のおすそ分けをもらうことができる。実際に手間をかけてVRで体験した人は数段階高い臨場感が得られるといったように、ここにはいくつかPR上制御したり、調整できるポイントがあるわけです。

今回、京セラ「Kyocera Laser World」を体験して、あとで振り返ったときに感心したのは、こうした難しいテーマを扱った場合に陥りがちな落とし穴を上手に避けているという点です。

おそらくこのワールドが生まれなければ知ることもなかった、7mm四方のレーザー基盤という技術のすごさ、光無線通信という未来の技術、それがもっている可能性。それを説明しすぎずに、思い出に残るコンテンツとして制作する。これはPRに携わっている人にとっては夢のような手法ではないでしょうか。

メタバースを用いた企業PRは近年少しずつ増えています。おそらくメタバースの人口が増えるにつれて、VRゴーグルが普及してアクセスしやすくなるにつれて、この手法はさらに洗練されてゆくはずです。

未来につながるこの手法を理解する道案内として、ここで挙げた4つの公式を、今後こうした話題が出てくるたびにどこかで思い出していただければと思います。

Kyocera Laser Worldの訪問方法

Kyocera Laser Worldには、VRChatからPCのデスクトップモードや、Meta Quest 2 といったVRゴーグル単体で訪問することができます。

また、7月2日までは、ガイドツアーが予定されていますので参加することが可能です。


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