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知的生活日記: 二人の読者の見ている世界が違う話

今日はいま考えている企画の調査もあってずいぶん前に読んだ三島由紀夫の「文章読本」を再読していたのですが、この本の野心的な意図には読むたびに驚きを感じます。

三島は第一章でフランスの批評家でアンリ・ベルクソンの弟子であったアルベール・チボーデに従って読者を「レクトゥール」すなわち文字をそのまま読んで解するだけの普通の読者と、「リズール」すなわち小説世界を現実そのものとして受け入れるほどの精読者とに分類します。そして同じものを読んでいてもこの二者の感じ取れるものには差があること、なるべく読者をして「リズール」たらんとする方向へと導くことを目的としています。

「文章読本」は小説の読みについての話なので、ここには精妙な文章の意図や雰囲気に対する感性、文章の技巧に対してすぐに反応できる審美感といったものを題材にしています。

しかし似たようなことは、たとえばビジネス書のような情報的な読み物を読む場合でも、エッセイのような読んで字のごとくの読み物であっても存在します。

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