私にとってはホラーだった。『きれいのくに』(NHK)
2021年4月から放映していた、NHKの『きれいのくに』。ちょっと変わった設定の話なので、公式HPの説明を引用させてもらうと、「誰しもが抱える容姿へのコンプレックスにまつわる ジュブナイルSF! 高校生たちが暮らすのは、ほとんどの大人が“同じ顔”をした不条理な国― 恋愛の衝動がほとばしる “青春ダークファンタジー”」となっている。
一読ではわかりにくいと思うけれど、「青春ダークファンタジー」や「ジュブナイルSF」というような、文字だけ見たら青くて明るい甘酸っぱい、的な印象もあるけど、とりあえず自分にとってはこの話はほとんどホラーだった。またこのドラマは不思議なつくりをしていて、前半は妻がある日突然若返っているけれど、夫以外は誰もそのことに気づいていないまま生活が続いている……という、こっちもホラーな話が展開されるのだが、その件が特に解決を見せるまもなく、突然別の設定の世界の話に飛んでしまう。
新たにスタートする話は、ある時期に皆がいっせいに同じ顔に整形するのが流行った世界で、現在大人は、男性は稲垣吾郎の顔、女性は加藤ローサの顔になっている。でもその子供たちの年代は、過去の流行の反動で、美容手術が法律で禁止されている。でも美容手術をしたい子もいて……という設定。
この、全員同じ顔に整形している(今は違うけど)、という設定が生理的にすごく気持ち悪かった。街中の広告も全部男は吾郎ちゃん、女はローサさん(ふたりには何の罪もありません)。さらに、異性が皆同じ見た目なんだとしたら、その中で交際や結婚したい相手をどう選ぶんだろう? という疑問が浮かぶ(結婚などが強制されるんじゃなくて、自由意志の場合)。
その場合、共通の趣味みたいなものがより重要になるのかもしれないし、会話の合い方、嫌いなものが共通かどうか、などなど、より中身が合うかどうか重視、になるのかも? ん? てことは見た目が千差万別な状態より公平かもしれないのか?? 人によってはその方がいいと感じるのかもしれない?と、結論は出ない問いを繰り返した。
また、後半は高校生男女4人の青い春のめんどくさい感じがリアルな匂いで展開されていくが、主人公の凜(見上愛)は「私、気にしてる、ブスだから」と自分の顔にコンプレックスを持っていて、好きな男子もいるし、密かに整形をしたいと考えている。
高校生の彼女に大人が何を言っても絶対に伝わらないのだけれど(見上愛にではなく、役の凛に言っても)、凛はみずみずしくて目が強くてめちゃくちゃ魅力がある。整形したい? どこを? 必要ゼロだよ。でも高校の年代なんて、人生で一番くらい自分の見た目が気になり、一喜一憂する年だから、大人が何を言っても多分伝わらない。
と、凛にかなり思い入れしてしまいながらずっと見ていた。なぜか。
それは自分が仕事でずっと、メイクやらヘアスタイルやら、いわゆる美容と呼ばれるジャンルに携わってきたから。
人の顔、ビジュアルについて、仕事であれこれ言ってきた。あれこれといっても、常に悪いことを言っていたという意味ではないけれど、お手本にしたい、目標にしたい顔というものがあって、そこに近づくにはどうすればいいか、という主旨の記事、テーマは膨大にあった。ひとつ例をあげれば、一重をいかに二重に見せるか、で、それは今現在も消えていないテーマだと思う。一重をどう生かすか、というテーマもなくはなかったけれど、メインストリームのテーマではなかった。そういう記事は主に紙の雑誌上で、ブログのように個人の意見として出したものではないけれど(時代的にもブログとかの手段はなかった)、その分より罪が重い。時代がそうだった、という言い訳もあるけれど、それでも行き過ぎていたと思う。
「ルッキズム」という言葉も、概念すらもない時代だった。(あっても声高には言われない、言えない空気だった)個人的にも10代のころからずっと見た目、ビジュアルがどうか、というジャッジにずっとさらされてきた年代だ。いわゆるバブル年代だと思ってもらえればいい。顔の造作にしろファッションにしろ、ダサイかダサくないか、今でいえばイケてるかイケてないか、はほとんど最重要事項で、自分ひとりだけでなく、友人たちも皆そこをなんとか泳ぎきろうと試行錯誤しながら生きていた。多分そのジャッジからは、結婚して皆やっと降りられたんだと思う。東村アキコの『東京タラレバ娘』の中にも、結婚していない女性はずっとリングに上がらされている、というような描写があったが、それと同じ感じ。ドラマで凛が「整形したい」と思う気持ちにも、最近の整形したいと考える女性の気持ちにも、バカじゃない? とは言えない。自然のままが一番、とも言えない。特に10代には。
というようなことを、見ている間本当にずーーーっと考えていた。自問自答を繰り返しながら見ていた。まだ最終的な答えが出たわけでもない。最近若い年代や小学生にまで、「昭和レトロ」が流行っていて受けがよいが、音楽や雑貨、家電などが人気があるのはとてもよいと思うしWelcomeだけれど、この見た目問題ひとつとっても、私は昭和より今の方がいい。私がティーンの頃よりはかなりラクだ。オタクというジャンルの扱われ方、立ち位置もまったく違う。もちろん「ルッキズム」が問題になる、イコール、そこでの判断がまだまだあるから、だとは思うし、今がパーフェクト、とも思わないが、それでも今の方が見た目問題は少しだけ昭和よりラクだと思う。
そんなことをずっと考えさせられてしまったために、このドラマは個人的にはほとんどホラーのようだった。見たくない、振り返って突き詰めて考えたくないことを突き付けられる。ストーリーを追って「あー面白かった!」と終わる代わりに、ずーーーっとしこりを残している。今も。でもそんなドラマもなかなか出ないから、いいドラマなんだと思う。
最近見上 愛さんも注目度が上がっているし、興味がわいた方はぜひ見てほしいと思います。
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