ひとみ。。

ひとみはいつも1人で遊んでいます。
でもそれは ひとみにとって楽しい時間
今とは違う別の世界で自分を主役に
妄想するのです。

カメラはコチラからひとみを撮っててー
ひとみはお嬢さまでーヒラヒラの白いレースついた可愛いワンピースにピカピカの赤い靴なの。

本当はお母さんは別の人でー
きっとひとみはお金持ちのお嬢さまでー
みんなに可愛いねーって抱きしめてもらえて
頭ナデナデしてもらえるの。

だったらイイなぁ〜
だったら良かったのに
な。...

近所の出荷場にある街頭放送から
夕方の鐘が鳴ります。

あ!
ひとみは大慌てで走ります。

ガラガラガラ!ガシャん!
間に合わなかった。
玄関は鍵がかかり、表の灯も
けされます。

ひとみが住む海沿いの部落は
街灯もなく、家々は離れているので
真っ暗になります。
まだ昭和の時代、この辺は野犬が群れで
ウロウロしています。

ひとみは泣く事もなく
玄関の前で大きな声で叫びます。
ごめんなさい ごめんなさい
あげてください。
もーしません。 ホントに
ごめんなさい!

横の窓のカーテンがチラリ、
母がさめ切った冷たい視線で見下ろし
『きったないねーそんなんじゃ
上がれないよ!きれいにしてきな!』

仕方ないので外の庭用水道水で
足を洗います。

洗ったー きれいにしたー
開けてー ひとみは睨みながら
言いました。

またカーテンの隙間から
『ばかじゃなかろーか、
頭からだよ 犬臭くて汚いんだよ!
私は獣が大っ嫌いだって言ってるよねぇ?
ほっとに頭に来る』

ひとみは泣く事もなく、
母を睨みつけながら
頭から水道水をかぶり
洗いました。

11月も半ばを過ぎた頃、
真水はキーンと冷たく
海からの風もまた
濡れた身体を刺します。

こんなのは全然痛くも痒くもない!
平気だ!

口答えしたらご飯ももらえず
はらぺこでお湯をのみます。
暖かいと少しだけ空腹が満たされるから。

機嫌が悪いと、髪を鷲掴みにされて
家中引きずり振り回されて
窓から庭へ投げ捨てられます。

生きるコトに必死でいると言う事。
生きる!で頭がいっぱいだと言い
5歳児の女の子は 毎日毎日
どうしたらこの家から出て
生きていけるかを考えていました。

ひとみは 生きるコトをあきらめなかった。

(つづく)