[ショートショート]スカっと晴れた日:後編
大学生と高校生の差ってどれくらいあるんだろう?
社会人になると、ほとんど変わりがないように感じる。
でも。
あの頃は。確かに、高校生から見た大学生は、「格上」の存在だった。
「なぁ。ヒデオ。俺ってさ、モテ期きてんだろ?確実に」
マリが泣いた翌日。
アホな友人と、幼馴染()をくっつけるべくおせっかいを焼いた。そのときに言われた言葉だ。
マリとは距離を置きたい感じだったが、アホな友人と幼馴染()のこともあり、他人事とも言っておられず、これまたおせっかいを焼いた。
例えばね。例えばだよ?私の事じゃないよ?勘違いしないでね?
すごく孤独な女の子がいて・・・。
その女の子を救ってくれた白馬の王子様がいるんだけど、王子様にはすごく好きな人がいて、でもそれって絶対に報われないって本人も知ってるの。報われないって知ってるのに、王子様はボロボロに傷ついても好きをやめられないの。
私は・・・じゃなくって!その女の子は黙っていられなくて。
だってその白馬の王子様はね、その女の子を孤独の世界から救ってくれた本物の王子様だったの・・・らしいわ!
でもね。その女の子はずっと不安なの。王子様が去ってしまったら、また私は独りぼっちになっちゃう。って。
それでね。やっぱり王子様に救ってもらいたくて、好きでもない男の子と付き合えば、助けてに来てくれるんじゃないかって・・・
私がそんな状態になれば、きっとどこからともなく現れて助けてくれる。って。信じていてね。
それで。それでね。それを正直に王子様に言ったのね。
本当は怖いから、傷つくことも。穢されるのも。本当に怖くなる前に助けて欲しいって。
でも。王子様は激怒してね。二度と顔を見せるなって言ったんだ。
そしたらさ、私・・・
誰からも愛されてなくて。家族にも愛されてないから一人ぼっちになっちゃんだ。私、優しさって温もりを覚えちゃったからさ。一人で寂しいのは耐えられないよ・・・
ヒデオ君。
お願い。
私を冷たい孤独の海の底から、助けてくれないかな?
正直に言おう。
すごく心が揺れた。
誰だって、可愛いと評判で、おっぱいが大きくて、大学生と付き合ってるって噂で「大人なんだなぁ」って思ってた女子から頼られたら心揺れるだろ?
抱きしめろ!今なら何も不自然じゃない!
抱き寄せろ!やましい気持ちじゃなくて心配してる!って体で!
そして勢いに任せてキスしちゃえ!
あぁ、もう付き合いてぇなァ・・・
なんてことが、頭をグルグル駆け巡る。
「お前さ、俺のことを本当に好きならいいけど。勢いに任せて好きでもねぇ男にそんなこというのやめろよ。もったいねぇぞ?だか・・・」
マリの目から光が消えた。
そうだよね、ごめんね。迷惑だよね。ごめんね。ごめんね。私なんかが無理いって、ごめん。ごめんね。嫌いだよね。私なんて。いいんだ。ごめん。うん、本当に。あの。アハハ。辛いよ。うん苦しい。あれ?なんで私、こんなに苦しいの?ねぇヒデオ君。私。ごめん。ごめんね。
なぁ。友達から始めようぜ?俺だってお前のこと噂でしか知らねぇし。
お前のこと、俺に教えてくれよ。
俺のこともお前に知って欲しいし。
寒い。寒い2月の夜。
宙に浮いた俺の言葉は、
マリの終わらない悲愴な嗚咽の音に、かき消された。
・・
・・・
・・・・
・・・・・・・
と。普通の話しならここで終わるかも知れない。
しかし。俺は、泣いてるマリを見ていて、このままフェードアウトするなんて考えられなかった。
格好つけてんだ。男ってそんなもんだろ?
泣き崩れるマリを強引に抱き寄せ、唇をふさぐ。
涙だけなら「お話し」っぽいんだろうけど、泣けば涙と洟がでる。
マリの涙も洟も、冷えた体も、熱のこもった舌も、全部。受け止めた。
「いいんだろ?俺で。なぁ、マリ、お前はもう、俺の彼女だ。そうだろ?お前の元彼のことは時間がかかっても忘れてもらう。なぜなら、俺がそれが嫌だからだ。だから、少しずつ風化させてやる。嫌ってくらいに思い出を作り続けてやるよ。だから、マリは泣かせねぇ。いいだろ?俺についてこいよ。楽しい未来を作ってやるよ。とりあえず、俺さ、ペアリングってのに興味あるんだ。明日、見に行こうぜ?」
オリオン座のペテルギウスが見える。
今の俺とマリの光がペテルギウスに届くまでに600年はかかる。
きっと、あの二人アホだなって思うころには俺たちはいない。
一生かけても、ほんの一瞬なんだろう。
瞬間を俺たちは嘆き、悲しみ、喜び、生きている。
なあ。
辛いときは、上を向けよ。スカッと晴れた日には星が見えるだろ?
俺たちの悩みなんてちっぽけなんだって、思えるからさ。