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[ショートショート]人にして人にあらず


人が簡単に死んでいく。

それは映画の中だけではない。

腕の中で、その命の輝きを急速に失っていくのを、

俺は何もできないで

数分前まで生きていた人間が、肉の塊になっていくのを感じていた。




父は映画が好きで、特に戦争映画やバイオレンス映画を好んでみていた。

小学生の頃から、俺は、簡単に殴られ、刺され、吹き飛ばされ、死んでいくのを見せられてきた。


もちろん。

それで俺の倫理観が崩れ去って人の生死に無関心になった。だとか、

俺自身が闇のメンタルが解放されて血や傷を見るのが好きになった。だとかではない。

逆だ。

俺は、何よりも痛みに敏感になってしまった。血や傷を見るのが嫌になった。


「ねぇ、お父さん。この人達は何で戦っているの?」

「戦争だからね」

「戦争って本当にあってるの?」

「ここじゃないけど、あってるね」

小さく素直だった俺の質問に真面目に答えた父。

映画のイミテーションの傷や血でも、それをリアルだと受け止めてきた。


映画や漫画、小説を見て思う。

人が簡単に死んでいく。

その死んでいく人にも、産まれた日があって、悩みや喜びがあっただろう。

死んでしまうまでの人生があっただろう。

呆気なく命を散らしていく。

なんのために?

主人公の活躍のために、彼ら彼女らは製作者によって殺されていく。


もしかすると、あつあつのココアにマシュマロをのせた後かも知れない。

もしかすると、子供の誕生日でなんとしてでも帰りたかったかも知れない。

もしかすると、もしかすると、もしかすると。

そう。モブキャラと呼ばれる主人公のイケニエにされている人達が不憫でならない。

彼ら彼女らだって、殺されるために、産まれてきたわけではないのに。


だから、お前は俺の人生のモブキャラなんかじゃない。

お前は、お前の人生の主人公なんだ。

俺が俺の人生の主人公であると同時に、お前の人生のモブキャラでもあるんだ。


だから、生きろ。

そう心に思いながらも、口からでてくるのは言葉にならないうめき声のような恐怖。

ほんのちょっと前まで、一緒に歩いていて信号を待っていたのに。

よくある高齢者ドライバーの誤運転。

それの被害者になっただけ。

なっただけ?

違う。


お前には未来があったハズ。

まだ、これからつかみたい夢があったハズ。

だから、死なないでくれ。

冷たくなった俺の元友人だった肉塊を

俺は、

抱きしめ、


泣いた。


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