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結局、税効果会計は何が嬉しいの?→PLとBSの両方から見れば良くわかる

簿記や会計の勉強をする中でややこしい分野の一つが税効果会計だと思います。
その税効果会計について、なんかわかった気がするけど、なんかよくわからない気がする、、、そんなときに、何のために税効果会計をしているのか、税効果会計をして何が嬉しいのか、という点の理解の一助になればと思い、自分の理解の整理も含めて、以下に整理したいと思います。


税効果会計で使う言葉

まず、税効果会計で使う言葉を簡単に整理したいと思います。

  • 益金

    • 税務上の収益のこと。

  • 損金

    • 税務上の費用のこと。

  • 損金不算入

    • 会計上は費用として扱われるが、税務上は損金として扱われないもの。

  • 課税所得

    • 益金 - 損金の金額で、税務上の利益のこと。

    • 課税所得に対して実効税率をかけることで、その会社が支払わないとならない法人税等の額を計算できる。

  • 一時差異

    • 「収益・費用」が会計上は当期に認識され、一方で税務上の「益金・損金」としては翌期に認識される、といったように会計上と税務上の認識のタイミングがズレることによって生じる、一時的な会計上・税務上の差異。

税効果会計の仕訳の振り返り

次に、税効果会計の仕訳がどのようなものか振り返りたいと思います。
以下、実効税率は30%とします。

例1: 商品評価損 - 繰延税金資産の計上

商品評価損200円を計上したが、その全額が税務上損金として認められなかった。

$$
\begin{array}{|l:r|l:r|} \hline
借方 & 金額 & 貸方 & 金額 \\ \hline
商品評価損 & 200 & 商品 & 200 \\
繰延税金資産 & 60 & 法人税等調整額 & 60 \\ \hline
\end{array}
$$

例2: その他有価証券 - 繰延税金負債の計上

帳簿価額1000円のその他有価証券を時価評価した(時価900円)。なお、時価評価の部分は税務上益金としては認められない。

$$
\begin{array}{|l:r|l:r|} \hline
借方 & 金額 & 貸方 & 金額 \\ \hline
その他有価証券 & 1000 & その他有価証券評価差額金 & 1000 \\
法人税等調整額 & 300 & 繰延税金負債 & 300 \\ \hline
\end{array}
$$


例1,2の通り、会計上は認められる収益・費用が、一時的に税務上では益金・損益として認められない、といった場合に、その差異を調整するために行うのが税効果会計でした。

以降では、この税効果会計の仕訳を行うことによって何が嬉しいのか、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の面のそれぞれから考えていきます。

損益計算書(PL)から見た税効果会計の嬉しさ

上記の例1: 商品評価損の例を用いて、税効果会計があった場合、なかった場合にわけて、簡単な損益計算書を作ってみると以下のようになります。

$$
\begin{array}{|l:r||l:r|} \hline
税効果会計あり & 金額 & 税効果会計なし & 金額 \\ \hline
売上 & 1000 & 売上 & 1000 \\
売上原価 & 300 &売上原価 & 300 \\
商品評価損 & 200 & 商品評価損 & 200 \\
税引前当期純利益 & 500 & 税引前当期純利益 & 500 \\ \hline
法人税、住民税及び事業税 & 210 & 法人税、住民税及び事業税 & 210 \\
法人税等調整額 & ▲60 & 法人税等調整額 & 0 \\ \hline
当期純利益 & 350 & 当期純利益 & 290 \\ \hline
\end{array}
$$

まず、税効果会計ありの場合で損益計算書から実効税率を計算すると、150 ÷ 500 × 100 = 30% と実際の実効税率と一致していることがわかります。
一方で、税効果会計なしの場合で実効税率を計算すると、210 ÷ 500 × 100 = 42% と実際の実効税率と異なってしまっていることがわかります。

つまり、損益計算書上における税効果会計の嬉しさとは、法人税等の額を調整して、実際の実効税率と一致させること、ということになります。

貸借対照表(BS)から見た税効果会計の嬉しさ

税効果会計で計上するBS科目は、繰延税金資産と繰延税金負債という名前ですが、なぜこういう名前なのでしょうか。

まず、「繰延税金」という箇所を考えると、税金を繰り延べている、つまり、税金の支払や税金の控除を将来に延期している、ということと考えられます。
例えば、上記の例1で発生した商品評価損▲200が税務上も損金として認められる場合、当期の課税所得が▲200となるため、200 × 30% = 60 分税金を支払わなくて済みます。
(具体例として上記の損益計算書の場合を考えると、商品評価損▲200が税務上損金として認められない場合は、1000 - 300 = 700が課税所得となり、税金の額は 700 × 30% = 210 となります。一方で、商品評価損が損金として認められた場合、1000 - 300 - 200 = 500が課税所得、税金の額は 500 × 30% = 150となり、商品評価損が損金として認められない場合に比べて、210 - 150 = 60円分税金を支払わずに済んでいることになります。)

しかし、残念ながら商品評価損は損金としては認められないため、当期に60円多く税金を支払う必要があることとなります。一方で、翌期に実際にその商品が売却された場合、この商品評価損分が税務上損金として認識され、翌期は60円分税金を支払わなくて済むことになります。
つまり、60円分の税金を支払わなくて済む状態(60円分の税金の控除)を翌期に延期している、ということです。だから、「繰延税金」という名前になっています。

次に、繰延税金「資産」と繰延税金「負債」という部分についてです。
「資産」「負債」とは改めて考えるとどういうことでしょうか。

「資産」とは、将来的にお金が入ってくる存在、のことです。
将来的にお金が入ってくる存在とはどういうことかというと、例えば、他の資産の科目を考えると、「売掛金」はお金との引換券みたいなもので将来的にお金が入ってくる存在ですし、「土地」もそこに店舗や工場を立てて収入を得るためのもので、将来的にお金が入ってくるための存在です。

これらと同様に、「繰延税金資産」も将来的にお金が入ってくる存在というわけです。ただし、ここでいう将来的にお金が入ってくる、というのは将来的に支払う税金が少なくて済む、ということです。
確かに、先ほど商品評価損の具体例で見た通り、翌期は60円分税金を支払わずに済んでいました。

逆に、「負債」とは、将来的にお金が流出していく存在のことです。
繰延税金「負債」は「負債」なので、将来的にお金が流出していく存在ということ、つまり、将来的に支払う税金が多くなる、ということです。

以上より、繰延税金資産という科目は、将来的に支払わなくて済む税金の金額がいくらなのか(いくらお金が流出しなくて済むのか)、ということを貸借対照表(BS)で表現しており、また、繰延税金負債という科目は、将来的により多く支払う必要がある税金の金額がいくらなのか(いくらお金が流出するのか)、ということを表現しているわけです。

注意点: 繰延税金資産は将来の税金の支払いを減らすが、将来の会計上の利益を増やすものではない。

一点、頭がこんがらがるものとして、以上の説明より繰延税金資産は将来の税金の支払いを減らす存在であると考えられますが、将来の会計上の利益を増やすものではなく、むしろ会計上の利益を減らすものであることです。

例えば、再度上記の商品評価損の例を考えて、商品評価損を計上した期の翌期以降にこの一時差異が解消されたときの仕訳は以下の通りとなります。

$$
\begin{array}{|l:r|l:r|} \hline
借方 & 金額 & 貸方 & 金額 \\ \hline
法人税等調整額 & 60 & 繰延税金資産 & 60 \\ \hline
\end{array}
$$

上記の仕訳を見ると、法人税等調整額というPL科目が借方にある、つまり費用が発生しているということで、会計上の利益を減らしていることがわかります。

繰延税金資産は将来の税金の支払いを減らす存在なのになぜ、、、?という風に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは繰延税金資産は将来の税金の支払いを減らす、つまり現金(Cash)の流出を減らす存在なだけであって、それは利益には何の関係もないからです。
むしろ、翌期のPLには商品評価損が計上されていないため、課税所得よりも税引前当期純利益が商品評価損の金額分大きく表示されており、PL上の表示を実効税率に合わせるために、法人税等調整額を通じて会計上の利益を減らすこととなります。

これでもしっくりこない方は、売掛金を考えてみてください。売掛金は繰延税金資産と同様に資産であり、将来的に将来的にお金が入ってくる存在です。ただ、売掛金を回収したとき、利益に影響があるでしょうか?

$$
\begin{array}{|l:r|l:r|} \hline
借方 & 金額 & 貸方 & 金額 \\ \hline
現金 & 100 & 売掛金 & 100 \\ \hline
\end{array}
$$

上記の仕訳でお分かりの通り、売掛金を回収しても、利益には全く影響はありません。現金(Cash)が増えているだけです。
売掛金と同様に繰延税金資産も回収されたとき、利益には全く影響はありません。ただし、税金を支払わなくても済むことを通じて、ある意味現金(Cash)が増えていると考えることができます。

つまり、「資産」とは根本的には将来的な「利益」を得るための存在ではなく、「現金(Cash)」を得るための存在である、ということと言えるかもしれません。

なお、繰延税金負債の場合は、上記の逆のことが起こるという点も補足です。

まとめ

以上をまとめると、税効果会計は、PLの観点から見るとPLの数字が実効税率に一致するように調整するもの、BSの観点から見ると将来的に税金で流出するお金がいくら少なく済んで、いくら多く払う必要があるのか、を表示するためのもの、であるという風に理解することができます。
さらに、利益と現金の流れをごちゃ混ぜにしないことも重要でした。

皆さんの税効果会計の理解の一助になれば幸いです。

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