【星になる時を。】
「鯨さん、今日こそでっかい光の玉を追いかけよう」
ウサギは前のめりになって声を大きくした。
「ああ、行こう」鯨はいつも通りの声で答えた。
大きな光の玉はいつも、山の向こうにいなくなる。
いったい、どこに行ってるのだろう。
「あの玉は、夜は星になってるんじゃないのか?あのたくさんの中のどれかなんだろ?」鯨が言った。
ウサギも、そうじゃないかと思っていた。
オレンジ色が濃くなり横から差す光が、ウサギの頬に当たる。
「星になる瞬間がみたいじゃないか」ウサギが光の玉を見ながら言った。
「舵を少し右に切ってくれ」鯨が言った。
鯨は自分で向きを変えられない。
ウサギが舵をとらないと、永遠に風のままに空を泳ぐんだ。
ウサギが舵を右にきると、鯨の身体がギギギと音をたてた。
今日は追い風だ。きっと速く追いかけられるだろう。
ウサギはそう思いながら、山に隠れようとする光を見つめた。
下に見える街には山の影がのびてきた。