【「共同養育」が日本を救う】
写真引用:日経新聞連載「チンパンジーと博士の知の探検」第34回より
助け合い子育てする人間 京都大学霊長類研究所教授 松沢哲郎
「共同養育」ということばを聞いたことがあるだろうか?私は6年前に京都大学の松沢教授の記事で知った。アフリカの原住民の間では今でも行われている「地域のコミュニティの中で皆で子育てをする」といった文化だ。
日本は世界一子育てが大変な国。子育てに関して母親1人の責任が重すぎるのだ。産後の女性の死因の第一位は自殺というショッキングなデータがあったり、こどもが3歳までの親の離婚率が異常に高いとか。そして、これは私自身も体験したのだけど、産後のホルモンバランスが悪い時に夫が言った何気ない一言が産後クライシスと呼ばれ、「熟年離婚」につながるのだそう。
確かに・・・私は当時、夜泣きが酷かった長男が夜中に何度も起きて泣くのがとても辛かった。夜中の2時ぐらいから朝まで・・・。寝たと思ってベビーベットに寝かすと起きて泣きだすのだ。当時の夫はシフト制の仕事で早出、遅出の勤務。早出の時は5時に起きて仕事に出ないといけない。夜中の2時から泣かれると完全な睡眠不足・・・そしてその時の夫の言った一言はずっと心のどこかで引っかかっていた。15年後の離婚の一つの要因になったのかも知れないと今更ながらに思うのだ。その一言とは・・・「泣かすな!」だった。
私だって眠いよ!私が泣かしているわけじゃない!実家は当時住んでいた大阪からは遠く離れた鹿児島県の離島。飛行機でないと行くことができない奄美大島。大都会での孤独な育児。泣き止まない長男をおんぶして夜中の3時とか4時に近くの公園を彷徨っていた。その時に「早起き会」の人に声をかけられて、車で集会場みたいなところに連れて行ってもらい。「毎朝迎えに来ますよ」と、言ってもらえた。息子は大勢の人たちに可愛がってもらい、私も早朝からコミュニティの中で息子をみてもらう安心感に2年ほどその活動をやっていたことがある。今思えば、共同養育の足掛かりになった出来事だったのかも知れない。おかげで今でも朝は早い。3時には目が覚める。私の早起きはある意味息子の夜泣きのおかげかも知れない。
ホモサピエンスは1人で子育てをするようにはできていない
人類は700万年前にチンパンジーから人へ進化した。チンパンジーは5年に1頭しか子供を産まないのだそう。理由は、ずっと抱っこして育てるからなのだ。人間もチンパンジーの仲間だから本来は同じく5年に1人しか子どもは産めないはず。それが極端な話、毎年でも子どもが産めるようになったのは「共同養育」のおかげなのだ。
狩猟採集時代、ホモサピエンスは群れを作って暮らしていた。100人〜150人ぐらいのコミュニティを作り、捕食動物から身を守り、男たちは仲間で狩をして食料を確保し、女たちは木の実や植物、キノコなどを採集し、暮らしていたのだ。昔も今も変わらず、働き盛りは子育て盛り。今のように保育園もベビーシッターもない時代。こどもを預けて狩猟採集といった「仕事」をしなければ種族は生き残れない。そんな時にできたシステムが共同養育なのである。
アフリカのカメルーンにいまだに「ばか族」というユニークな名前の種族が群れで暮らしている。その種族がまさに「共同養育」をやっているのだ。
NHKスペシャルでその内容を見ることができるhttps://www.nhk.or.jp/special/mama/
人類が進化したのは人口爆発が一つのきっかけになっている
人間は毎年でも子供を産むことができるようになり、人口が劇的に増えた。これが、霊長類のトップに躍り出ることができた要因でもあるらしい。その人口が劇的に増えた理由の一つが、コミュニティの中で共同で子供を育てる仕組み「共同養育」なのだ。日本でも最近まで長屋で子どもを共に育てる文化はあった。日本も小さな島国でありながら、戦後の人口は1億2000万人となり、高度経済成長を果たした。
戦争で1000万人が亡くなったと言われており、国力をつけるべく、経済の成長を目指すことになる。国の政策で「産めよ増やせよ」といったキャンペーンが奨励された。国の政策で女性が子どもをどんどん産むなんて、今の時代には考えられないことだけど・・・。
その結果「三歳児神話」という都市伝説がまことしやかに流布し、女性は子育て、男性は外で働くというのが日本人のスタンダードになってしまった。「こどもは3歳まで母親が手元で育てないと精神的に不安定な子になる」などと、医学的根拠は全くないのに未だにそう信じて、ストレスを抱えているママが多いのにも驚く。そんな日本も今では坂道を転がり落ちるように少子化となっている。このままでは保健制度や年金制度も危ぶまれると言われている。
今の日本の現状は
日本の少子高齢化は深刻だ。特に地方の自治体は「消滅自治体」とか「限界集落」とか言われ、消滅の憂き目にあいそうな自治体は日本各地に存在している。地方が少子高齢化になるのはある意味わかる気がするが、便利な大都会で、子育て世代も多い地域の出生率が減っているというのはなんとかできないものか?と思う。もちろん結婚も子どもを持つか持たないかといったことも自分で選択できる時代ではあるのだが、人口減少要因の一つに第二子第三子を産まないことが、少子化の要因になっているといったデータもあるのだ。この原因の一つが「ワンオペ」「子どもを産むと仕事に復帰しづらい」「夫の家事育児への参加率の悪さ」などが日本の少子化に拍車をかけているといったデータもある。この要因を「共同養育」で変えることができないか?と最近思い出している。
日本の課題の本質とは何か
子育てというのは本来1人でするものではないのだ。ホモサピエンスが種族を増やしてったのはコミュニティを作り、その中で共同養育といった子育ての仕組みを作ったからに他ならない。子どもを親だけが育てるのではなく、コミュニティの中で誰かが抱っこしてあげて、誰かが代わりにおっぱいをあげたりする。日本でも近代化になる前はそんな風景があったに違いないのだ。子どもを産んでも働きに行ける、近所にいる人たちみんなでこどもを預かってくれる。ご飯を食べさせてくれて、お風呂に入れてくれて、宿題をみてくれて、なんなら寝かしつけてくれる。現代社会ではそれらは全てビジネスとなり、対価を支払って他人に委ねないといけない。日本では未だにベビーシッター制度というのも普及しないのは、文化のせいだけではなく、対価の問題もあるし、信頼できる関係性がない他人に預けることへの不安もあるのだろう。つまり、「無縁社会」となり、「核家族」となった弊害があるのは否めない。
解決策と今すぐできること
少子化がさまざまな局面で影をおとしているのだとしたら、それを解決できる方法は当事者が一番知っているのかも知れない。困っていることを解決できるアイデアは実はその「課題の中にある」のだ。孤独な育児。誰にも預けることができない。小さな子供がいると働きたくても面接すらしてもらえないと嘆く母親は多い。私は我が子が1歳と3歳の時に「ワークシェアリング」の真似事のようなことをやったことがある。毎日、ママ友たちと誰かの家に集まって、どうでもいい話したり、ランチしたりしている毎日が嫌になり、自ら近所の飲食店に交渉に行き、「2人分の給与で3人が働きます」と提案したのだ。2人のママが出勤し、1人のママは顔馴染みとなった子ども達を預かる。住まいも近所だから緊急事態には駆けつけることができる。まさしく、バカ族のママたちが木の実を取りに行った感じだ。
これぐらいのことは、今でもやろうと思えばすぐにできる。課題は解決するためにあるし、課題にチャレンジすることで自分の能力を高め、社会をよりよくし、結果、自分のステージがあがるのだ。「自分が気になる課題は人生のミッションに直結している」ということに、身をもって気づけるはずだ。全てのママたちに、我が子の未来のために「共同養育」と子育て中の「ママ脳」をフル活用してチャレンジしてほしいと願う。その背中を見ているこどもたちもきっと行動できる人間へと育つだろう。