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(第2回)独自性のある子育て
以前住んでいた賃貸は8年と長きに渡ってお世話になっていた。
8年も住めば、近隣の状況も人生色々である。
お隣のマンションとは物件同士の距離が近く、同階の部屋は窓の位置も近かった。
暑くなるにつれて、お互いに窓を開放するため声が漏れ聞こえてくることもしばしば。
ある時から赤ん坊の鳴き声が加わったことで、どうも赤ちゃんが家族入りをしたと推測できた。
毎日、よく泣く赤ちゃん。凄まじく元気いっぱいに泣く。
たまに「ふぇ」と拍子抜けの泣きにクスっとさせられるものの、ギャン泣きともなると、さすがに別の建物とは言えその音量は堪えるものがあった。
渦中であれば音量は倍だろう。
「どんな方かは知らないけど、お母さん、毎日ご苦労さま」
と窓越しに声を掛けてあげたくなるほどである。
最近はネットなどの声に、マタニティや子育て真っ最中の母親に対する世間のバッシングを見かけたりする。
しかし、お隣さんの様子を知り、実家の母を思い浮かべ、「多くの人はこうしてお母さんが頑張ったから大人になれたんよな…」と思うと、胸がぎゅっとした。
感慨深い…と、そんなことを考えている最中、件のお隣さんから急にリズミカルにあやす声が聞こえだしたのだ。
今まで「ハイハイ」と言いながら揺すってみていたであろうお母さん、ついに新たな策を出すのか!?と好奇心が抑えられず、耳を済ませてみた。
お母さんは、「ホッホッホッホッルモッン焼っきぃっ♪」とあやしていた。
あの凄まじいギャン泣きの試練を越えてなお、このリズムとホルモン…だと…!?
お母さん、脱帽です。
その晩、芳醇なタレの香りが私の部屋まで届けられたことは言うまでもない。
※この作品は、大阪のコワーキングスペースOBPアカデミア様より依頼をいただいているリーフレットで掲載されたものを、リライトしてお届けしています。
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