スタートアップとの共創によって得られる社会に対して本当に意義があるイノベーションと投資とは。
変動が激しい現代において、新たな幹となる事業を生み出し、企業として生き残っていくために協業や投資に力を入れている企業は増加し続けています。Insurtech領域においても、グローバルにおける投資額は増加の一途をたどっており、2020年は過去最高額を記録しています。
(Insurtechのトレンドについてまとめたレポート記事「Insurtech Thoughts Lab」は以下よりご覧ください)
そこで本パネルセッションでは、モデレーターにインクルージョンジャパン株式会社で取締役を務める吉沢氏をお迎えし、アフラック生命保険株式会社のCVCであるアフラック・イノベーション・パートナーズ合同会社の代表マネージングディレクター島田氏にアフラック社の事例も交えながら、スタートアップに投資する際に注視している点や、大手企業がスタートアップと協業する際に気をつけるべき点など、オープンイノベーションを進めるうえでのコツについてお話いただきました。
(本内容は2021年3月2日より開催したWinter/Spring 2021 Summitの発表内容をもとに作成しています)
【登壇者】
島田智行 氏
アフラック生命保険株式会社, 上席執行役員
アフラックイノベーションパートナーズ合同会社, 代表マネージングディレクター
東京大学法学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年にナップスタージャパンにて、日本初の定額制音楽聴き放題サービスを立ち上げ。その後、レコチョク、DeNAにて、エンターテインメント・コミュニケーション領域中心に数々のサービスを立ち上げる。2015年にBCGへ再入社し、BCG デジタルベンチャーズ東京センターを創設。2019年1月よりアフラック生命保険株式会社 新規事業担当の上席執行役員に就任。2019年2月にベンチャー投資を行うアフラック・イノベーション・パートナーズ合同会社 代表 マネージングディレクターに就任。
吉沢康弘 氏
インクルージョンジャパン株式会社 取締役
1976年生まれ。東京大学工学系研究科機械工学修了。P&G、コンサルティング・ファームを経て、ライフネット生命(当時、ネットライフ企画)の立ち上げに参画し、主にマーケティング、主要株主との新規事業立ち上げに従事。同社上場後、インクルージョン・ジャパン株式会社を設立し、ベンチャー企業への立ち上げ段階からマーケティング・事業開発で支援することに従事。同時に、大企業へのベンチャー企業との協業をメインとしたコンサルティングを行っている。
アフラック生命の新規事業と投資の取り組み
吉沢氏:
まずはじめに、島田さんご自身の簡単な自己紹介とアフラック社の取り組みについてご紹介いただけますでしょうか。
島田氏:
前職はBCGデジタルベンチャーズという大手企業のイノベーションを支援する会社にいましたが、自分自身が”中の人”としてイノベーションに携わっていきたいと考え、2019年にアフラック生命の役員として参画しました。入社後は戦略立案をリードしながら、日本においてもCVCを推進して行こうという考えのもと、2019年2月にアフラック・イノベーション・パートナーズを起ち上げました。
アフラック生命は2024年に迎える創業50周年に向け「Aflac VISION 2024」を掲げています。「生きるための保険」のリーディングカンパニーから「生きる」を創るリーディングカンパニーへ飛躍することを目指し、ヘルスケア領域も含めてビジネスフロンティアを広げていこうと考えています。
2020年はがんを中心としたヘルスケア領域で事業展開をするHatch Healthcare社や、ヘルスケア領域のデータを掛け合わせソリューションを提供するHatch Insight社、SUDACHI少額短期保険株式会社を起ち上げるなど、新たな挑戦をするうえでアフラック生命内で収めるのではなく、より遠心力を効かせて機動的にやるエンティティを作ろうという考えのもと進めています。
採用面においても、スタートアップやメガベンチャー、Venture Capital(以下、VC)など幅広い業界から積極的に採用をしており、大手企業=実行スピードが遅いというイメージを覆し、早く走れる体制作りにも力を入れています。
またスタートアップへの投資に関しては、財務面よりも戦略面に振り切ったスタンスを取っており、グローバルファンドで約400百万米ドルを運用しています。
当社は「がんに苦しむ人々を経済的苦難から救いたい」という想いのもと創業しており、1,500万人以上の方々にがん保険に加入いただいており、がん保険に強みを持っています。そのため、日本における投資テーマではがん領域について予防から療後にいたるまで幅広いプレイヤーの皆さんと協業しながら、お客様への価値提供を行うべく、事業作りを進めています。
保険のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも注力しておりAIなどのテクノロジーを活用したInsurtechスタートアップの皆さまと幅広く協業を進めている段階です。
投資においては、日本での協業可能性のある企業を世界中からソーシングしており、そのうち海外のスタートアップは3〜4割ほどです。
実績としては直接投資で17件行っており、協業においては日本でサービス提供を開始している11社のうち6社とは実際に協業を始めています。
出典:Insurtech Batch 6 EXPO Keynote Panel Session発表スライドより抜粋
世界的トレンド「ESG 」「SDGs」から読み解く本質的なイノベーションとは
吉沢氏:
スタートアップと協業を進めるうえで、近年より注目が高まっているSDGsにも触れながら、協業するうえでの考え方や気をつけるべき点などを深掘りしていきたいと思います。
昨今問題になっているのは、多くの企業がESG・SDGsに貢献しようとしている一方で、それにより潰れそうな企業が発生している点です。
以下の資料は、日本で米国産の牛肉を大量輸入していた会社がブラジルから猛烈な抗議を受け、売上に大きなダメージを受けるというストーリーが描かれています。
日本で1キロの米国産牛肉を買おうとすると、20キロの大豆が必要になり、結果、大豆の販売量が激増することで、ブラジルでは森林伐採や焼き畑農業が加速してしまうという構図です。
出典:Insurtech Batch 6 EXPO Keynote Panel Session発表スライドより抜粋
DNSH(Do Not Significant Harm)という言葉を耳にしたことがある人も多いと思いますが、重大な棄損をする企業が世界中で排除されていくという流れがあります。昨今話題のESG債務という話に繋がりますが、財務上は問題ない会社であったとしても、このように直接ESGやSDGsに抵触するようなビジネスをしていると、途端にネガティブなイメージを持たれるようになり会社が潰れてしまうということが起こりうるわけです。
そのため日本企業でも形ばかりのSDGsをやるのではなく、実際に課題解決をしていくESG・SDGsをやることで、このようなリスクを解消していかなければなりません。そのうえで、さらに加速して新しい価値を作っていく必要がでてきています。
具体的には、自社の基幹事業が世の中にあるビジネスのサブシステムとどのように繋がっているのか、という根本的な理解が重要になってきます。さらにイノベーションという観点からみると、ベンチャーキャピタルとして投資を行い、世の中を伸ばしていくSDGsの取り組みをスタートアップとレバレッジしながらやっていかなければなりません。
今私たちがやらなければいけないことは、大きなアセットを持っているけれども、そのリソースを活用しきれていない大手企業にスタートアップをレバレッジさせ、その資源をうまく活かしながら事業を拡大できるようにしていくことです。それこそが世の中の役に立ち、最強のSDGsなわけです。
例えば、大手のメガバンクは中小企業の口座を多く持っていますが、残念ながら売上がそこまで大きくないため利益もあがらず、貸付も活発ではありません。そこで近年話題になっているのが、スタートアップがAIでレンディングをするソリューションです。このサービスをメガバンクに提供し始めたことにより、中小企業に対して直接人を介在させずにメガバンクがお金を貸付できるようになり、メガバンクは理財も得ることができるうえに、SDGsの面においても中小企業に対して資金提供をすることで、中小企業を助けることもできるわけです。これは社会への貢献度も高く、意義があることです。
つじつま合わせのSDGsの対応をするのではなく、大きなエコシステムの中で考え、本当の意味で世の中に貢献できると共に、自社利益を上げることが可能になる世界を実現していくことが重要です。
例えば保険業界では、P2P互助プラットフォームを提供する「Frich」という会社があります。多数の中小規模のホテルや宿泊業者を抱えるような大手企業に対してP2P保険の仕組みを提供することで、バランスを取りづらい中小の宿泊業者同士の収益を平準化でき、非常に役に立っているわけです。
出典:Insurtech Batch 6 EXPO Keynote Panel Session発表スライドより抜粋
吉沢氏:
どのように大手企業の資産をベンチャーがレバレッジして世の役に立て、そのあと大きく仕掛けるかという点はキーポイントになってくると思いますが、その点においては島田さんはどのようにお考えでしょうか。
島田氏:
大手企業の資産を使うという点においては、言うは易し行うは難しの部分が大きいように思います。大本の戦略の骨子に入っていなければガバナンスの理解は得られづらいのと、既存のビジネスにも影響があるので、社内における粘り強い説得や交渉が必要だと考えています。
これは外部にいた時よりも内部に入って痛感している部分ですので、大手企業側としては新たな取り組みに対する社内理解の醸成や調整という部分はしっかり固めていかなければならないと考えています。
吉沢氏:
さらに大手企業がスタートアップと協業するにあたり実行すべきだと思っていることが2つあります。まず1つは中期経営計画をスタートアップの方々にしっかり説明すること。そしてもう1つは組織図を描いて、自社の中枢にいるメンバーが何を気にしていて、何に不安を感じているのかという点をしっかり議論するようにしています。
スタートアップと一緒に自社のリソース開拓をするわけです。
アフラック社では、どのようなやり方をされているのでしょうか。
島田氏:
当社も自社の方向性や戦略、ステークホルダーとのコンテキストなど、なるべくオープンに話すように努めています。その方が、その後のお互いの誤解も生まれずにスムーズに協業を進めていけるように思います。
吉沢氏:
本社の課題や心配事はさまざまあると思いますが、協業を進めていくうえで今興味を持っている領域やテーマはありますか。
島田氏:
ESGという点でいくと、一部のスタートアップにおけるガバナンスの課題はまだ残っているように思います。
そのため大手企業だけではなくVCも含め、支援する側としてスタートアップのガバナンスについてサポートする仕組みを進化させると、大手企業とスタートアップの共創がさらに加速するように思います。
吉沢氏:
他にスタートアップと協業するうえで大手企業がしておくべきことを上げると何があるでしょうか。
島田氏:
大手企業側で意思決定をする担当者が、スタートアップのCEOとどれくらいコミュニケーションが取れているのか、というのは大事なように思います。
正直なところスタートアップ側はIPOに向けて調整をしながら物事を進めていく必要があるので、大手企業としてプロジェクトを進めていく中で折り合いをつけなければいけない部分は少なからず出てきます。そこを同じ方向を向くために、どのようにベクトルを合わせていくのかという点で、コミュニケーションの量と密度が重要になってくると思います。
吉沢氏:
腕の立つCVCの特徴は本体のエコシステムを非常によく理解されているという共通点があると思います。自社が何にフォーカスしていて、会社そのものが世の中全体のビジネスシステムに対してどう貢献しているのかという関係性など、全体像をつかめている方と話すことでスタートアップ側でやるべきことも見えやすくなるのかなと思います。
大手企業側もスタートアップが持っている先進的な技術やアイデアと自社の全体のシステムがどのように絡み合うのかという点を深堀りして考えてみると、より効果的な協業を進めていけるのではないでしょうか。