【読書メモ】ケーキの切れない非行少年たち
医療少年院に勤務経験がある児童精神科医が書いた、非行少年の実態と更生への提言。罪を犯した少年の多くが知的障害や境界知能であり、非行に走る前(本書では小学校2年生に壁があると書かれている)に、教育や福祉でその子たちを支援することができたのではと考え、学校教育でも1日5分でできる認知機能トレーニング「コグトレ」を紹介している。
タイトルがキャッチーだしレビューもよかったので期待して購入。
だけど、逆に、このタイトルと内容で「私/うちの子どもには関係ない、非行少年の話」になってしまう危うさがあると感じた。タイトルに代表されるように「いかに非行少年たちの知的能力が低いか」の例を第1章から第6章まで延々と並べている。それなのに、最後の第7章では、非行抑止の解決策としてソーシャルスキルを身に付けることの必要性を訴え、1日5分でできる認知機能トレーニングコグトレの紹介で終わっている。
内容が易しく、筆者の経験談や仕事を通じた感想に重きが置かれているので、読者はより一層「やっぱり非行に走るのは知能が低いからだ」と考えてしまうに違いない。
非行少年の「頭の中(知力)」だけに非行の原因を求めるのではなく、貧困、虐待と愛着障害など社会的な要因についても触れてほしかった。それによって、非行少年を「その子の問題」から「社会の問題」として深堀りし、包括的な視点でどのような解決策を考えているのか知りたかった。
確かに専門家が書いた新書ではあるが、研究者ではないなと残念だった。さらに、読んだ後に、筆者がコグトレの開発者だということを知ってなんだか妙に納得してしまったのも事実。
*本書の中で印象深かったところのメモ
法務教官との関わりの中で、自分から「変わろう」と思ったきっかけ
・家族のありがた味、苦しみを知ったとき(見放さない、何も言わずに被害弁償を続けてくれる)
・被害者の視点に立てたとき
・将来の目標が決まったとき
・信用できる人に出会えたとき:自分の話を聞いて、真剣に考えアドバイスをくれる
・大切な役割を任されたとき(周りにいたのは「あなたはできないから、私が教えてあげる」というスタンスの大人。そうではなくて、自分に何かを任せてくれる、やらせてくれるということ。それが人から頼りにされる、人から認められるという経験になり、自信や自己肯定感につながる。)
・物事に集中できるようになったとき
・最後まで諦めずにやろうと思ったとき
・集団生活の中で自分の姿に気が付いたとき
↑これは子育てにも通ずるなと思った。それから、少年事件の弁護士さんも「少年事件の弁護で接見すると『こんなに真剣に自分の話を聞いてくれた人は初めてだ』とよく言われる」と言っていたので、やはり子どもに正面から根気強く向き合うということが大切だと改めて感じた。
・読み物として非行少年を理解するとっかかりにはなる。例えば、努力ができないのは、時間の概念の理解ができないから。時間の概念が理解できないのは想像力が弱いから。想像力が弱い子どもは、「昨日」「今日」「明日」という3日間ぐらいで生きてる。
*もっと知りたい
・コグトレ→非行少年の認知能力向上に役に立つのかどうか実証研究はされていないと思うが、どのようなものか知りたい
・知的障害や境界にいる人と非行のつながり
*これから読みたい本
藤川洋子「非行と広汎性発達障害」日本評論社
岡本茂樹「反省させると犯罪者になります」新潮新書
ジョナサン・ピンカス「脳が殺すー連続殺人犯:前頭葉の"秘密"」光文社
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