見出し画像

よく遊びよく生きる

うちには猫がいる。14歳の三毛猫、名前をすももと言う。

猫の14歳は人間でいうところの72歳。もうすぐ15歳、人間でいうところの76歳になるすももはつやつやぷりぷりしていて、結構元気な方だと思う。それでもそれなりのお年頃で、最近はごはんを食べなくなったりちょっと咳が出たり心配事がすこしずつ増えてきた。

若い頃のすももはよく遊ぶ子で、お気に入りのおもちゃができるとそれをくわえて持ってきては
「あそぼう」
としつこく催促ししつこく遊び続ける子だった。もう許して欲しいと懇願してもやめないので
「もう寝るで!また明日!」
と強制終了した翌朝には枕元におもちゃがずらりと並べられていたり、噛み砕いたカリカリが並べられていたりした。呪いの儀式かな。

歳とともに遊ぶ根気も体力も低下してきたのか、おもちゃを選り好みしたりすぐに飽きたりするようになった。
飼い主としては運動もして元気に長生きしてほしい一心で、色々おもちゃを買い与えてきた。

ある時、投げたおもちゃを咥えて帰ってくる「とってこい」が好きだったすもものためにふわふわボールを買った。色とりどりのたくさんのふわふわのボールの詰め合わせで、投げたらきっと目をまん丸にして走っておいかけるに違いない、そう思っていそいそと帰り、そして力一杯ふわふわボールを、私は投げた。そーれ。
その結果。

はりきって投げたすべてのボールを見送り部屋がたくさんのカラフルなふわふわボールで彩られた中なぜか、すももはごはんを食べ始めた。
悔しかったのでこのままにして寝たら翌朝どのボールも1ミリも動かずそこにあって、朝日に照らされたカラフルなふわふわボール達が滲んで見えた。泣いてないです。ドライアイの霞目です。

またある時は羽のおもちゃが好きだったすもものために羽のおもちゃの詰め合わせを買った。

テンションが上がるすももはおもちゃを咥えて遊ぼうの催促をするようになった。
やっぱり羽が好きなようで7個セットのうち2個あった羽じゃないおもちゃには最初から見向きもしなかったし写真をよく見ると尻で踏んでいるけれど、残り5つは気に入ったのでこれは勝利。
ただし興味は2週間持たなかった。つまるところあれだ、飽きたのだ。早すぎやしないか。
私は勝ったのだろうか負けたのだろうか。

そしてまたある時は竿の先にふわふわと毛の生えたネズミがぶら下がったおもちゃを買った。

顔は怖いがこれは相当気に入っていた。咥えてもってきて「あそぼう」の催促もしたけれど、気に入りすぎてネズミへの愛が強すぎたのか、そのうちすももはネズミを破壊し始めた。器用に齧り、ぶちぶちとひっぱり皮を剥がそうとする。皮の中にプラスチックの体と鈴が見えるようになるまでにそう時間はかからず、細かく噛みちぎられた毛皮やプラスチックを誤食しそうだったのであえなく没収。
耐久度の問題か、はたまたネチネチとしたすももの遊び方の問題か。愛していても報われないこともあるのだ。

そして最近。新たにすもものおもちゃがやってきた。
ヨックモックだ。あのサクサクおいしい、魅惑の焼き菓子。

中身は飼い主達がサクサクおいしくいただいて、その箱の外側の包装紙の更に外側にかけられた青いリボン、それがすももに火をつけた。

なんてことだ。
買い与えたどのおもちゃよりもはしゃいでるやん。
とにかく毎日大はしゃぎで、飽きもせずことあるごとに遊びたがる。
あまりに喜んだので他のおもちゃのついていた竿にくくりつけて、よりひらひら舞わせて遊びやすいように改良すると、さらに喜んだ。

ガブゥ。

遊びたくてちゃんと私のところまで持ってくる。
これをくわえてずるずるひきずり歩く姿はなんともかわいく、催促されるといくらでも遊んであげたくなる。

そんな楽しい毎日が続いたある朝。
ルンバを起動させようと床を片付けていると、お気に入りのあの青いリボンをくわえてすももがやってきた。仕方ないなぁちょっとだけやで、とかいいつつしっかり遊ぶあたり立派な下僕である。

もう満足しただろうとリボンはいつもの場所、マッサージチェアのサイドポケットに竿を差し込み片付けて、ルンバを起動させた。
床掃除はルンバに任せ、私は洗面所に洗濯物を干しにいった。

しばらくするとルンバの走る音が少し変わった気がした。聞いたことがない音がする。どうしたかな、とリビングに戻るとルンバがすもものお気に入りのヨックモックのリボンを竿ごと引き連れて走っている。
慌ててルンバを捕獲。ひっくり返すとこんなことになっていた。

えらいこっちゃ。
振り返るとルンバ嫌いなすももが棚の上から、は?って顔をして見ていて、小さい声で
「にぁ」
と鳴いた。
取るよ、取るから。

絶望の眼差しである。

どうも直前まで遊んでいて、まだ遊び足りなかったすももがリボンを咥えて私のところまで持っていこうとしたところ運悪くルンバに捕まったのだろう。ルンバ起動中はすももが取れないように片付けているのにどうやって取ったんや…意欲が能力を凌駕する瞬間。
が、床掃除の任務を遂行するルンバの前にはなすすべなく、ここにのぼり、呆然と見ていたらしかった。

ほどなくしてルンバに巻き取られたおもちゃは無事に救出され、またすもものお気に入りのおもちゃとなった。
少しばかりくたびれよれっとした感じになったけれど、本人に気にする様子はないのでよしとする。

そして今日もまた
「あそぼう」
のお誘いはしつこめに続く。


できたらルンバの起動中はやめた方がいいと思うけどね。

この記事が参加している募集

いただいたサポートは娘の今に、未来に、同じように病気や障害を抱えて生きる子達の為に、大切に使わせていただきます。 そして娘の専属運転手の私の眠気覚ましのコンビニコーヒーを、稀にカフェラテにさせてください…