肺ぷしゅぷしゅDAYS🌟【後編・原因不明の通院、そして…】
これは1年前に両側性気胸、つまり左右両方の肺が同時に萎んでしまったときの記録、記憶です。医学的に正しくない記述がある可能性はめちゃくちゃあります。
看護師さんへの畏怖
入院生活で思い知ったのが、看護師という職業の凄さだ。
それまで私は、看護師という存在を町の病院でしか見たことがなく、何となく医師の後ろでサポートしてくれる人、くらいの解像度しかなかった。病棟看護師の仕事について想像したこともなかった。
医者ももちろん重要だが、一番長く患者に接するのは看護師だ。
患者は皆、もちろん万全の体調ではない。不自由を抱えている人間には、正常時のような心の余裕がない。
私自身も、傷口の痛みや先の見えない入院生活に苛立ち、看護師さんにそっけなく接してしまったこともあった。
それでも優しく話かけてくれて、丁寧にケアしてくれる看護師さんの存在は確実に心の支えになっていた。
認知機能が下がってきたお年寄りなどには、ゆったりとした口調で優しく話しかける必要がある。
それと同時に、採血などの医療的な処置はスピーディーさと正確性が求められる。
口はゆったり、手先は機敏に。
童謡を歌いながら数学の問題を解くような、真逆のことを同時に行っている。
もちろん病院は24時間体制なので、夜勤もあり、体力的にもキツいはずだ。特にコロナ禍以降は気を張ることも増えただろう。
中編で前述したような、シモの処理だってある。
求められる職能が、あまりに広過ぎないか???
ある日、日勤から夜勤の担当者に引き継ぎをする看護師たちの会話が聞こえてきた。
同室の、寝たきりでほとんど話せないおばあちゃんについて、「今日、●●さん『おはよう』って喋ってくれたんですよ〜!」「えー、すごい! 私も声聞きたいなあ」と話している。お仕事ドラマの台詞のような、純度100%の声で。
ああ、この人たちは純粋に患者の回復を望んでいるんだ。
私がもし看護師なら、過酷な現場で、こんな風に他者の僅かな回復の兆しを心から喜べるかな?
そりゃ内心イライラすることもあるだろうけど、スタッフ同士の会話でこういう言葉が自然に出てくることが凄い。
看護師への畏敬の念は日々増すばかりだった。
同じフロアには、いつも「おーい!」と強い口調で看護師を呼ぶ、寝たきりのおじいさんもいた。
看護師の仕事に興味が出て調べるうちに、患者の看護師に対する暴力やセクハラ行為が問題になっていることも知った。
少しの異変も見逃さず、きめ細やかにチェックしてくれる人。少々アバウトに見えるが、「大丈夫ですね~」の声かけでケバだった心を癒してくれる人、いつも笑顔で雑談を振ってくれる人。それぞれの看護スタイルがあるのもおもしろかった。
たくさんの看護師さんにさんざんお世話になったのに、退院の日はそそくさと帰ってしまったことは心残りだ。
余談だが、この時看護師に興味が出過ぎて調べまくった結果、アルゴリズムは私を看護師だと認識したのか、1年経った今でもYouTubeなどで頻繁に看護師の転職サイトのCMがよく流れている。
そして退院
検査を重ねても気胸の原因は分からず、移動性の肺炎も残っていたが、私が「一刻も早く退院したい」と訴え続け、ついに退院することになった。
健康診断の日からちょうど1ヶ月だった。
会計額は約20万円で「高いな」と思ったが、1日3食つきで1ヶ月。手術や日々のケアを受けたことを考えると全然妥当だとも感じた。
そして健康保険が賄ってくれる費用の大きさも知った。というかなんやかんやお金が返ってきて、手出しはそこまでなかった。日本の健康保険制度はすごい。
退院してからも、もちろん通院は続く。
私の場合、「好酸球」という白血球の中の数値が異常に高く、その原因が分からないという。
呼吸器外科から呼吸器内科に回され、定期的に診察や検査をするも、特に進展はない。
「肺じゃなくて血液系の病気かもね……。何かは分からないけど、あなたの体の中で何かが起こってることは確かです」
白髪のベテラン医師に、もしかしたら白血病などの重大な病気かもしれない、と告げられる。
白血病か。
「死」がリアルに迫り、頭に浮かんだのは「家族に申し訳ない」という気持ちだった。
今死んだら、夫が、母が、父が、弟が、親戚がきっと悲しむだろう。
遺された人の心に残るものは?
iPhoneのメモに「死にたくない死にたくない死にたくない」と打ち込む。
苛立ったときの私の癖で、祈りのようなものだった。
何より心が痛んだのは、母が「願えば叶う」みたいなスピ系の本を何冊も渡してきた時だ。
母は普段別にスピリチュアルに傾倒しているわけではないのだが、人はどうにもならない不安を抱えた時に、こういう世界に頼ってしまうんだな、と痛感した。
ステロイド治療への恐怖
たまに熱が出るのでカロナールを処方してもらいながら、原因を探るための通院が続く。
病気というのは初めからこれ、と病名がつくのではなく、Aでもないし、Bでもない、それならCの可能性が高い、と消去法で原因を特定していくのだと知った。
仕事をしたり、やることがあるときは気が紛れるが、ふと時間が空いた瞬間に「好酸球増多症」「好酸球 ●%」「好酸球 高い」とググる手が止まらない。自分よりずっと低いパーセンテージの人が、重篤な病気に怯えている。
ある日の通院で、「まだ若い人にあんまり勧めたくないけど、ステロイド治療しかないかもね~」と医師が言った。
「勧めたくないって、何があるんですか?」
この状況から抜け出せるならどんな治療でもしたいと思ったが、詳しく聞いてみるとステロイド治療にはさまざまな副作用があるという。
一番抵抗感があったのは、太ってしまうこと。「ムーンフェイス」といって顔に脂肪がついて丸くなることも多く、急激な容姿の変化に精神的に参ってしまう人も少なくないそうだ。
たしかにそういえば、と投薬治療によって容姿が変化した著名人が頭に浮かぶ。
自分もそうなるかも、と想像するとすぐには受け入れがたく、心はどんどん沈んでいった。
もちろん命には代えられないのだけど……。
呼吸器外科から呼吸器内科、そして血液内科に回され、気管支鏡検査や腰の骨にゴリゴリ針を刺されて骨髄検査までした。
血液系の疾患……というかガンではなさそう、という結果が出て再度呼吸器内科に回されたとき、担当についた女医が、「まあ普通ほとんどないんですけど、念のためこの検査もしておきましょうか」と提案してくれ、ある検査を受けることになった。
この検査が陰性だったら、いよいよステロイド治療となる。
おまえのせいだったんかい!
退院してから3ヶ月。
恐怖が薄い膜のように張り付いていた生活は、突然終わった。
寄生虫の検査が、陽性だった。
虫だったんかい。
今までの全部、虫のせいだったんかい!!!!!
体に起こったあらゆる症状が伏線のように結びつく。
「説明できない」と言われていた一見関係なさそうな色々なことが、すべて寄生虫によって起こる症状に当てはまった。不可解な気胸も、移動性の肺炎も、好酸球も、謎のしこりも。
何でもその寄生虫にかかる人は現在日本全国で1年に50人ほどらしく、入院期間を含め3ヶ月、その可能性を疑われなかったのもまあ仕方がないと思える。
治療はたった3日間の内服薬だけ。
緑色のボトルに入った大きな錠剤を1日3回、3日飲んだらそれで終わった。
あまりにもあっけなくて笑ってしまう。
最も心配していた母にLINEすると、「よかったです!最高ですね!」と返事がきた。
これを読んで「虫!?気持ち悪っ」と思う人も多いと思うが、私的にはこれまでの一連の不調が外的要因だったことにほっとしていた。
直接の原因はジビエかカンジャンケジャンなのか何なのか特定できていないが、割と食で攻めるタイプなので「ありえなくはないか…」という感じである。
そして今、数か月に1度経過観察で病院に通っているが、ありがたいことに健やかに過ごせている。
1か月入院していたことも、ガンかもと言われたことも、今では現実じゃないみたいだけど確かに現実だった。
想像もしたことのなかった病棟という場所、そして今もそこで起こっていることを少しでも知れたことは、価値があったと思う。
社会のことを、私はまだまだ全然知らない。
というわけでみなさま、ジビエを食べる時はしっかり火を通してくださいね〜。
🎈fin🎈