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ポケモンGO5周年

2017年10月1日、日曜日。この日からイタリアでの生活が一変した。

長年イタリアの小さな都市で生活してきて、それなりに友人もいて快適に暮らしてはいたものの、大人になってから住み着いた土地ではどうしても異国という感覚をぬぐうことはできなかった。

そんな中、この日はヨーロッパでスイクン初登場の日で、家から一番近いジムにスイクンが出ていたのに気づいて、もしや誰かいないかと、家人と連れ立って出かけた。

町の中心地に近い場所とはいえ、日曜日の昼下がりにポケモンGOをしている人などいるはずもなく、静まりかえったあたりの様子にはなすすべもなかった。イタリアでは日曜日の昼には家族揃って食卓を囲む習慣があり、皆それぞれの家族と夕方近くまで一緒に過ごす。日本のように休日が商業化されていないイタリアでは、日曜日に開いているところも少ない。

ジムの前のベンチに座って待っていたが20分が過ぎても周囲には人影もなかった。さすがにもう誰も来ないよと帰りたい家人に、もうちょっと待とうよと説得していたその時、賑やかな話し声が響いてきた。振り返ると学生くらいの男女8人くらいがスマホを片手にやってきていた。一瞬の緊張の後、その中の1人が声をかけてきた。

ポケモンGOをやっているの?

そう、スイクンのレイドをやりに来たの。

それで全てが通じた。人種も文化も性別も年齢も超えた瞬間だ。

そして私たちが日本人だと分かると彼らは歓喜の声をあげ、チームはどこ?トレーナーネームは?伝説の鳥は取った?テレグラム使ってる?と矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。グループに入りなよ、と言われるままに応え、仲間を見つけた興奮と新しいテクノロジーの狭間で、私たちはあっという間に市民権を得た!

そうか、日曜日の昼間にポケモンGOをしているイタリア人というのもいるのか。家族との食事を適当に切り上げて、スイクン初日のレイドのために家を抜け出してくるイタリア人というのもいるのか。日本のことを日本人よりも詳しく知っているイタリア人というのもいるのか。

彼らとの出会いはそれまで私が知っていたイタリア人のイメージを次々に塗り替えていった。そしてこの出会いによって、町中の道の名前を覚え、知り合いがあちこちに増え、初めてここが casa (自分ち)と思えるようになったのだ。

この日に取ったスイクンはその後のボックス整理や交換で既に手元にはないが、この日の出来事はまるで昨日のことのように記憶に焼き付いている。そのきっかけを作ってくれたスイクンは私にとって特別な存在となった。

#ポケモンGO5周年

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