性被害者である私が、大内彩加さんと谷賢一さん裁判を傍聴して
2024年10月28日に、原告・大内彩加さん、被告・谷賢一さんの裁判傍聴に行きました。
すでにお二人は和解(裁定和解)をしていますが、あの日の裁判に立ち会った者として、インターネットに残しておきたいと思い、書いていきます。
※私は芸能業界のハラスメント被害者です。そのため、大内さん寄りな意見になってしまうとは思いますが、あらかじめご了承ください。
この件を詳しくない方のためにまとめると、2022年12月に女優の大内さんが、所属していた劇団DULL-COLORED POPの主宰である谷さんを告発し、その後裁判へと進展した事件です。
告発の第一報は8000RTがついているなど、主に演劇業界を中心として話題になりました。
お知らせです。
— 大内彩加 (@o_saika) December 15, 2022
私、大内彩加はDULL-COLORED POP主宰 谷賢一を提訴いたしました。noteには以下の文章含め、より詳細にどうして告発に至ったかの経緯も記載しております。
まずは画像に纏めた文章を御一読いただけますと幸いです。
「全ての人たちへ」https://t.co/kTnFAEhl9H #MeToo #MeTooJapan pic.twitter.com/cu2TimFhVV
私が裁判傍聴に行こうと思った経緯は、「あれ、あの件ってどうなっているんだろう?」と気になっていたタイミングで、たまたま大内さんの発信で公開裁判が行われることを知ったからです。
裁判の前に投稿されたこのnoteでは、意見陳述に対しての意気込みや、法廷の日時場所が書かれていました。
同時に、谷さんもブログを更新。
そこには強気な反論の数々がありました。
(一部抜粋)
「原告は劇団入団当時から「性は世界共通の笑い」「おっぱいどうぞ」「当ててんのよ」など性的な接触を含む言動を稽古場で繰り返しており、これには複数の目撃証言が提出されている」
「当時の私は精神科・心療内科に通院しており、性機能不全(勃起できない)の副作用のある向精神薬を常用していました。身体的にも性交は不可能です」
※これは後で出てくるので覚えておいてください
「これは、本当は自分から身体接触をともなう交流を繰り返していた女性が、自身の問題行動が原因でキャスティングを外されたことを根に持って訴えを起こし、絶対不可能なレイプ被害を訴えている裁判です」
「SNSを利用して公演を潰して話題にし、注目を集めるキャンセルカルチャーの手法に、大きな恐怖と怒りを感じています」
当時の私は、この記述からとても自信がある姿を感じ、何か大きな証拠があるのかと思いました。
一方で、大内さんも嘘を言っているように見えない。どんな裁判になるかと少し怖い気持ちもしていました。
○裁判の当日
法廷は満席で、外に5〜10人くらい並んでいました。
客層は老若男女いましたが、劇団員なのかなと思う方がちらほらいたのが印象深かったです。
詳しいことを書くと名誉毀損になるらしい(※)ので、他の方の感想を引用しつつ書いていきます。
※裁判が裁定和解として終結したのは2024年11月27日ですが、谷さんは2024年12月18日に一方的に大内さん側の意見を取り上げたとしてたかまつななさん、政経東北に名誉毀損訴訟を開始しました
①谷さんの弁護士から大内さんへの尋問
本人尋問を傍聴した。
— おおきなことり🐦️ (@qcYPTOotBTbNyS5) October 29, 2024
被告と代理人は大内さんの人間性に問題がある言わんばかりだった。性暴力の裁判では良く見る光景だが、こういう二次加害を止められないのだろうか。
被告は非常に饒舌で、セクハラするに至った経緯を身振り手振りで説明。冗談とかお約束のノリだったと。https://t.co/afRc7Ig4LV
弁論を進めることより、対面する大内さんへ直接ことばをぶつける機会に利用しているように見えました。
— 堂坂 尚央🍉 (@screenandstage) November 29, 2024
大内さんには怒りがある。反論する被告側にはその怒りを跳ね返すだけのエネルギーがあるだろうと思っていました。
しかし終始論点をずらし講釈でかわし続けていた。
裁判でこれかと思うと
本日の谷賢一氏の弁護士酷かったなあ。
— ひまだはまお (@himada_hamao) October 28, 2024
本人の答弁はもっと酷かったらしいが。
いくつかの感想ツイートと同意見で、谷さんの代理人弁護士から大内さんへの質問は本当に酷いものだと感じました。
例えば、代理人弁護士が大内さんに対して「この地図にあなたが当日XXした場所とXXした場所を書きこみなさい」と言った場面。
3Dのものを2Dに落とし込むのは難しく、大内さんは「車の進行方向ってこっちでしたっけ?進行方向のこっち側がこうだから、道のこっち側は、、」と悩んでいる様子でした。
その「悩んでいる」ということだけを切り取って、代理人弁護士はそれみたことかと「なんでわからないんですか?」と責め込んでいて、見ていて気分が悪かったです。
②セカンドレイプについて
他にも、許せなかったことがあります。
私もこの場にいた人間です。谷氏側の弁護人は2人。1人目は大内氏への人格否定、決めつけ、悪いほう/谷氏に都合の良いほうへの誘導が多く、裁判って弁護士ってこんなにも意地悪い仕事なの??とびっくりしました。プライバシーを守るために実名は出さないと約束した方の名前も何十回と叫んでいました。 https://t.co/YrndVlYvUW
— ミ☆リ (@minori_ironim) November 7, 2024
大内さんが「彼女のプライバシーを守りたい」と言って「B子さん」と仮称で呼んでいた友人の本名を数回出しました。
「なんであなたは田中さん(仮名)……あB子さんですが」「それでもあなたは田中さ……B子さん」とわざとらしく、それを言われるたびに友人の匿名性を守りたかったであろう大内さんは傷ついたように俯き奥歯を噛み締めていたように見えました。
あまりに連呼するので、傍聴席にいた女性が「あの弁護士、頭おかしいんじゃないの?」とボソッと呟いた声が聞こえました。
③「やったやらない」ではなく、大内さん本人の人格否定に
議題はXデー(劇団の飲み会帰りに谷さんが大内さんの家に行き、ベッドの上でトラブルがあった日)から少し離れ、大内さんの私生活や人格に移っていきます。
人格否定や決めつけは凄まじく、大内氏がオタクであることを引き合いに出し「オタクなのにこれを知らなかったのはおかしい」と。オタクすら馬鹿にする始末(オタクの定義とは)。親友なのに伝えなかったのは意図的ではないか、など決めつけだらけ。親友にも言わないことなんてあるに決まってるでしょ。
— ミ☆リ (@minori_ironim) November 7, 2024
谷氏の弁護人というより大内氏へのセカンドレイプが主な仕事ではないかというくらい、何の恨みがあってあそこまで意地悪い言い方ができるものかと。裁判ってみんなこうなのですか?だったら被害者はただでさえ辛い目に遭って痛めつけられている上に公的な場所でもあのように扱われるなんて辛すぎます。
— ミ☆リ (@minori_ironim) November 7, 2024
谷さんと大内さん以外の人間関係を引き合いに出しました。もしかすると、谷さん側の弁護士はこのように言いたかったのかな……と思いました。→
『大内さんがどうしようもなく私生活がだらしない人間だったから、劇団主宰者に対してもおっぱいを自ら押し当て、自ら喜んで体を差し出していた』
「この世にそんな卑猥な女性がいるのか……?!いたらすごいなあ?!A Vの世界なのか?!」という人物像の設定だと思って少し笑いそうにもなりました。
しかし、そんな品のないやり口で、自身の名誉毀損を直接言われている大内さんのことを思うと、腹が立ちました。
(承前)被告代理人(原告反対尋問)に強い違和感を感じたのは、過度に原告を虚言狡猾な人物と印象づけようと(訴訟戦術として過度なリスクを負い)自爆自滅した感であった。原告の主な被害から提訴まで4年以上経っている事や原告の経歴や貢献を踏まえると原告の「提訴時」の苦痛は理解を示した上で(続く)
— sekaiheiwa (@truthsetyoucute) November 7, 2024
この方のブログにもこのように書かれています。
"大内さんのパーソナリティに問題があるから男性と揉めるんじゃないか、女性に相談しなかったのは出し抜いたような気持ちがあったからじゃないか"、
こんな的外れなことを本当に法廷で威圧的に言ってくるんですよ???
④谷さんの意見陳述での持論
その後、谷さんの意見陳述のターンに移ります。
ほぼ全部のやり取りを覚えていますが、この日のことを尋ねられて簡潔に答えたのがこちら↓
— ミ☆リ (@minori_ironim) November 7, 2024
谷氏主尋問
・谷氏2年間"自分探しの旅"語り
・"キャンセルカルチャーの悪"について演説
・演劇界における問題:今後のハラスメント対策の問題提起と解決法
(壮大な谷劇場)
谷さんはかなり話し過ぎていると印象を受けました。
本人が雇っているはずの、味方であるはずの弁護士からも「一言でいいんですよ」と嗜められていました。
大内彩加氏(原告)と谷賢一氏(被告)の裁判を傍聴したんですが、原告側は入念な準備のうえで臨んだんだろうなってのがわかるのに対して、被告側は自分とこの弁護士ともろくにコミュニケーションを取れてないのではって印象を受けました。
— 屋代秀樹 (@hidekiyashiro) October 28, 2024
例えば「告発から現在まで2年間何をしていたか」という質問に対して、マラソンや四国巡礼など自分がやってきたことを事細かに語り始めました。
和解後、谷さんはこれと同じ内容のブログを連投しています。
⑤反対尋問は喋りすぎてボロが出るタイプ
谷氏反対尋問
— ミ☆リ (@minori_ironim) November 7, 2024
・SNSにおけるギャグやユーモア
・肩を揉まれたことをきっかけに胸を触るようになってから相手に拒否られるまでの流れのお決まりのプロセス
・男女が同じ部屋にいる場合のセオリー
・良い胸の触り方悪い胸の触り方
(谷流とでも呼ぶしかない謎設定)
これらについては、ルパン三世のルパンと峰不二子を例に挙げて、そういうものだ、とも。モンキー・パンチ先生に失礼です。裁判所で私はなんてものを見せられているのだ、という気持ちになりました。自分より10歳近く若い人なのに、まるで60代70代の昭和のオヤジが意気揚々と語るような姿でした。
— ミ☆リ (@minori_ironim) November 7, 2024
最後のは本当に酷くて、胸の触り方にも良し悪しがあると。服の上からさらっと触るようなのは良い(セーフ?)。肉感がわかるように深く触るのは悪い。何ルールですかそれ?しかし大内氏の証言ではがっつり鷲掴みにされたり揉まれたりしていたそうですけど。
— ミ☆リ (@minori_ironim) November 7, 2024
谷賢一の裁判での発言「セオリー」は、ほとんど誰にも理解されることはないだろう。
— 恩田元 (@ondagen) November 27, 2024
あの「セオリー」がどこから来たのかは、私は見当がつくので、あー、あれか、と笑ってしまったけど。
谷さんに対しての反対尋問は、私が今まで見た中で一番「逆転裁判っぽいな」と思いました。神聖な法廷という場を陳腐な表現をしてしまい恐縮ですが、いの一番に出てくる感想はこれです。
「裁判はドラマほどヒートアップしない」というのは裁判傍聴人の中で言われてきていることですが、今回は白熱しました。
大内さんの代理人弁護士は語尾に「☆」がつく喋り方なんです。重くて暗い空気の会場内に(耐えきれずに外に出る女性もいた)、明るく飄々とした雰囲気を連れてきてくれた場面でした。
かたやホモソーシャルの演劇業界のトップに君臨した谷さんと、かたや語尾に☆がついて歌うように話す飄々とした女性弁護士のバチバチの言い合い。ドラマみたいでした。
谷さんはおしゃべりなタイプです。自分を弁明しようとすればするほど「え、その考え方自体が古くてやばいんじゃないの?」と思ってしまうような、緊張感が走る場面がありました。
⑥勃起不全の薬の副作用
谷さんの主張「当時の私は精神科・心療内科に通院しており、性機能不全(勃起できない)の副作用のある向精神薬を常用していました。身体的にも性交は不可能です」についての反論がありました。
この薬の説明書には、勃起不全の副作用があると同時に、制欲増進の副作用があると記載がされていたとのことでした。
谷賢一氏のこの主張ですが、原告側弁護士はこの向精神薬がアモキサンであり、性欲減退以外にも性欲亢進の副作用が現れるケースがあることも明らかにしました。グッジョブ!!また被告人が抱えるアルコール依存と“飲酒時の記憶が失われる問題”についても追求がなされました。
— Basille *映画業界人じゃないです ただの怒り狂った 水#i真i希ファンです (@iwasakiayayuki) October 28, 2024
引き続き見守ります。 https://t.co/maKfD4QzEc pic.twitter.com/HmCA1WMRc0
弁護士「ここの副作用の欄になんと書いていますか?」
谷さん「…制欲亢進」
弁護士「尋問は以上です」
のやり取りはスカッとジャパンでなのでは?というくらいにスッキリしました。
⑦謝ることはない……らしい
谷さんは「大内さんに謝ることはないです」といいました。
その瞬間、大内さんの目から大粒の涙(誇張なしで本当に私が今まで人間で見たことがないくらいの大粒)をボロボロと流していて、見ているだけで本当に苦しくなりました。
嘘つきませんて宣誓しても
— ストくん(本名が分からず申し訳ありません) (@stoch0419) October 28, 2024
大内彩加さんと
谷賢一さんの話は
食い違うことばかりで、、、
どう裁くんでしょ
知ってる役者さんの名前が
いっぱい出てきて
なんか
これ、現実なのよね、、、て
わかんねえけど
谷さんが
大内さんに謝ること無いです
て言うた瞬間の
大内さんの表情が辛すぎた、、、
○裁判で思ったこと
泣き寝入りしても辛いし、闘っても辛い。
民事事件の性犯罪の和解金なんてたかが知れています。大内さんも金目当てではなく、名誉のために裁判を起こしたと言っていました。
結局は裁判の場でセカンドハラスメントのひどい言葉を浴び、大きな精神的な負荷がかかったに違いありません。大内さんのブログには和解直前に裁判所からの連絡が来ることで息が詰まり、冷静な判断ができなくなり、限界を感じていたと書かれていました。
また、自死を考えるほどに追い詰められていたようでした。
私は今回の舞台が千穐楽を迎える前日、自死を選ぼうとしていました。お風呂の中で、気付いて、悟ってしまいました。被害を告発し、その告発が色んな人達の耳に、目に届き、拡散され、広まったその後に自死を選んでいった俳優達を何人も見てきました。彼女ら、彼らが何故自死を選んだのか、同じ気持ちになることは絶対に出来ません。理解することも出来ません。分かることなんて一生出来ません。でも、でも。
私はその時、死にたくなってしまった。
和解後の谷さんのムーブ(ブログの連投や、名誉毀損の訴訟)を見ると、谷さんが
復帰する日も近いのではないかと感じます。何事もなかったかのように戯曲を書き、演出している姿を私はまた見る日が来るのかと思うと恐怖で仕方ありません。
法廷に入られた際の、大内さんのカバンについていたヘルプマークが脳裏から離れません。大内さんは精神的に疾患を負い、その辛い記憶は一人の健康な人間に一生の障害を残すのだと思いました。私もそうだから、自分と重ねてやるせなくなりました。
谷さんは裁判終了後にやりたいことの一つとして「芸能界にまつわるキャンセルカルチャーの撲滅」を掲げていました。この言葉を聞いたとき、私はこの人が野に放たれるのが心底怖い、と思いました。
大内さんは、自分の名誉を取り戻すために、演劇界のハラスメントについて問題提起をするために、泣き寝入りせずに実名で闘いましたが、結局は法廷でも(もしかするともっと色々なところでも)セカンドハラスメントを受けていて、この二次被害でもさらに心を砕かれてしまうのだろうと感じました。
裁判当日、傍聴席で私は何度もため息をつきました。他の方も、谷さんや谷さん側の弁護士の行きすぎた人格攻撃のタイミングで、ため息や頭を抱えるような仕草をされている方がいました。それしかできませんでした。
性加害やハラスメントは立証が難しいのはみなさんご存知の通りでしょう。
全部録音していくわけでもないし、最悪なことがあったらその瞬間は最善の行動が取れず、日数が経って冷静になってから「あのときこうしておけば」と思うことばかりなのが人間というものです。今回の場合、もしも明確な証拠があったとしても、今度はそこに同意があったかどうかの認識の問題を争うことになったんだろうと思います。
谷さんの弁護士は、大内さんを精神的に痛めつけて潰すために裁判をやっているようにも見えました。
これは、和解後に出された、谷さんのブログの一編です。
去年からちょうど本厄の年だったし、実際リアルにつらいことが起き続けていた。
ブログはここから四国お遍路八十八ヶ所参りに行ったということにつながりますが、この文章からも、大内さんの告発も厄年に起こった災難のうちの一つのように思っている可能性を感じます。
勝利的な和解でした。
裁判所からは「迎合的態度があったとしても身体接触は不適切」「団の主宰者と劇団員という立場の差に鑑みると、 原告の真摯な同意があったとは認め難く、一定の不法行為責任が生じ得る行為であったといえる」と言う言葉を受け取ったとしても、大内さんの気が晴れる日はまだ遠いのだと思います。
いまだに谷さんは何が悪かったのかわかっていないのではないでしょう。
この世は地獄です。最悪です。
ここでは自分の性被害については書かないようにしますが、
この業界には本件以外にも酷いことがたくさんあります。
大内さんのせいでも、大内さんの個人の問題でもないです。