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商業文庫っぽい小説同人誌を作るための備忘録
こんにちは〜めがたくです。
タイトルにもあるように、この記事は商業文庫みたいな小説同人誌を作るためのアレコレを文字にしたものです。
以前にやったTRPGセッションの自作リプレイ小説が……届いた!
— めがたく (@_mangeru) July 29, 2024
文庫本だ!!!! pic.twitter.com/8run98PbyB
先日、作った本をツイートしたところ思いのほか人の目に触れまして、こういうものも需要があるのかなと記事にした次第です。
自分が作るために調べてても、そういった記事があまり見当たらなかったため、誰かの役にたてればという思いで書きました。
そのため、同人誌らしい凝った装丁の話などはありません。愚直に商業文庫の仕様を検討します。
同人初心者が2〜3ヶ月で調べた内容ですので、間違いや不足している部分はあると思います。参考程度にお読みいただければ幸いです。
なお、ここでいう商業文庫とは角川文庫や講談社文庫、(版型は異なりますが)ハヤカワ文庫などのいわゆる一般文芸のことを指します。
それと、この記事はある程度同人誌を作る上での知識がある前提で書いています。完全初心者の方は先にこの辺りの記事を読むとよいかと思います。
【追記】
この記事の目的は、馴染みのある商業文庫の体裁に寄せて気持ちよくなりたいのに参考にするものがないという限られた需要に対する一つのサンプルです。
同人小説はかくあるべきだとか、そういう意図は一切含まれていません(私も特殊紙とか小口染め好きですし)。
各々が作りたいと思ったものを自由に作れるのが同人誌です。この記事もそんな思いの欠片にすぎません。
商業文庫と小説同人誌を考える
それでは検討を始めていきます。
一般的に作られる小説同人誌と商業文庫の異なる点は、大きく分けて紙、カバーデザイン、組版に集約されます。
順番に考えていきましょう。
紙
カバー、表紙、本文用紙のように、文庫本において紙は非常に重要なファクターとなります。
その中で最も気を揉むことになるのが本文用紙です。
というのも、多くの同人印刷所で用意されている書籍用紙は商業文庫と比べると硬くて重いんですよね。
その辺の話はこちらの記事が詳しいです。
個人的な感覚で簡潔に書くと、商業文庫に寄せるのなら斤量(紙1000枚の重さ)が50kg付近の紙を選ぶとよいです。
そして、そんな紙を備えている印刷所は自分の知っている中だと2ヵ所です。
株式会社REDTRAIN
(なぜか埋め込みが機能しない……)
REDTRAINでは文庫専用紙として、プリンセスノベルとミステリッククリームがあります。どちらも表記は30kg台ですが、紙のサイズが異なるだけで四六判の斤量はどちらもほぼ50kgです。プリンセスノベルの紙厚0.072mmはおそらく現在で最薄。
商業文庫と肩を並べられる文庫用紙です(ただし、どちらの文庫用紙も五冊からの取り扱いなので注意)。
一冊から刷るならワンブックス、本文モノクロなら三十冊くらいからモノリスのほうが安くなるので、用途に合わせて利用しましょう(追記:担当の方のツイート曰く、五十部以上でモノリスのほうがお得になるとのこと)。
ワンブックスは標準でカバーと帯が搭載されていてフルカラーなのも特徴。そのぶんテカリはわかりやすいかも?とはいえ小説では気にならない。帯までつけたいのなら最有力の印刷所。
次にあげるコミックモールよりも高いのと、締め切りが早め(らしい)なのが難点になるでしょうか。
コミックモール
コミックモールで用意されているのはライト書籍用紙クリーム50kg。紙厚は0.08mmで若干REDTRAINのものより厚いけれど、十分なレベル。
コミックモールの利点は値段ですね。二十冊からではあるけれど、カバー付き文庫300ページが一冊1000円ちょっとで作れるのは大きい。カバーはオプションで選べて、巻きもしてくれます。あと常にPP加工無料フェアをしている。
難点はサイトがちょっとわかりにくいのと、連絡が少ない(らしい)ことでしょうか。良くも悪くも玄人向けといった印象。
商業文庫に近い紙を使いたいなら、候補になるのはこの二つの印刷所だと思います。もう少し硬いか重くても大丈夫!ということであれば、淡クリームせんだい55kg、ソリスト56kg、淡クリームキンマリ57kgも選択肢になります。
淡クリームせんだいとソリストはどちらもREDTAINのみ、淡クリームキンマリ57kgはコミックモール、ちょ古っ都製本工房、印刷通販ちょいのまなどで取り扱いがあります。
一般文芸よりも重めの紙を使う傾向があるライトノベルを作るなら60kg前半もありかな……。これ以上は書くのが面倒くさいので、先ほどの紙の記事を見るとよいです。
これくらいの紙になると300ページ超えの文庫は読みづらくなる可能性も出てくるので、気を付けましょう。
ページの話をしたので追加で話すと、商業文庫は概ね250ページ~400ページに収まるものが多いです。組版や改行の多さにもよりますが、8万字~17万字くらいが目安ですかね。
そんなに書けない!という人もいると思いますが、その場合は厚めの紙を使うとページ数が少なくても厚みが出て、外面はそれっぽくなります。
結局こういうのは自分が満足できるものを作れればOKですから、厳密に突き詰める必要はあまりないです。楽しめる範囲で作りましょう。
表紙でおすすめの紙は「紀州の色上質 最厚口」です。これにするだけでかなり市販の文庫っぽくなります。
むしろこれ以外の紙をあまり知らないんですよね……。コミックモールにはなさそうなので次点でアートポストとかが無難なんでしょうか。ただ斤量180kgは少し気になる。参考までに色上質最厚口は135kgです。
一応付け加えておくと、斤量が必ずしも柔らかさにつながるわけではないです、紙によって変わるしあくまでも目安。
カバーはコート紙110kgにクリアPP加工をするのが一番商業文庫に近いですかね。一部の本ではマットPPや無加工のものもあるので、目指したい方向性に合わせて選択しましょう。斤量は135kgでも全然許容範囲だと思います。
カバーデザイン
次に考えるのはカバーデザインです。
商業文庫のカバー装丁は各社で概ね共通しています。
表紙:イラストor写真、タイトル、著者名
背表紙:タイトル、著者名、番号(後述します)、出版文庫名、価格
裏表紙:バーコード、ISBNコード、価格、あらすじ
なので好きな出版社の装丁を参考にして作るのが最適です。ただし、イベントなどで頒布するなら過度な模倣は避けたほうがいいと思います(素人の意見です)。
冒頭の自著は私的なものなので新潮文庫nexに寄せてますが、頒布するとしたらもっとデザインは変えています。
背表紙の番号についてですが、ひらがなが著者名の頭文字、次の数字が同じひらがなの中で何番目の作家なのか、最後にレーベルでその著者の何作目かを表しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1722527702120-3OyPf0PhzN.jpg?width=1200)
出版社によってはプラスでM(Mystery)やJA(Japan Author)などのジャンルも併記していることもあります。
せっかくの同人誌なので、作中内で意味のある数字などを入れてみるのも面白いです。
さて、作る上でどのフォントを使うかは困るかもしれません。参考までに自分の使ったフォントをあげると筑紫明朝、秀英明朝、筑紫ゴシック、筑紫オールド明朝、はんなり明朝とかです。
はんなり明朝以外は有料フォントになります。私は学生向けLETSを契約していますが、普通に使うには高価です。一応、mojimoというサービスでいくつかのウェイト固定フォントを使うことができます。
また、人によっては裏表紙のバーコードやISBNコードみたいなものをつけたくなるかもしれません。そういうときにはISDN (国際標準同人誌番号)を利用しましょう。ISBNを騙るのはご法度です。
それと帯を作る場合、カバー表紙の一部が帯で隠れてしまうので、それを考慮してデザインする必要があります。カバー表紙全体を使ってデザインをしたいのなら帯はないほうがよいかもしれません。
![](https://assets.st-note.com/img/1722416171296-e6HrgOoHmL.jpg?width=1200)
また、カバー折り返しに何を書くか悩む場合があります。著者紹介を自分で書くのは少しばかり恥ずかしい人もいますしね。
何も書かないというのは一つの選択肢ですが、そういうときは主要な登場人物紹介文を書くのがよいかもしれません。わざわざページを割くのも……と省略することがままありますから。
カバーデザインとかできないよ!という方は外注するのも一つの手です。特に商業文庫的なカバーデザインは表紙、背表紙、裏表紙を分けて作れるので、背幅が決まっていないときでも作れる利点があります。
カバー下の表紙はどの出版社もシンプルです。こういうのを使って自分でタイトルや著者をいれるとよいでしょう。
【追記】
書いた後に思い出したので一つ。
多くの印刷所で表紙やカバーには300〜350dpi以上が推奨されていて、実際にそれくらいの画像解像度で作る人が多数だと思います。
ただ、商業文庫ライクなカバーデザインで350dpiは解像度が足りない可能性があります。
私はCLIP STUDIO PAINTで文字を入れたのですが、試し刷りをした際に裏表紙に入れるあらすじがわずかに掠れてしまいました。印刷所にもよる部分はありますが、おそらく小さなフォントを綺麗に印刷するためには、もう少し大きな解像度が求められるのだと思います。
カバー折り返しで更に小さなフォントを使うこともあるので、解像度には注意を払うとよいでしょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1722529152460-xVwM3860zQ.jpg?width=1200)
製本直送はわかりやすく、掠れや太さの不均一が見られる。おたクラブはパッと見が綺麗で、近くで見るとガタガタしているのが分かる程度。本刷りのワンブックスは600dpiなので非常に滑らか。
組版
いよいよ最後の組版です。
組版はいわゆる小説本文の文字組みのことを指します。
おそらく商業文庫での組版は大体AdobeのIndesignを使っているはずです。私もIndesignを使って文字組みをしましたし、縦書きの組版をするのに最も適したソフトであると思います。
とはいえ導入コストが高いんですよね……。
単月契約は5000円しますし、仕様を理解するまでにそれなりの時間を要します(なんならわからずに使っていることもありました)。組版を完成させるのにかかった時間は約40時間です。
同人誌を作る人においそれと勧められるものではないなあ、というのが使った感想です。
結局は素直にテンプレートをお借りしてWordで作るか、IOSであれば縦式というアプリを作るのが一番楽なように感じます。一太郎もよく聞きますね。
便利なテンプレートたち
ただ、これらのテンプレートってデフォルトのフォントサイズが8.5ptなんですよね……。どうも同人小説の主流が8.5ptらしいのですが、一般文芸に関しては12.5Q(8.86pt)~13Q(9.21pt)が主流という肌感覚があります(特殊なのが創元推理文庫で多分8.5ptくらい)。ライトノベルは8.5ptくらいが多いです。
こういうところは級数で細かくフォントサイズを変えられるIndesignが強いですね。
すべてを確認したわけではないですが、こういったテンプレートはフォントサイズを変えると文章が揃わないこともあるので、9ptで組むなら縦式ですかね……。うまいことやっている有識者がいたら教えてください。
最近は組版も外注できるので頼んでしまうのもアリですかね。
商業文庫の一ページの行数は16~18行が多い印象です。たまに15行を見かけるくらい。一行の文字数はフォントサイズで変わりますが、38~42文字が一般的ですかね。
この辺は好きな文庫本を開いて確認するのが手っ取り早いです。
余白についても同じで、持ってる文庫本の余白を定規で測りましょう。REDTRAINかコミックモールの文庫用紙を使うのであれば、読みにくいということはないです。……多分。できればノドは最低14mm空けることをおすすめします。ぎりぎりを攻めると製本時のズレが致命傷となる可能性があるので。
【追記】
60kg以上の紙を使うならノドをもっと空けることを推奨します。ラフクリーム琥珀N66.5kgの300ページ、ノド14mmで試し刷りした際にはちょっと読みづらいな……と感じました。
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本文フォントはこだわりがなければ「源暎こぶり明朝」でいいと思います。フリーで癖がなくて読みやすいフォントです。
商業文庫と同じフォントを使いたいなら、写真にもあるイワタ明朝体オールドがおすすめです。ハヤカワ文庫、新潮文庫nex、一部の角川文庫などで使われているはず。まあ2~3万円するので物好きに限りますが。
ここまで書いておいてなんですが、そもそも商業文庫っぽさを意識するときに一番重要なのは外見なので、私みたいに偏執的なこだわり方をしないなら中身は好きに作っていいと思います。自由に作ろう!
その他、立項するほどでもない細かいこと。
一般文芸の表紙タイトルロゴは結構シンプルなので、フリー素材の画像にちょっと角度をつけたり幅を空けたフォントを置くだけでも意外となんとかなる。文字が浮いて見える時は文字周辺に影なりドロップシャドウを入れると馴染んでそれっぽくなる。
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改めて見てみると案外シンプル
文章が始まるページは本によって左右異なる。ただしどちらの場合でも数行の空白が入る(読みやすさのため?)。隅っこから始まることは少ない。
![](https://assets.st-note.com/img/1722533788667-wQMcJZaYyV.jpg?width=1200)
これは左ページ始まり。4行空けて書かれている。
章分けなどで空白のページが挟まる場合、ノンブルは入れない(カウント自体はする)。
![](https://assets.st-note.com/img/1722533884541-uRHS0jNwbZ.jpg?width=1200)
空白ページにはノンブルも章タイトルも書かれていない。
本の終わりに「この物語はフィクションです。実際の〜」と書かれていることは意外とない。「〇〇は〇〇文庫のために書き下ろされた」などはよく見る。
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ものによってはこういうのすら書いていない。
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探しに探して一冊だけ見つけた。どうやら本にこれが書いてあるのは珍しいらしい。
表紙側の帯折り込みには大抵タイトルが記されている。
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帯の長さは5cmが主流。ただそれなりに表紙が隠れてしまうからか、ライト文芸では4cmのものがいくつか見られる。
![](https://assets.st-note.com/img/1722534248305-wjI9uzPg6R.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1722534297568-a6N9kMffhY.jpg?width=1200)
6cmの場合もある。手持ちに4cmはなかったが、新潮文庫nex公式サイトで閲覧できる書影の中には5cmより短いものがいくつか散見される。
新潮文庫nexは他レーベルよりカバー用紙が薄い。多分コート紙90kgくらい。同人で90kgカバー用紙にPPをかけられるのはREDTRAINしか知らない。それに薄いほどPP加工で反るため、自分は断念した。
基本的にルビの小文字は大文字にする(例:ほっそく→ほつそく)。何故なのか不思議だったが、どうやら読みやすさのためらしい。確かに小文字のルビは見にくかった。
一般文芸のルビは肩付きが多い。当て読みと区別しやすいからだろうか。人物名が肩付きだと見づらいときもあって一長一短。
おわりに
駆け足でしたが、商業文庫を意識した小説同人誌の作り方を書き連ねていきました。参考になりましたら幸いです。
ここに書いたことを全部やるのは大変なので、取り入れられそうなところを選んで参考するのがベストです。
それでは、皆様の同人誌製作がよきようになることを祈っております。