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1-07「親子のつながり」

7人の読書好きによる、連想ゲームふう作文企画「杣道(そまみち)」。 週替わりのリレー形式で文章を執筆します。

前回は親指Pの「オドラデクの世界」でした。今回は蒜山目賀田「親子のつながり」です。それではお楽しみください!

【杣道に関して】
https://note.com/somamichi_center/n/nade6c4e8b18e

【前回までの杣道】
1−06「オドラデクの世界」/親指P

1-05「心得なし」/葉思堯

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昔から父は近寄りがたく不気味だった。安心できる相手ではない。リラックスした笑顔をみせない。なでられた覚えがない。よそよそしく、なにかを隠しているようだ。彼は娘へ、自分からあいさつをしない。他の人にはそうではない。一方で、娘と母の関係には少なくとも父とのようなぎこちなさはありません。しかし異常なのは娘のほうなのだと、父だけがそう考えた。父は、おおきな病院で検査を受けさせた。母は祖母に相談していた。「夫が子供にとても疲れているようです」と。
父とのコミュニケーションを望みました。父から反応が欲しかった。それで物事を煩わしくします。迷惑をかける。だが父の反応はない。なにも変化しない。そんな父は憎らしい。次第に嫌がらせは本格化する。歯ブラシに生ごみをすりつけ彼の酒瓶に消臭剤を混ぜる。ある日、家に帰ると玄関前に酒瓶が置いてあった。父からのずるいメッセージでした。お前のいたずらを知っているぞとの陰湿な警告のメッセージに、父に、底知れないものを感じます。
父は悪い偶然の出来事のすべての原因が娘にあるかのような口ぶりです。視線は決してあわせない。よい成績を持ち帰ってさえ「こんなに勉強してなにをするつもりだ」と嫌な慎重さで探られる。なるべく家にいたくない。中学生、ほかの大人もうるさいが、父には耐え難いほどいらいらする。ついに身体中に湿疹ができた。それをみて父はどことなく満足そうな態度。いつからか父はしばしば、こもった部屋でぶつぶつ暗い声でつぶやいている。
昔から父の言葉を気にしてきました。遠くで誰かと話す父の声に耳をそばだててきた。時折聞き取れる否定的な単語に胃がきしみ、はらはらします。ですので閉じこもった部屋から漏れる父の声も気になりました。扉に耳をつける。よく聞き取れないが、娘の名前を口にしたことだけ明確に耳は気づく。頭が真っ白になる。そのとき扉の向こう、父の部屋のなかでなにか倒れたような音がした。急におおきな音がしたら驚きます。そして、好奇心に耐えられません。扉を慎重に開く。そこには床に叩きつけた人形にしゃがみこみ、憎悪の表情で憎悪の言葉を人形にむけてとめどなく与える父がいました。娘は思わず声を漏らす。「なにしてるの」


生まれたときから、娘はどことなく拒否、もしくは軽蔑の態度をみせました。しゃべれるようになったはずでも、二人きりのときには決して言葉をいわない。娘はしかし「よい子」で、おねしょ、指しゃぶり、癇癪がない。けれど父にとっては馴染めない。無視されている気分だ。
児童がけがをするとき、いつも娘は現場にいた。そしていつも落ち着いていて、やはりどこかおかしい。おそろしい。
積極的に残業をした。冷たい娘のいる家がこわいのです。だが第二子の妊娠により状況は変わる。妻は父の残業を望まない。労働時間を減らし、娘と過ごす時間が増えます。妻は内心、父になつかない娘の態度が柔らかくなることを期待する。父は娘を公園に連れて行き、彼女の片付けを手伝うため砂場に手を入れてガラスの破片に手を裂かれる。娘は無傷で無言でした。七針縫う。妻は流産した。その頃、娘の遊んでいた水風船のなかに甲虫の死骸があった。これを見て、流産と娘は繋がっていると感じた。娘を家から遠ざけたく、習い事など奨励する。
流産後の妻の様子を心配した知人にある女性を紹介されました。素晴らしい人でした。夫婦で何度も通い、話を聞いてもらう。妻も徐々に落ち着いていく。その女性に突然、人形のレンタルを勧められました。死んだ子の代理人形です。夫婦は受け入れかけましたが、結局は断りました。そして断ったとたん、妻の具合はよくなった。最初からそういう狙いだったのかもしれない。当時、娘は小学三年生。娘の同級生は、娘と一緒にいるときに限って彫刻刀で肉をえぐり、遊具に指先をはさみます。
父自身も、熱が出たり、食べたおにぎりに折れたつまようじが入っていたり、そのような偶然がどれも娘の性質に関係している気がしてしまう。ノイローゼは深い。夫婦で通ったあの女性を思いました。そして電話をかけた。娘との関係を良好化したい。娘の人形が欲しい。女性は、人形師への発注は、まず直接会って話を聞いてからだと言う。ひとまず了承したものの、結局、会う約束を結ばなかった。だがある日、人形師から電話がある。秘密にするなら請け負うとの申し出。
人形は素朴なものでした。娘の名前で呼びかけ、思いを打ち明ける。違和感の歴史を言葉にする。お前はこういう子だったんだよと、思い出せることすべてを語りかける。これらの試行のおかげで、現実の娘への抵抗感が薄れた気がしてくるのだと、自分自身に言い聞かせるのだが娘の底知れない冷たさに残念ですが変化はない。娘の部屋で丸めたティッシュを見つけました。開けると小鳥の頭蓋骨がある。気味の悪い子供。
人形師から人形の効果を確認する電話がある。気休めにしかならないと非難したら、人形に直接、手で触れたほうがよいと案内。試しに入浴させると、現実の娘が快活になる。効果です。ははは。少し不気味だが、けど嬉しい。人形への声かけの頻度があがる。なのに学校から連絡がきて、荷物検査で裁ちバサミが見つかったという。父は娘ではなく、人形のほうに、そういうことはやめてくれと頼みこむ。直後、娘のさぼった遠足で、クラスのバスが脱輪しました。けが人はありませんが。父は娘ではなく、人形のほうに懇願する。勘弁してくれ、なんなんだお前は。さらに、父の目に網膜剥離がはじまります。やけになって父は、人形に漂白剤をかけた。すると娘はおとなしくなった。ははは。そのときから扱い方が変わっていった。
人形は、乱暴に扱われはじめる。攻撃の言葉をぶつけられました。はじかれ、投げられ、刺される。そのときもそうでした。私は床に叩きつけられたのです。そのとき部屋の扉を娘が開いた。嗜虐に溺れる父に視線を突き刺した娘が声をあげる。「なにしてるの」私という秘密は暴かれました。父は狼狽した。私は二人に視線を交互に送る。ははははは。実体化したお前らの悪意はこれから、明らかにお前らを侵害するのだよ。ははは。

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これでリレーはひとめぐりしました!

次週からは2週目、12/20(日)更新予定。
担当者は藤本一郎さんです。お楽しみに!


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