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みどりの日

◆概要

日本のGWを構成する祝日の1つ。
元々昭和の時代には4月29日が「天皇誕生日」という祝日であったが、平成天皇に変わったことにより天皇誕生日が変わってしまい、GWを構成していた祝日が無くなることによって国民の生活リズムに影響が出ると懸念された結果、みどりの日が作られた。凄く雑に意味合いをまとめるならば「国のレベルは成長して、充実してきたけど、心のゆとりとかを忘れないようにしようね。日本は自然が豊かだから、そんな自然に感謝して、余裕ある人になろうね」的な感じ。
4月29日が昭和の日になったことで、もともと祝日に挟まれていた平日5月4日の「国民の休日」に移り現在の形になった。

名前については偉い人や専門家の人たちが話し合いの中で「昭和天皇は植物に詳しく、自然が大好きな方だったから、それに関わる名前にしたいね」という意見(ニュアンスは合ってると思う)で固まり、「みどりの日」となったらしい。

以上、インターネットより。

◆駄文

学校の裏手には山というか、森というか、なんかそんなものがあり、その中に続く道、もはや獣道に近い道がある。その道を草木を掻き分けながら暫く進むと、まるで、その場所だけ木が避けているかのような開けた空間に出る。それは、私にとって憩いの空間だった。
学校帰り、一人で帰る時には必ず寄って、その空間で空を仰いだ。周りの木々によって切り取られた、歪ながら、丸く青い空は、何処までも何処までも底がなく、私のどうしようも無い思いを永遠に吸い取ってくれるかのようだった。
勿論、この場所のことは誰にも言っていない。クラスメイトにも、友達にも、先生にも、恋人にも。……いや失礼、恋人は最初っからいなかったから、言うに言えないの方が正しい。
兎にも角にも、この場所を知っているのは私と、たまにやってくる野良猫だけのはずだった。あの人が、来るまでは。

「何してるの?お嬢ちゃん」

私がその空間のど真ん中で、この歪んだ丸い青空を独り占めしながら横になっていると、不意に誰かが私の顔を覗き込んだ。
私はビックリして身体を起こし、その声の主に対面した。
見た目の印象は、歳上のお姉さんといった感じだが。この場所を知っているだなんて……。
「いやいや、別にとって喰う訳じゃないから、そんなに警戒しないでよ」
私は今、余程怖い顔をしていたのだろう。お姉さんは手のひらを私に見せるようにしながら敵意がないことを示す。
「にしても、まさかこんな場所に人がいるだなんて、ビックリだなぁ」
「私の方こそ。貴女一体何者?」
私は、警戒しないでと言われて、素直に警戒を解くほど、子供では無い。表情を変えずに、無愛想に聞く。
「ん?お姉さんは、お姉さんだよ。お嬢ちゃん」
適当に躱されてしまった。そして、逆に
「そういうお嬢ちゃんは?一体何者なんだい?」
と、聞き返されてしまった。
「私は、お嬢ちゃんですよ。お姉さん」
精一杯に悪態をつきながら、こう返事をすると、お姉さんは一瞬キョトンとした顔をして、その後に「はっはっはっ」と快活に笑った。
「まぁ、最初に意地悪をしたのはお姉さんだからね。それでいいよ」
そう言って、お姉さんは、あたかも此処が最初から自分の空間だと言うかのように、今まで私が横になっていた場所に座り、
「まぁまぁお嬢ちゃん、立ち話はなんだから」
と、その横の芝生をぽんぽんと叩いた。
お姉さんが信用に足る人物なのか、そうでないのか、ここまで来ても皆目見当もつかないけれど、変に反抗するよりも従った方が良いと見たので、その付近に大人しく座ることにした。表情を緩めることはしなかったけど。
「うんうん、素直で良い子だねぇ。流石あの高校の生徒さんだ」
お姉さんはそうやって背後を一瞥した。ここからじゃ見えないが、恐らく私の学校の方を見やったのだろう。
「どうして、私があの学校の生徒だって言い切れるんですか?」
「ん?それはお姉さんへの、意地悪のつもりかい?」
意地悪のつもりだ。
「はっはっ、お嬢ちゃんの今の服装を見れば一目瞭然だろう。それとも、あの高校の制服を盗んで着ている、変態ちゃんなのかい?」
確かに、私は学校帰りにここに寄っているため、今も制服に身を包んでいる。揚げ足取りのつもりが、その足は上がっていなかった。
「……卒業生の懐古の一環だって可能性も、あるじゃないですか」
苦しい言い訳だ。
「苦しい言い訳だね」
お見通しだった。
「まぁ、今まで不可侵だと思われていた自分の領域を犯されたとなれば、内心穏やかでは居られないか」
そうやって、お姉さんは1人で勝手に頷いてる。
「お姉さんも、気持ちはわかるし。というか、今まさに、お嬢ちゃんと同じような気持ちを味わっている節もあるしね」
お姉さんは、頬杖をついて私を見た。
「じゃあ、なんですか?此処が貴女の領域だとでも言いたいんですか?」
あくまで心を開くつもりは無い。そういう態度を全面に押し出して、敵意を滲み出しながら聞く。
「そうだね」
お姉さんは、なんの躊躇いもなく、言い切った。そして、
「少なくとも、私の方が先にこの場所を見つけたからね」
と続けた。
私は無性に腹が立った。私にとって大切な場所を、彼女はいとも簡単に奪ったのだ。
「そんなの」
「確かめようがないじゃないかって?確かに。だが、それでも断言できるね。この場所は、私が君より先に見つけている」
「もういいです」
私は、耐えられなくなってその場に立つ。
「失礼します」
なにが捨て台詞でも吐いてやろうかと思ったが、今の私にはなんにも思いつかなかった。仕方がないので、形だけ礼を払い、私はその場を立ち去った。

「今のは流石に、大人気なかったか」
ぷんぷんと音が出ていそうな少女がその場を立ち去るその背中を見つめながら、苦笑する。
少女にとってそうであったように、自分にとっても、この場所に関しては譲れない事だったのだ。
とはいえ、流石にやり過ぎた節もある。大の大人が、高校生相手にあんなにムキになるなんて、我ながら酷いことをした。もし、今度会うことがあれば、ジュースの1本くらい奢ってやるか。そんなことを考えながら少女から奪い取った空を見る。多少の罪悪感を感じつつも、やはりここから見る空は、全てを吸い込んでくれるようだった。目を瞑り、草木と呼吸を合わせる。静けさが、心に染みる。ずっとここで、こうして居られたら、どんなに幸せなことだろうか。

「ミャーン」

そんな私の思考を遮るかのように、話しかけられる。
「久々に来たんだ。もう少し、堪能したって良いだろう?」
私の返事を遮るかのように、「ミャーン、ミャーン」と次々に強く主張する。
「わかった、わかったよ。退ければいいんだろう」
私はその圧に耐えかねて、仕方がなく立ち上がり、
「仲良くするんだよ」
と声をかけて、その場を立ち去る。
せっかく大人気ない真似をしてまで取り返したこの場所をまた、彼らに奪い取られてしまった。まぁ、そう考えると因果報応ってやつか。
立ち去る背中にまた「ミャーン」と声をかけられる。場所を譲り受けたお礼なのか、はたまた元々俺らの場所なんだからあり前だろという主張なのかは、相変わらず分からないままである。

P.S.

自然っていいよね。

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