もし君が運命を信じなくても

あなたは運命を信じますか。
そんな言葉を雑誌で見つけた。
……運命かあ。
運命など、何度も出会った。
というとかっこいいけど、出会ったのは漫画やアニメなのさ。
「リョー」
そんなことをつらつら考えていたら、不意に名前を呼ばれた。
「えっなに」
慌てて顔を上げると、光希が私の顔を覗き込んでいた。
「さっきから呼んでたんだけど、聞いてなかったでしょー」
「え、ごめん、マジで?どした?」
ずっと呼ばれてたらしい。全然聞こえてなかった。
「いいよー。てか、リョウ、体育祭実行委員会があるんじゃなかったっけ」
光希が言うと、
「ああ、言ってたね」
翠も思い出したかのように言った。
「え、あ、今日か!やば、行ってくる。先帰ってていいよ!」
急いで立ち上がって、扉へ向かおうとすると、
「いや、いいよ。今日何もないし、待ってるね」
翠が百点満点の笑顔でそう言ってくれた。今日は部活の助っ人はないらしい。
「ナイスファンサ!」
そう叫んで慌ただしく教室を出て集まりに向かう。
「えーと、3の1だっけ」
ガラガラッと音をたてて、扉を開けるとまだ始まってなかったらしい。先生はいなかったが、だいぶ集まっている生徒から注目を集めた。
…え、めっちゃ恥ず。
ゆっくり扉を閉めて、そっと動く。
…というか。
辺りを見渡して思ったことがある。
体育祭実行委員なんて、文化祭実行委員でもあるまいし、陰キャばかりかと思っていたら、普通に陽キャも多いことに驚いた。
…陽キャ実行委員なんて、漫画とかラノベの世界だけではなかったのね。
教室の端っこにある机に座って、現実逃避気味にそんなことを考える。
知り合いのいない中、髪染めてたり、化粧してたり、ピアスしてたりする人たちがいると更に居心地が悪い。
…実行委員、立候補しなきゃ良かったー。
地味な係を選んで、陽キャたちと絡まないようにしよう…。
そう決意していると、先生たちも入ってきて、委員会が始まった。
…さて。何を選ぼうか。
黒板を、授業中より真剣に見る。
…やりたいのは、…道具運びとか?入場誘導はちょっとな…。
うん。募集人数も一人だし、わざわざ一人のやつに立候補する人も少なかろう。
先生が一つ一つ係を読み上げて、それに立候補していく人を薄目で眺める。
…へいへい楽しそうですねえ。リア充爆発せんかなあ。
完全ぼっちの僻みをしている私にようやく望んでいる係が回ってくる。
「えー、道具運びに立候補する人はー」
「は」
「あ、おれやろうかな」
私が手を挙げて立候補しようとすると、私の言葉に被せて、誰かが立候補してしまった。
…誰じゃ誰じゃ私の言葉に被せたやつは!
思わず鬼の形相で、そちらを睨みつけると、同じく立候補した相手も私を見ていた。
…ゔぇ、結構なイケメンだ!
頭をブルンと振って目を逸らす。
…お、思いがけないところでイケメンと見つめあってしまった。てか、あれって…。
私と見つめあってしまったイケメンは、モテている二年の先輩だった気がする。
…黒い短髪に、高い身長。爽やかな印象があるけど色気もあってかっこいい‥だっけ。
そんなことを光希がハイテンションに言っていた気がする。
別に光希はミーハーなだけで、好きなわけではないらしいけど。
「ええと、一人だけなので、じゃんけんしてもらっていいですか」
結構古い方法で決めさせようとするじゃないですか。
それにしても、陽キャグループからの目線が痛い。
譲っちゃおうかな。面倒だし。よし。
「あの…」
「あれ、先生」
また言葉を遮られた。
なんなの?今日は遮られる日なのか?
…遮られる日とは。
そんな間にも話は進んでいく。
「そこ、一人じゃなくないですか?今のままだと一人余りますよ」
「え、そうですか。……あれ、ほんとですね」
…え、どゆこと。
私が混乱している間に、勝手に結論を迎えてしまった。
「あ、じゃあ、ここも二人で」
え、どういう?え?
「じゃあ次にーー」
私の心を置き去りにして委員会は終わってしまった。
Oh…。
一人で呆然と下を向いていると、急に目の前に影がさした。
顔を上げると、目の前にさっきのイケメンが立っていた。
…え、なに?まさかこんな陰キャと同じ係になりたくないってことで、不満言いにきたの?
私がそんな妄想で身をすくめていると、イケメンは不意にふ、と笑った。
…え?
「同じ係の明石さん?だよね。志島薫です。よろしくね」
そのままくしゃっと顔を崩して笑いながら言った。
カーテンがふわっ戸舞い上がる。
光が教室に降り注ぐ。
風が突き抜けて、何かが始まった気が、した。


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