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冬至は、性善説を教えてくれる
大阪は最高気温6℃
信号待ちをしているだけで肩が凝ってしまうほどの寒さに凍えた
それ以上に、
肝も、冷えた
定期券を紛失したのだ
ICOCAという電子定期券を、私はケースに入れずにむき出しで持っている
あのつるつるを触りたいからだ
あのつるつるが好きな人はいないか
つるつるのままだと、確かに落としやすいのだが、とはいえ紛失したことはこの9年間なかったため、慢心していた
改札を出ようとして、血の気が引いた
ない、定期がない 私のつるつるがない
コートのポケットを裏返しても、バッグをひっくり返しても、ない、どこにもない
ICOCAには7000円ほどチャージしていたし、半年購入の定期数万円分が入っている
一年の終わりには痛すぎる出費だ
乗り換えまではポケットの中に確認していた
きっとどこかで落としたのだ
もしかしたら、「落としましたよ」と声をかけてくださった方がいるのかもしれない
ただ、私はノイズキャンセルのイヤホンをつけて「ちゃんみな」に聞き惚れていて外の音が何も聞こえていなかった
ちゃんみなさんに罪はない
駅員さんに事情を話し、改札を出ることができた
会社についてからも茫然自失で仕事の準備もままならない
私は性悪説の人間だった
きっと定期を拾われ、コンビニでパンでも買われてるに違いないと思い、悔しくて涙が出た
遺失物センターの案内を駅員さんにされたので電話をかけてみたが、正直ダメ元だった
人生そんなに甘くないことは知っているのだ
電話をかけた私の第一声は、
「あの、定期を落としたんです、私です」
日本語がおかしい
動揺し、すっかりIQ3になっていた
電話口の女性はベテランさんなのだろう、優しい口調で、
「大変ですね。まずは落ち着いてください。定期は出てくることがおおいですから」と言った
ほっとした
その顔もわからぬその人の言葉に、ものすごく安心をさせてもらった
私は落ち着いて話をすることができた
すると、
「届いてます、○○駅の駅長室に」とのこと
電話口で、歓喜の声を上げたのは言うまでもない
丁重にお礼を申し上げ、電話を切った
私は安堵するとともに、自分の心の狭さを恥じた
世の中には、いい人もたくさんいるものだ
拾ってくれた方、本当にありがとうございます、そして、疑ってごめんなさい
そして電話のお姉さん、あなたのような言葉を伝える人間になりたいです
言われた駅の駅長室にいくと、
珍しく身バレをし
「届いてます!」
「応援してます!」
「今度は気をつけてください!」
と威勢良く出迎えてもらった
恥ずかしすぎて、笑顔がおかしいことになってたと思う
申し訳ない
しかし、再会したICOCAは相変わらずつるつるしていた
やっと会えた嬉しさに頬にも擦り付けてやった
こんな冬至の締めは、柚子湯
私の身も心も、ほかほかつるつるになればいい
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