エピソード3:ポテトの行き先は
「この前はゴメンね‥ドタキャンになっちゃって。」
12月の中旬、世間がフワフワと落ち着かない空気になる頃。キミとモスバーガーでチキンを頬張りながらおしゃべり。
キミの都合は充分に分かってるし、仕方ないことはお互いにいっぱいあるのでほんとに気にしてない。それにこうやって次に会えた時にその分余計に嬉しくなるし。
「ん。ありがと。」
少しへの字に曲がっていた口元が緩んで、反対側に曲がった。けれどすぐにまた元のへの字側に戻してこう続けた。
「それはそうとさ!せっかく一緒のテーブルでごはんを食べるのに、真ん中にコレがあるのは許せない!」
そう言ってテーブルの中央に固定された透明のアクリル板に憤ったキミは、向かい合わせではなくボクの隣りに座ってポテトを摘んでいる。
4人掛けのテーブル席に2人だけで隣り合って座るなんて初めての経験なので、妙にソワソワして落ち着かないボク。しかしそんなことはお構いなしのキミ。アクリル板に間を遮られることがよっぽど気に食わないらしく、それならとキミが隣りに座った時のボクのこっそり動揺といったら無かった。
面と向かって顔を見れない淋しさはあるものの、顔を見れないからこそ普段より小気味良くお話出来ることに気付いて、その淋しさと嬉しさの両方を天秤にかけてみる。
ほんとは顔を見たいなぁと思いつつも、そんな気持ちの傾きはどっちでも良くて。久しぶりに聴くキミの声にじっと耳を傾けた。
最近はあんまり頻繁には行けてないけど、もうすぐ大好きなスノーボードのシーズンになるから楽しみとはしゃぐキミの話を聞きながら、ボクはハンバーガーにかかっているオーロラソースがこぼれないように細心の注意を払いつつモグモグ。
でも実はあんまり食欲ないと言うキミの落ち込んでいる理由を聞いて、チキンを食べて。
落ち込む必要なんか全く無いキミの対応を逆に褒めて、キミの口にポテトを突っ込んで。
照れ笑いのような、でも少しまんざらでも無いような様子で笑顔になったキミは、ポテトもぐもぐしてクラムチャウダー飲み飲みした後にホッとした顔になって。
しばらく話をしていたら、隣り合いながらもチラチラと顔を見て話が出来るように。
たまに交わる視線の角度が普段と違って、これはこれで楽しい。
クリスマス当日でも無ければ気合いを入れて下調べしたランチでも無いけど、ボクの日常の延長線上にキミが居て、落ち込んだり喜んだりするたびに目の前でクルクルと表情を変えるキミの様子は全く飾ってなくて、ボクは特別でもなんでもない日を特別に感じられる幸せを噛み締めながらチキンを噛み締めた。
‥
さてさて。
本日のメインに向かいますか。
「わーい!甘えちゃいます♪」
そう、なんせ世間はクリスマスに向けて浮かれムードまっしぐら。
どうせならとボクもそれに乗っかってキミに何かプレゼントをあげたいなぁ、一緒にやいのやいの言いながら選びたいなぁと。
遠慮の様子を見せつつも、どうせボクが引かないのは分かってるキミ。お言葉に甘えてくれるのがまた嬉しいボクは、今から向かう雑貨屋さんに合わせて色々と予定を練り練りして迎えた今日この日。
「何にしようかなぁ‥こんな風に悩むのなんて久し振り!」
そう言いながら見せてくれている顔が果たしてボクの前だけのものなのかどうか、そこはあまり考えないようにしている。
こうやって偶に会えるようになったのはここ最近の話で、少し前は殆ど会えなかった。
かなり前はすごく頻繁に会ってた気もするけど。
それぞれの時期にそれぞれの生活があって、ボクの知らない場所でも今ボクが見ているのと同じ顔を誰かに見せているかもしれないとか考えてしまう。
もしかしたらそんな事はなくて、実はキミもボクと同じ気持ちなのかもしれないという淡い期待もしたりするけど、でもそれは一緒にいる時だけの特殊効果の産物で。
離れた瞬間にその特殊効果は霧散して消えてしまって、後に残るのは一方的に肥大化したこの気持ちだけ。
今のこの時間が楽しければ楽しいほど、バイバイした後にはこんなことばかりが頭の中を堂々巡りして身悶えしてしまうのが常。
こういう後ろ向きな気持ちも一緒に持ちながら、それでもキミとのプレゼント選びはやっぱり楽しくって困ってしまった。
特別なものよりも普段使いするものをプレゼントしたかったので、ボクが良いと思ったのはグレートーンで落ち着いた色味の小さめの手提げトート。中に縦の仕切りが付いていて、ポーチやら財布やらスマホやらがごちゃごちゃしないようにしまえるのが良さそうだなと。
「えー、このトート使いやすそうだなー。でもこの小ぶりの水筒も良いし、悩むぞコレは‥」
ん。じゃあ両方プレゼントします。
「ほんと?わーい♪ありがと♪大切に使うね!」
キミの普段の生活の中にボクがプレゼントした物が息づいているのを考えるだけで嬉しくなってしまって、レジで並んでいる間ずっとニヤニヤしていた。
会計を済ませて、キミを探しながら店内をウロウロしていると、文具コーナーからボクを手招きするキミの姿を発見。何かカワイイものでもあったのかしら。いそいそと近づいていく。
「私も何かプレゼントしたいから一緒に選ぼ♪」
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