エピソード4:キミが選んでくれるなら
「何にしよっかなー?」
フンフンと軽く鼻歌のようなひとりごとのような何かを小声で口遊みながら、キミは店内を物色している。
プレゼントをあげることしか頭に無かったボクは、キミから何か貰えるとなると途端にソワソワしてしまってフワフワしてしまって、何も浮かんでこない。目に入ったものを手に取ってはピンとこずを繰り返しながらウロウロしている。
「お仕事用のものだったら普段使い出来るよね?でもどういうものをお仕事で使うんだろ‥」
それだ!
考える手がかりをもらったボクは、仕事で使えて且つ長く使えるものに絞ることにした。使い終わったら無くなってしまうのものじゃなくて、ずっと使えるものが欲しい。
‥ペンがいいな。
うん。それだ。ペンが欲しい。
文具売り場で一緒にペンを選ぶことにした。
「このペンカッコいいね!出来る営業マンって感じがするよ♪」
もっと普通のがいいな。
「えー!私だって何か良いのあげたい!」
普通に普段使い出来るものがいいの。
「むぅ‥じゃあ普通のでカワイイのを選ぶ!」
見た目が明るい色のペンがいいかな。失くしたくないから、落としてもすぐに気が付くように。
「これはどう?春っぽくてかわいくない?まだ冬だけど」
鮮やかな萌黄色のボディにゴールドの金具の付いたそのペンは、見た目がカワイイだけでなく小ぶりでかさばらないので、仕事用の手帳カバーのポケットにピッタリと収まりそうだった。
「もっと高いものでも良いよ?遠慮してない?」
遠慮してない。これがいい。
キミが選んでくれたこれがいい。
「でも‥ちょっとこれだと私が申し訳ないから、今度またお礼に何かするね!」
じゃあ今度のバレンタインにチョコが欲しいです。買ったのじゃなくて手作りで。もしくはお弁当作ってもらって公園で一緒に食べたい。
ここぞとばかりに自分の願いを伝えると、キミは両方とも叶えてくれると太っ腹に約束してくれた。
この時キミから貰ったペンは、今もボクの手帳ケースの手前側ポケットにしっかりと収まって、ここは自分専用の場所だと言わんばかりに幅を利かせている。
雑貨屋さんを後にしたボクたちは、お互い何となく軽い足取りで歩道を歩きながら、その歩調に合わせて前後に少し揺れているキミの右手を、ボクの左手が少しだけ強引に捕まえた。
キミは笑った。
ボクはそっぽを向いている。
「手を繋ぎたいならちゃんと言うんだよ。もー、中学生みたい。そういうところ‥」
笑いながらボクを嗜めるキミの右手は、ギュッと掴んだボクの左手を振り解くことはせずに、繋ぎやすいよう握り直してくれた。
‥ん?
お目当てのチーズケーキ屋さんは店内飲食の時間が合わなかったので、テイクアウトでチーズケーキを買った。(店内にはチーズケーキ以外にもお酒がいっぱい並んでいて、特に日本酒が豊富なことを強くお気に召したキミのテンションはすごく上がっていて、お酒好きな家族と今度来ます!と店員さんに声高に宣言していた。)
車の中でチーズケーキを食べながらとても楽しく過ごしたのだけど、何を話したのかはあんまり覚えてなくて。
自分の気持ちが強く一方的なのは自覚しているのだけど、それが決して片方向なだけではないのかもしれないと少しだけ思えたボクは、別れ際にキミのお願いをしてほっぺに軽くキスをしてもらった。