#4_【サステナビリティ】③_サステナビリティ経営
前回は、サステナビリティ②として、前提となる考え方として「ESG思考」についてに触れた。
今回は、今後サステナビリティの中でも、企業の視点から考える「サステナビリティ経営」を取り上げる。書籍『サステナビリティ経営のジレンマ』の中で語られているエッセンスをまとめ、サステナビリティ経営とは何者で、なぜ進まないのか、それを阻む障壁について触れていきたい。
・「サステナビリティ経営」とはそもそも何者だ?
・書籍における定義
そもそも掴みづらく新しい経営、これまでとはまったく異なる経営手法、バックキャスト(実現したい未来から考える)を思考が求められており、日頃の組織や自分自身の思考がフォアキャスト(現在の延長線上に想定される未来を描く)であることから簡単にスイッチを切り替えることはできないことが腹落ちしない要因の一つと表現されていた。
確かにサステナビリティ分野は、アルファベットスープと表現されることもあり、わかりにくく、とっつきにく点があることは確かだ。
また、特徴として、「サステナビリティ経営」について理解できたとしても、時を重ねるごとにサンクコスト効果で方向転換が難しくなる特徴もあるとのことである。
書籍では、
『環境、社会、経済という3つの要素に与える影響を考慮した事業展開を行うことにより、事業存続や企業価値の向上を目指す経営』
と定義をしていた。
後段にある通り、ポジティブな影響を与える経営が求められている。
ESGといった非財務への取り組みを財務に繋げて企業価値を向上させていく経営であり、裏を返せば、財務情報と非財務情報の統合を試みていないということは、サステナビリティ経営の本丸に踏み込んでいないということになる。「サステナビリティ経営」は自社に変革を起こすためのきっかけであり、本業で社会課題に取り組み、自社の企業価値の向上に繋げることとも表現されている。
話はズレるが、あるセミナーにて、非財務を未財務と表現されていた。聞いた瞬間、長期的に財務に効いてくる点がうまく表現されており胸の真ん中に刺さった覚えがある。
・伊藤レポート3.0 SX
今回取り上げる書籍からは離れるが、「伊藤レポート3.0」においても、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を以下で表現しており、サステナビリティ経営の推進が最終的には、自社の持続的な成長と価値創造につながると定義をしている。
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220831004/20220831004-a.pdf
SXとは、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」を同期化させていくこと、及び、そのために必要な経営・事業変革を指す。
同期化とは、企業が社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味する。
社会課題をビジネスチャンスと捉えて機会創出ができれば、サステナビリティ経営の未来はきっと開けてくると
・SDGsが言いたいこと
一見達成不可能に見えるムーンショット目標を掲げて、それを達成するためにバックキャスト思考によるイノベーションを創出を促している。
特定企業の短期利益最大化を目的とする株主資本最大化から脱却し、人と地球のウェルビーイングのために全てのステークホルダーと共創するグローバルステークホルダーモデルに移行する必要がある。
〈参考〉
・企業がサステナビリティ経営に取り組まなければならない理由
社会が持続可能ではない状態に陥っているから。
・温室効果ガスが蓄積し、気温が上昇しているため、このまま進むと人類へ大きな負の影響が発生する
・生物多様性が失われ、生態系に大きな影響が生じ、レジリエンスが低下する
・経済格差の問題、差別などの人権問題も解消の目処が立っていない。
現在の社会において、企業は極めて大きな影響力を持つ存在であり、持続可能でない社会を作り上げてきたのも企業であるが、持続可能な社会に戻すべきなのもまた企業。環境や社会が成立しなければ企業は存在し得ない。
戻すには、世界中のすべての企業が、環境や社会によりポジティブなインパクトを創出するためにトランスフォーメーションをせねばならない。
https://www.youtube.com/watch?v=qFo-tEWuV6o
・サステナビリティ経営の現状
・SDGsを経営に取り込むことに奔走
SDGsを機会創出よりもリスク回避に力点を置いてしまった。多くの会社で活用したであろうSDGs Compass(SDGsの行動方針であり、 企業がSDGsを経営戦略に取り入れるための手順や方法をステップ1から5の段階に分けて説明)が機会創出よりもリスク低減や責任が強調して記載されていることも企業の機会創出に対するネガティブな動きを後押ししたのではないかと思うと言っている。
自ずとコストがかさみ、コストを回収するチャンスがない状態が続けば、持続可能な取り組みではなくなってしまう。
既存事業が社会に及ぼしている負の影響を軽減するリスク低減の方針を検討することだけに注力し、正の影響については、既存事業が現状創出している社会価値以上のことは検討を行わなかった。
既存事業の売上がアップすれば、それに伴って生の影響は増加するものの、それ以上の新たな社会的インパクトは創出されない。
我々が現在豊かな生活を享受できているのは、多くの企業の挑戦と不断の努力の積み重ねによるものであることは論を俟ちないが、時代は変わり、企業経営は新たなフェーズに突入した。新たな貢献の形を模索する必要がある。
例えば、
気候変動危機問題は、産業革命後に産業や経済が発展する中で大きくなってきた。
経済格差問題は、資本主義経済下で安く仕入れて高くうるという利益創出スキームが助長してきた面があると言える。
こうした特に先進国企業の経済活動全体が一方で社会課題を生み出し続けてきたわけなので、あらゆる企業が負の影響を軽減することに加えて、新たな社会的インパクトを創出し、経済システムを変え、協力し合いながら社会課題を解決していかなければならない。
機会:新しいビジネスチャンスや企業価値向上への道筋
リスク:取り組まないことで生じる企業価値毀損の可能性
アウトサイドインアプローチ:自社の事業スコープや現状の実績を起点に考えるのではなく、社会課題を起点に発想する方法
→アウトサイドインアプローチを活用すれば、既存事業を前提としない優先課題の検討が可能となり、リスク低減の観点だけではなく、機会創出にも目が向けやすくなる。
・機会創出ではなく、リスク低減の文脈で捉えられるESGへの取り組み
ESGへの取り組みと企業価値の間に相関性があることが発見されても、因果関係があるとは限らず、収益性が高くはない日本企業がESGに取り組むことに対しては一部の海外の投資家からは厳しい目が向けられているという側面もある。
話はズレるが、因果関係を証明できたらノーベル賞ものとの例えをあるセミナーにて耳にした。確かにそれが現状である。
とはいえ、確からしさはデータを活用するなどの努力によって高めることはできるとも言っていた。
資本コストを意識すればするほど、企業は攻めの機会創出ではなく、守りのリスク低減に意識がいく仕組みになっている。
投資家にとってのリスクは、企業の将来の収益についての見通しが立たないことによって生じ、投資家はより多くのリターンを求めることになるため、資本コストが上がってしまう。例:脱炭素や人権問題、コンプライアンス不備があるとリスクが高くなる。
統合報告書
財務情報と非財務情報の統合を試みて検証する
リスク低減を中心とした非財務への取り組みは一定の効果が見込めるが、財務への大きなインパクトを創出する要因としては脆弱なため、非財務と財務の統合はなかなか進まない。
・サステナビリティ経営のジレンマ
・5つのジレンマ
書籍では、以下5つのジレンマがあると言う。
・社会課題の特徴
企業が取り組んでいる多くの課題は、対価の発生を伴う顧客課題であり、多くの社会課題は対価を支払う顧客が存在しないため、資本主義経済のもとでは放置されがちで、なかなか解消されない。
顧客課題の変化は業績に直結するため、企業は俊敏に反応し、対策を取るが、社会課題の変化に対しては、企業はあまり敏感ではないことも社会課題が放置され、サステナビリティ経営がうまく進まない要因の一つと述べている。
サステナビリティ課題の多くは、これまで経済的合理性が見出せなかったからこそ取り残されてきた課題であり、これらの課題解決を通じて利益を創出することは、本来的には困難を伴うものである。だからこそ、イノベーション(革新的価値創造)の実現により、課題解決と経済的合理性との両立を可能とするビジネスモデルの構築が重要となる。
企業経営や投資行動が短期志向に陥ってしまうと長期目線でイノベーションに取り組み、事業としてスケールさせることが困難となる。
・パーパスの重要性と位置付け
パーパスが遥か彼方のゴールを指し示す北極星であるならば、視点を未来に向けなければならない。とはいえ、直近の業績が振るわなければ、未来どころか明日さえも危ぶまれる事態に陥ってしまいかねないのも事実である。
このような事態に陥ると目先のことに100%の意識を向けてしまうケースが多いのもサステナビリティ経営がうまく進まない大きな理由であると言う。
パーパス:
企業の社会的存在意義(何のために存在するのか)
→社会課題に向き合うこと
ビジョン:
目指す姿(実現したい方向や姿)
ミッション:
何を実現するのか(パーパスやビジョン実現のために行うこと)→顧客課題に向き合って事業を行うことや自社内の課題に向き合って変革を起こしていくこと
バリュー:
価値観や行動指針(どのような価値観に基づき実現するのか)
マテリアリティ:
パーパスを達成するために取り組むべき課題
・社会課題に取り組むのは既存事業か新規事業か
既存事業の社会価値を高めることは難易度が高い。
既存事業から考えると社会課題から発想するアウトサイドインアプローチではなく、どうしてもインサイドアウトアプローチとなり、顧客課題に向き合うことが中心となってしまう。難易度が高いだけであって、既存事業では解決できないとまでは言っていない。
新規事業の場合、既存事業と異なり、まだ顧客課題への提供価値を明確に定めていないため、社会課題ドリブンで着手することはそう難しくない。
どのようにして事業と接続してビジネスに仕立てていくかは次の難関が待ち受けているものの、ヒントとしてSDGsのターゲットの中から取り組む社会課題を選定できれば、アウトサイドイン型の新規事業となる。
〈参考〉SDGs 169のターゲット
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/index.html
・アウトサイドインアプローチの正体
単に社会課題に取り組むことだけを考えると慈善事業やCSRとなってしまうため、収益化ができなくなる。
そこで、社会課題解決のアプローチを顧客課題と結びつけて収益性を伴う事業に仕立てる。
社会課題を解決しながら、顧客ニーズにも応え、事業利益を上げるモデルをいかに作り上げるかがポイントとなる。
大手企業がジレンマに陥りサステナビリティ経営へのシフトに手こずっている間に、中小企業やベンチャー企業がディスラプター(新しいアイデアや技術を駆使し、既存の業界の秩序やビジネスモデルを破壊するベンチャー企業などのプレイヤーなどを指す)となり、市場を奪われてしまう可能性も大いにある。
逆に言えば、中小企業やベンチャー企業にとってはチャンスである。
・サステナビリティ経営のジレンマを乗り越えるために必要なこと
・マテリアリティの再定義とKPIの設定
既存事業のバイアスにとられずにアウトサイドインアプローチで再定義していく。
Step1:
事業として取り組みたい社会課題、個人として取り組みたい社会課題をSDGsの169ターゲットをベースにあげてみる。
Step2:
Step1にてあげられた社会課題を「社会のサステナビリティの観点での重要度」「自社のサステナビリティの観点での重要度」の2軸で整理し、優先的に取り組むべきマテリアリティ特定する。
Step3:
Step2で特定されたマテリアリティを「事業マテリアリティ」と「経営基盤マテリアリティ」に大別する。
事業マテリアリティは、本業を通じて取り組む課題を指す。
経営基盤マテリアリティは、事業推進や経営基盤強化につながる重要課題で、直接、利益に貢献する取り組みではないものの、中長期的な企業価値向上には欠くことのできないテーマとなる。
Step4:
マテリアリティに対するKPIを設定する。
具体的なKPIを設定することで初めて事業と接続することができる。KPIが定まっていなければ、実現のための戦略構築も進みませんし、活動の評価すらできない。
マテリアリティ=理想の未来を実現するための重要課題の位置付けのため、KPIも同様に野心的な中長期的な時間軸を踏まえる必要がある。
本当の意味で社会的インパクトを創出するためには、アウトプットではなく、アウトカム(環境や社会への変化や成果)からKPIを設定していく。
・自社の目指す方向性であるパーパスを発掘する
本来は企業の歴史や哲学に内在しているはずの概念のため、パーパスを創出するのではなく、発掘する。
前段:自社の強みや価値、独自性を表現する。
創業から培ってきたものを棚卸していく。歴史的資産、強み/競争優位性、大切にしている価値観/情熱(パーパスやミッションのように明文化されていなもの)
後段:社会や世界にどう貢献する、社会のどのような課題を解決する、どのような社会を目指すかを表現する。
パーパスは極めて重要だが、PRやブランディングをする必要はない。パーパスは組織の人々の進むべき道を照らし続ける北極星であれば良い。
SDGsワッペン貼りとならないために、①自社のパーパスやマテリアリティは本当にビジネス人生をかけて解決したい課題なのか、②経営陣や従業員も同じような思いなのかはクリアする必要がある。
理想の未来を描き、解決したいと心の底から思える社会課題からパーパスやマテリアリティを再構築しなければ、競合他社と同じになり、独自性が出ないし、長期といえど実現されない。
・CSV経営モデル
Creating Shared Valueのことであり、日本語では「共通価値の創造」と表現される。マイケル・E・ポーターとマーク・R・クラマーがHarvard Business Review誌の2011年6月号に発表したものである。
本業で社会課題に取り組みながら事業としての利益も上げるビジネスモデルであり、社会価値:社会課題に対するインパクトと経済価値:自社の事業利益の両立を目指す経営を指す。
経済が発展すれば環境に悪影響があって当然とういう考え方が一般的だったことから、従来社会価値と経済価値は両立しないと考えられていた。
CSRと混同されがちであるが、CSVは社会課題を「機会」と捉え、CSRは社会課題を「責任」と捉える点でスタンスが異なる。
サステナビリティ経営との関係では以下のように整理される。
サステナビリティ経営は、広い枠組みで社会や環境を考慮した経営全体の方針を示し、CSVはその中で具体的な価値創造の方法論として活用される。これらは相互補完的な関係にあり、どちらも現代の企業が持続可能な社会の構築に貢献するための重要な考え方である。
・ビジネス環境のCSV
CSVには3つの種類があるが、中でも極めて大きな経済価値をもたらすのが、「ビジネス環境のCSV」であると紹介されている。先義後利(せんぎこうり)的な要素があるが、シナリオが間違っていなければ大きな利益となる。
ステークホルダーの課題は、自社の経営に悪影響を及ぼす可能性があるが、反対に考えると、ステークホルダーの状態がよくなることで、自社のビジネスの効率が上がる可能性がある。
社会課題と関係が深い潜在ニーズを掘り起こすことで某大な需要が見込める自社に関連するビジネス環境を整えたり、課題を解決することで生産性をあげたり、自社の利益を向上させる。
ビジネス環境のCSVに関連して、経済産業省では、「市場形成力」の重要性を取りまとめている。https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220322008/20220322008-1.pdf
野心的なビジネスプラン(ムーンショット)を立てて、バックキャスト思考によるイノベーションを創出すること。プランに対するギャップを日々確認し、フォアキャスト思考も織り交ぜながら改善を重ねていくことで、「社会的価値」と「経済的価値」の両立に向かうことができるという。
・価値創造プロセスでパーパスの実現と価値創造の道筋を示す
・価値創造プロセス
価値創造プロセスは、サステナビリティ経営の全体マップであり、どのようにして社会価値と経済価値を創出、統合しようとしているのか、パーパスの実現と企業価値創造の道筋を示すものである。
〈参考〉国際統合報告フレームワーク(オクトパスモデル)
https://integratedreporting.ifrs.org/wp-content/uploads/2015/03/International_IR_Framework_JP.pdf
上記フレームワークにおいて著者は以下を強調する。
アウトサイドインアプローチであることを示すため、マテリアリティと紐付ける事業戦略には既存事業だけではなく、新規事業も紐づける。
アウトカムにKPIの設定をし、示す。
他の企業資本の増減を司る特に人的資本が重要であることから、インプットは人的資本を他の資本から一線を画するように表現する必要があるという。
アウトカムは、「社会価値」と「経済価値」を分けて記載し統合されていることを意識する。「社会価値」と「経済価値」を同時に実現するということは「財務」と「非財務」を統合することでもあるため、結果指標の羅列にならないようにする。同時に実現したいことが伝わり、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」の同期化するというSXのあり方を表現したものになる。
・内部監査だからできること
現実問題、ジレンマは存在する。今回まとめてきた「サステナビリティ経営」概念的なものが多く、実現するためには数々の工夫や工数を要することは確かである。そもそも掴みづらく新しい経営であり、これまでとはまったく異なる経営手法であるが、踏み出さなければ、「サステナビリティ経営」は実現されない。
ジレンマがあることを認識しつつも、その中でトライ&エラー、PDCAを回すことにより、自社が目指すパーパス(ビジョン)は誰もが納得感のあるものとなり、自社ならではの生身の姿が社内外に伝わり、実現に近づくものだと考える。
そんな中、経営と現場のパイプラインであり、業務執行状況の監査をする内部監査がサステナビリティ経営のジレンマに陥っていないかを独立性と客観性をもち冷静に見極め、目指す姿と現実のギャップについて提言をすることで、自社のサステナビリティ経営が目指す価値創出に寄与することができると考える。
また、アドバイザリー機能をフル活用して、サステナビリティ関連リスクや機会の抽出やフォーサイトを通じて経営推進に寄与することも可能と考える。
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