目的地に向かう中継地点、知らない街が、忘れられない場所になる
2019年、社会人一年目の秋。
ラグビーワールドカップの熱気に包まれる東京。
仕事の飲み会帰り、ぼーっと電車に乗っていた私は、
ユニフォームを着た外国人を見て、名前も知らないある人とある街を思い出していた。
***
半年前、大学4年の春休み。
社会に出る直前に、「最後の旅」と称してヨーロッパ17カ国を巡る旅に出た。
「最後」と言っても、初めてのひとり旅。
無知すぎるが故に不安は一切なく、有名な観光地を巡ろうという期待と、2日前に買ったばかりのバックパックを背負って出発した。
パリやローマ、バルセロナと言った有名都市。
写真で見たことのある建物や絵画。
日本とは全く違う街並み。
ドミトリーで出会う世界中の人々。
ルートを決めない、その日暮らしの生活。
毎日が刺激的だった。
出発して約1ヶ月が経ち、旅にも少し慣れてきた頃、オランダにいた私は1人の日本人バックパッカーと出会う。
「スイスの景色が最高だから絶対に行くべきだ」
彼の一言に惹かれ、それまで全く頭になかったスイスを次の目的地に。
そして、オランダからスイスまでの中継地点として、ドイツのケルン、フランスの世界遺産ストラスブールに泊まることにした。
しかし、ストラスブールに滞在中、ひどい熱を出した。頭痛と関節痛でベッドから出ることができずに丸2日。
やることもないためネットを見ていると、近くにジブリ映画『ハウルの動く城』のモデルになった街があると知る。
その街が、私の忘れられない街、コルマール。
それまで訪れたどの街よりも可愛い街並みに胸が高鳴った。
お昼過ぎ、陽気な音楽に誘われてとあるバーを覗くと、スカートを履いたおじさんたちが50人近く、お酒を飲みながら歌って踊っている。
その中心で一際大きな声で歌っているおじさんと目が合い、中に招かれる。
目が合っただけなのに、なぜか気に入ってもらえたようで、ビールと白ワインをもらい、
「日本から来たよ子だよ」とみんなに大々的に紹介された。
そして私もみんなの中に混じって、1時間ほど楽しい時間を共にした。
よくよく話を聞くと、着ているのはスカートではなく「キルト」という伝統衣装で、
この集まりは、病気の子供たちを支援する団体と、ラグビー関係の集まりらしい。
「今度のワールドカップは東京だから観に行くね」と言われた。
***
偶然に偶然が重なった結果訪れた街で、偶然の出会いにより、コルマールは私の忘れられない思い出の街になった。
旅は、偶然の出会いによってより面白くなる。
誰と出会うか、ストリートミュージシャンがどんな音楽を奏でているか、天気、その日の気分。
次にこの大好きな街を訪れる時も、偶然の出会いに身を任せたい。
運が良ければ、彼らと再会できるかもしれない。
また別の、素敵な出会いがあるかもしれない。
「最後の旅」と称したはずが、この旅を思い出すと夜も眠れず、
あぁ、また旅がしたい。
と、そう思う。
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