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【声劇】けむたさ(邂逅)男性side



「ただいま。」

返事がないことが分かっていても、毎日家に帰るとただいまと言い線香に火をつける。

「やっぱり墓地よりこっちに君はいると思うんだよね。」
ネクタイを緩めながらお湯を沸かす。

あの日から欠かさず続いている、写真の君との会話。どんなことも話してきた、それは今でも変わらない。
キッチンで手際よくコーヒーの準備をする、カップは二つ。

「はい、君の分だよ。」

写真の前に、甘い香りのする方を置く。

「熱っ......あ、君の分はコーヒーじゃないよ。
一覚えてるかな?」

君の笑顔の前で、カップから漂う甘い香りと、偲ぶ煙が部屋を包み込む。

「初めてのバレンタインだったね、君がチョコとこのネクタイをくれた次の朝、俺がホットチョコレートを渡したらさ、君は甘いって笑って...」
「そうだ、今日花屋で見かけて買ってきたんだ。
あの時とおなじ赤いバラを5本。」


ホットチョコレートの湯気と線香の煙が、揺れた...

「君はいつもそこで笑顔でいてくれてるね...
ね、バラ5本の意味.....前に話したね。」

君のそばにバラを置いた。

「君と出逢えて嬉しかったよ。」

涙で視界がぼやけてきた、君を想うといつもこうだ。

「ねえ、俺は...今でも君に逢いたいよ...」

こらえきれず、肩を震わせ声をあげる。
届くはずのない願いが部屋に響く。
たゆたう白い煙が、大きく、揺れた。

「...っ。」

どのくらいこうしていたんだろう。
ふと何かの気配を感じて顔を上げる。
部屋の中は線香の煙とホットチョコレートの甘い香り。

「......いるのか?ここに...」

薄く拡がった煙の中からぼんやりと、次第にくっきりと形が分かるようになった......逢いたいと想い焦がれていた..君の姿。

「本当.....なのか?本当に君、なのか?」

静かに白い腕が伸びてきて、俺の正面から背中へ..いつも君が抱きつく時の仕草。間違いない。
「ぁ…っ。」

そっと君を抱きしめる、霞のように手応えはないが確かに君が、ここにいる。


震える手で頭を撫でて頬に触れる。愛する人を確かめるように、大切に。
ずっと見たかった笑顔だ...思わず顎を持ち上げ......
キスをした。彼女も応えるように踵をあげた。

「ん...」

気がつくと、俺はソファに座っていた。

「〇〇?」

さっきまで抱きしめていた君を探す。
偲ぶ煙も、甘い香りも、そして君も....見えなくなってしまっていた。

「夢...か...?」

俺の隣、君がいた場所にはバラが2本。

「〇〇?」


写真の傍にはあの時からずっと見つからなかった
ネックレス。そして3本...君からのメッセージ。


「やっぱり知っていたんだね、バラの意味。」ネックレスを君にかけてその赤い花弁に触れる。
「〇〇、出逢ってくれてありがとう。.....愛してるよ。」

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