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【声劇】猫のバレンタイン



僕はご主人のそばに置いてあるカゴから水色の毛糸玉で遊ぶのが最近の楽しみ。飽きたらご主人の膝の上、そうしたらご主人が優しく撫でてくれる。
最近は編み物が終わったのか、今度は何かペンで書いてる、時々「ふふっ」って笑いながら。

遊んで欲しくて、膝に擦り寄り見上げると、手を止めて優しく撫でてくれる。

「遊んで欲しいのかなー?ちょっと待ってね?」

ご主人は僕の言ってることがわかる、だって「そうしそうあい」っていうカンケイなんだから。

しばらくして僕を抱いて毛糸玉を選ばせてくれた、コロコロと2人でキャッチボール、僕の1番の楽しみ。

「ふふっ、キャッチボール上手くなったねー、いいぞっ」

ほら、ご主人もご機嫌。

「あ、そろそろ焼けたかな?」

不意にご主人がキッチンへ移動した、部屋の中はとっても甘い香りがしてる。

「うん、いい感じ。ラッピングして明日…受け取ってもらえるといいな」

あれ?僕のじゃなかったんだ
ご主人の足元をスリスリしてたら、僕に気がついて、

「あ、そろそろご飯食べる?」

と言っていつものカリカリのごはんを出してくれた。
違うんだ、その甘いヤツ!僕のじゃないの?

「これはね…明日、大好きな人に渡すんだ…ほら、こないだまで編んでたマフラーあったでしょ?それと一緒に」

えっ?あの布も僕のじゃなかったんだ?

「チョコレートとマフラーと、私の気持ちも伝えられるかな…」

ご主人はちょっぴり不安そうに僕を撫でながら話す。

そんな顔されたら、僕もなんて言っていいかわかんないよ…

「でも明日、勇気出して頑張る」

ご主人は僕をぎゅっと抱いてから、またいそいそと作業を始めた。
僕は甘い香りのするキッチンでいつものキャットフードを食べた。


「行ってくるね、チュッ」

いつもよりお洒落したご主人は、いつものように僕に行ってきますをして元気に出ていった、甘い香りの包みと、水色のリボンのついた紙袋を持って。
……きっと今日、それを渡すんだ、ご主人の気持ちを伝える日……テレビではバレンタインって言ってたっけ。

その日の夜、ご主人は朝持って出た荷物をそのまま持って帰ってきた。

ご主人、渡せなかったんだ……

「う…っ、ひっく…」

ご主人、泣かないで、僕がそばにいるよ
精一杯優しく頬をすりすりするけど、ご主人は大粒の涙をポロポロ流して声を殺して泣いてる…
ねぇ、ご主人、そんなに泣いたら壊れちゃうよ

「わぁぁ……」

ご主人…
僕が…僕が人間だったら……
ご主人を悲しませるようなことしないのに……
こんなに泣かせることしないのに……
僕が…人間だったら…!

「…っく……んっ……あれ?」

「あなた……だれ?」

ご主人!…あれ?僕もしかして声出ないのかな?

「さっきまで私は猫を……」

そうだよ!その猫は僕!あー、声が出ないってもどかしい!
あ、いつもご主人がやってくれるみたいに頭を撫でてあげたら分かってくれるかも

「…?誰だかわからないけど、どうしてそんなに優しく撫でてくれるの?」

気づいて…ご主人!

「もしかして…え?夢?…あなた…うちの猫?」

そう!そうだよご主人!(抱きしめる)

「わっ」

泣かないで、ゆっくりでいいから、またいつものニコニコのご主人に戻って

「…今…聞こえた…ありがとう、待っててね、泣くのは今だけだから」

ご主人、僕が人間だったらいっぱい幸せな気持ちにさせてあげられるのに…
今だけ、ぎゅってしてあげるね

「ありがとう、今とっても幸せだよ」

大好きなご主人が、ずっと笑顔でいてくれたら…
僕も幸せだよ

「あ…、え…夢……?」

あーあ、人間の姿はちょっとだけだったなぁ……

「ねぇ、お前が人間になって来てくれたの?」

ご主人、そうだよ、こうやってなでなでしたのは僕だよ

「ふふ、くすぐったいよ…、夢でね、そうやって撫でて抱きしめてくれたの、嬉しかったなぁ」

僕なんだってば、、ってもう伝わらないのか…
ま、いいか、こうやってくっついて寝てられるからね

にゃー

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