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ブルーピリオドが教えてくれたこと

「ブルーピリオド」は、私にとって特別な作品。こんなに何度も漫画を読み返したのは初めてかもしれない。本も漫画も、一度読んだら終わりだったのに、この作品だけは違った。読むたびに心を揺さぶられ、毎回号泣している。きっと今の自分にとって必要な言葉が詰まっている。


「それで、何を表現したい?」

「〇〇の何を表現したいの? 〇〇を何に表現したいの?  〇〇を何で表現したいの?」
「ソレを人に伝えるためにはどんな思いつきがピッタリくる?」「どんな描き方? どんなモチーフ? どんな素材? どんな大きさ? どこにどうやって置く?」「ソレが本当に伝えたいことにピッタリくるのか」

ー猫屋敷教授 (8巻)
※〇〇が作中では渋谷。モチーフのこと

ブルーピリオド 8巻

すごく衝撃的なシーンで、私の絵が今までどんだけペラッペラなものだか痛感した言葉だった。今まで私が描きたかったのは空。でもそれだけじゃ足りない気がして、空で何を伝えたいの?なぜ空なの?自由?なぜ空にこだわっているの?ただ好きだから?誰かに認められたいの?どんな感情を伝えたいの?今すべてが曖昧。


「好きだけでいいのか分からなくなる」

「好きなことに人生の1番大きなウェイトを置くのって普通のことなんじゃないでしょうか。」
ー佐伯先生 (1巻)

ブルーピリオド 1巻

この言葉に毎回号泣してしまう。それが本当はしたいのにできてない。好きだから続ける、シンプルにただそれだけでいいはずなのにそれじゃ生活できない。でも、本当は諦めたくないから悔しくて泣けてくる。

「好きなことをする努力家はね、最強なんですよ!」ー佐伯先生 (1巻)

ブルーピリオド 1巻

「自分らしく好きなことを仕事にしたい」と思って動いてきたけれど、今はそれさえも自信がなくなってきた。世間一般に言えばただの理想。「本当にこのままでいいの?」という焦りと葛藤。本音は好きなことで生活したい人生をかけたい。

ワークショップ開催?スクール開催?作品販売?展示参加?ハンドメイド作品?ウェブショップを始めたり、インスタを頑張ったり、手当たり次第に周りの真似をした。

本当に仕事になるの?ただの趣味じゃダメなの?作品として成り立たせたいなら、好きだけじゃ足りないんじゃないか?趣味以上の情熱はあるのに技術も量も追いついてない。ただの趣味だったらこんなに必死に描く意味ってあるのかな?みんなに見せる意味ってある?ただの自己満?作家になるほどの才能はない?年齢的に無理じゃない? 結局私はどうしたい?


「自由でいい」と言われても、自由でいられない


「絵なんて自由でええねん」橋田 3巻
「自分が見えてる色があなたの「色」です。」ー佐伯先生 (11巻)
「作品の良さは技術ではありませんよ。」ー佐伯先生 (3巻)

ブルーピリオド

好きなように自由に誰にも縛られなくていい。アートは本来何を描いてもいいのに、「私の絵ってこれでいいの?」もっと考えてから描くべきなんじゃないの?感情をもっと入れて描かなきゃ。いや、考えすぎて手が止まるくらいなら、感じるままに描くべきなのか?何が正解なのかわからなくなっている。


「空を描く理由」

「あなたが青く見えるなら りんごもうさぎの体も青くていいんだよ。」
ー森先輩 (1巻)

ブルーピリオド 1巻

この言葉には本当に毎回泣いてしまう。私は空が好きで、空を描く。それだけでいいはずなのに。「もっと意味のある作品にしなきゃ」って、勝手に自分を追い詰めてしまう。

なぜ人でも動物でもなく「空」を描きたいのか。
たぶん、空はどんな私でも否定しない。私がどんな気持ちでいても、人と考え方や感じ方が違っても空はただ毎日そこにある。同じ思考や感覚になれなくても、私は私でいられるし、強制されず共存してる。その安心感が、描く理由になっているのかもしれない。

人物や動物には強く感情移入できない。他人に私の本心を曝け出すのは怖い。否定されたくない。私にとって絵は自分の今の感情や思考を思いっきり吐き出せる唯一の場所だから、自分を偽りたくない。他人を考えながら気を遣いながら絵を描くことをしたくないから人は描けないんだと感じた。


「本音を技術で武装する」

「デッサン力は大事だよ でも最も大事なのは自分の絵を描くこと。」
ー大葉先生 (2巻)

ブルーピリオド 2巻

私は美大を出たわけでも長年絵を描いてるわけでもないからきちんとデッサンができない。美術の基本知識もなく構図も光のバランスも意識してこなかった。

「やっぱり基礎は学んだほうがいいのかな」
「でも知識ばかり詰め込んだら自分らしく描けなくなるかな」

私が描きたいのは人じゃないし抽象画だからリアルに描く技術なんて必要ないと思っていた。だけど、その考えはただの逃げなんじゃないか。今の私の絵は、足りないものだらけだと漫画を読んですごく痛感した。自分の感情を絵に乗せているつもりだったけど、全然伝わってこない。技術力がなさすぎて表現できる範囲が狭い。

「話術(努力)で本音を隠すんじゃなくて 本音を技術で武装したらいいんじゃないか?」ー恋ちゃん (4巻)

ブルーピリオド 4巻

その言葉に、ざわざわした。技術は自分を縛るものではなく、もっと深く自分を表現するための武器。でも今の私にはそれがない。努力(作品量)も足りてない。「今のままじゃダメだ」って、はっきり突きつけられる気がした。だけど、私が本当に作家になりたいなら、絵で感情を伝えたいなら、表現力の幅を広げることを逃げずにしないといけないんじゃないかな。でも作家になりたいの?

「自己完結はあなたを小さくさせますよ。人に触れ、作品に触れなさい。」ー犬飼教授 (12巻)

ブルーピリオド 12巻

怖いけど、きっと今の私には外の世界が必要なんだと思う。美術館で絵を見たことはほとんどない。まして半年以上引きこもって仕事もできず軽い適応障害の鬱で動けないでいる。きっと私の表現も、もっと外に触れて感じて刺激をもっといっぱい受けて表現の幅を広げなきゃいけないんだと思う。


「アートは逃げ場じゃない」でも批判はどこにでもある

今までアートは正解がない、否定されない唯一の安全な場所って思ってた。絵を描いているときだけは「肯定されている」気がしていた。「人と違う感覚も、絵なら個性になる」

作中の大学の講義で教授から厳しい評価を受ける場面がある。さらに作家になってからもたくさんの批評があるという現実。アートは正解がないとはいうけど、学校でも社会でも結局は批判があって否定もされる。それを改めて本作で知った。アートの世界でもやっぱり「否定されない世界」なんてどこにもない。


「何のために描くのか」表現する意味

「才能なんかないよ。絵のことを考えてる時間が他の人より多いだけ。」
ー森先輩 (1巻)

ブルーピリオド 1巻

私もそうなのかもしれない。空を見ている時間だけは誰にも負けない気がすると思っていたはずなのに、でも、その「好き」だけじゃ足りないんじゃないか、そんな声が、心の中でずっと響いている。

絵ってさ 言葉だと伝わらないものが 伝わるんだよ 世の中には 面白いモノや考えが たくさんあるって 気づけるんだよ 「見る」以上に「知れて」 「描く」以上に「わかる」んだよ 。ー八虎 (2巻)

ブルーピリオド 2巻

確かに、絵を描いていると、自分でも知らなかった感情や、言葉にできない、文字だと出せない感情が絵ならドバドバ出てくる。でも、その感情を今はうまく絵に乗せられない。なぜこんなに描くことに迷っているんだろう?自分には絵を描くことでしか伝えられない何かがあると信じてきたのに、今はそれが必要なことなのかもわからなくなっている。

「自分と全く同じ世界が見えてる人なんてこの世にいないんですよ」
ー佐伯先生(11巻)

「芸術は正しいかより自分がどう感じたかが大事やろ」ー橋田 (2巻)
「作品はその作家が出した一つの答え」ー大葉先生(2巻)

「美術の見方はこうあるべきって思ってて いろんなものさし(価値観)があるんだ。むしろそのものさしの多さが視野を広げてくれるんじゃないか?」ー八虎 (10巻)

「もっと自分の描きたいものに真摯でいれるように もっともっと上手くなって表現の幅 増やして 世の中のこと知って もっと今よりずっと良い絵が描きたい」ー八虎(16巻)

ブルーピリオド

これに共感している時点できっと私は表現者でありたいって思ってるんだと思う。結局は全て価値観だから、色んな意見があっても最終的には自分がどう感じどう思うかが大切。解釈・捉え方。私の見えている世界とみんなが見えている世界が違ってもいい。それが正解・不正解や良い悪いではない。

「感動する時は理由なんかねーじゃん」そのあとなんで感動したかを考えるべきであってさあ」ー蝶矢教授(16巻)

「絵を描く意味はまだ見つけられてませんが スケールの大きい理由がないと絵を描いちゃいけないと思うのは違うかもしれないと...。」
ー八虎 (10巻)

「その時の感覚を理解されなくても、上手く言葉にできなくても、君が感じたことは否定しないでほしい。」ー小野(10巻)

ブルーピリオド

アートを仕事にするしないどれが正解かはわからない。自分が何を感じ何を考えているかを絵で表現したい。まだそれをやめたくない。答えはきっと一つだけじゃないし、価値観や考え方が変わればまた変わる。全部その時の最大の最適解。今できることはとにかくもっと描いて新たな環境に触れてみることなのかも。


長文なのに最後まで読んでいただきありがとうございました。
アート初心者が偉そうに何言っているんだと賛否両論はあると思う。所詮は漫画の中の話。読んだ個人的感想なので、全てをそのままリアルに受け取ってるわけじゃないし。実際にリアルアートの世界を経験してないからこそこのエンタメ性が惹かれるのかも。

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