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幼い自分との決別

青白く、透明で、静かな時間が流れるようになった。季節とは巡るものなのだ。

転職してこんなにも時間が経っていた。
今年も、あと1ヶ月で終わろうとしている。
最近の私はと言うと、強烈な欲求を持つこともなく、気が抜けてぼーっとしているのだ。
仕事は真面目にやっているけどね。
ただ、今月はちょっとお金が余ったから買い物しよう!と意気込んで出掛けても、結局何も買わず帰ることもあり、何だかぼやぼやしている。

でももしかしたら、これは過去の自分と決別するための時期なのかもしれないと考えたのだ。

そのあまりのみずみずしさに、私は自分の内側がかさかさしていることを感じずにはいられなかった。人々はみな髪を光に透かして幸福そうにすれ違ってゆく。すべては息づいて、柔らかな陽ざしに守られながら輝きを増してゆく。
生命にあふれ出すきれいな光景の中で、私の心は冬枯れの街や、夜明けの川原を恋しく思う。このまま、こわれてしまいたいと思う。
【吉本ばなな/ムーンライトシャドウ】

かつて私はこのような掠れた感情に馴染み、嵐のような荒い感情が自分を攻撃し、そして深い感情の底から抜け出せなくなっていた。
もう戻ってこれないとさえ思っていた。

苦しかった当時のものに触れると、今でもその瞬間の感情を取り戻すことができる。あの時何度も繰り返し考えたことや目に映る切ない光景、砂を噛むような感覚は未だに覚えている。

それが最近となって、なんとなく、自分に重くのしかかって離れなかった鎧のようなものが気付かれないように溶けていったように感じる。
それは突破口が見つからず彷徨っていた私を支配していた事柄が、いつしか遠い自分、幼い自分が抱えていたものに変わったことを意味している。

本能の光だけに動かされて這うようにして生きていたが、気付いた頃には熟成されていて、あの苦しい時期を過ごしていた幼い自分と別れるタイミングがきたのかもしれない。

それは止めることのできない時間の流れだから、仕方ない。私は行きます。また会える人がいる。二度と会えない人もいる。いつの間にか去る人、すれ違うだけの人。
私はあいさつを交わしながら、どんどん澄んでいくような気がします。流れる川を見つめながら、生きねばなりません。
【吉本ばなな/ムーンライトシャドウ】

幼い自分は永遠に消えることはなく、今の自分へと繋がっているものである。
しかしながら、何かを得る時は何かを失う時であり、馴染んでいたものと別れ移り変わってしまうことに戸惑わなくても良いのだと思う。
もう、一人で歩いていけるね。

#吉本ばなな #ムーンライトシャドウ

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