怪談ともつかぬこと 白い手
先にあげた二つが怖いと言われてしまったので
一番怖くないやつを。むしろ私は救われた気がするやつ。
私は就職氷河期世代である。
一応新卒で就職できたが、今思い返しても恐ろしいブラック企業に勤務
していた。(大学の就職課がブラック企業を斡旋する地獄であった)
帰宅できない日は当然あったし、就業時間の30分前出社が基本。
残業代は出ない(入社して2ヶ月はあったが、出なくなった)
9時〜18時のはずの勤務時間だが、毎日22時か23時で終電ギリギリまで
働く状況だった。
(なお給料も安い。時給換算したら400円を割っていたこともある)
説明すればするほど、泣けてくる。
どちらかというと、幽霊の類よりこっちがホラーであるが、
悲しいことに社畜は状況に慣れてしまうのだ。
上記のような割ととんでもない就労環境だった二十歳そこそこの頃。
いつものように、帰宅して自室のベッドで泥のように眠っていたある夜。
ふと誰かが私の右手を持ち上げた。
ぼんやりする頭でうっすら目を開けると白い手が私の手を取っていた。
真っ暗な中、肘から先はぼんやりしているが、ほの白い腕。
本能的に女性の腕だと思った。そしてなんとも言えない優しい手。
柔らかくて滑らかで、指の付け根と第二関節、第二関節と第一関節の
ふっくらした部分の感触がしっかりわかった。
優しげに手を取ってくれるが、体温は全く感じない。
リカちゃん人形とかの素材のような感触だった。
不思議と怖いとは思わなかったし、労ってくれているのかな・・
と、都合よく解釈してそのまま寝落ちした。
若い女性の優しい手(多分)ならまぁいいか〜と。
そしてひどく疲れていた。
実はこの頃、本当に色々余裕がなくて(大学時代の彼氏と別れる、
会社がブラック等)、今思うと正常な判断力が無かったのだと思う。
パタリと。支えをなくした右手がベッドに落ちて目を覚ますと
もう朝だった。数時間持ち上げたままだった腕が少々だるいが
見知らぬ誰かが優しく手を取ってくれていたと、少々ほっこりした。
そんなことが3日間続いた。(繰り返すが頭のネジが飛んでた時期です)
癒されたというか、社畜なりに正気を取り戻したのだろう。
浴槽寝落ち溺れ未遂、イベント用有給休暇予定を白紙にされてブチ切れる
などのイベントを経て退職を決めるのは数週間後のことである。
*その当時、薄い本の収納スペースを確保するため私はロフトベッドを
使っていた。(ベッドの下にはいかがわしい本が一杯♪)
通常のベッドより高い位置、二段ベッドの上より少し低い
位の高さで寝ていたので母や妹の仕業ではない。
*魔性の子や十二国記の汕子っぽいなーーと今なら思う
*正直なところ、おっさんの手(ゴツかったり、オイリッシュだっり)
だったら、速攻ぎゃーーーーな話である。
*ルッキズムとかジェンダーとか色々あるけど、綺麗なお姉さん
だったと信じている・・・