怪談ともつかぬこと 青いお侍さん
小学校一年生の夏休み直前祖父が亡くなった。母と妹は先に田舎へ帰り、
父と私は一学期の終業式を終えてから母の実家へ向かっていた。
結構な遠方であるが、自家用車で、である。
高速道路を使って10時間ほどだっと記憶している。
朝家を出て、母の実家近くに着く頃には真っ暗になっていた。
母の実家は山道の先にある。舗装はされているが両脇が森で
街灯も少ない。そして細い道だ。
そんな道で対向車があって、車は止まった。
ゆっくりすれ違う。
ふと、道の左側から反対側へ白い影が横切った。
青いお侍さん。
横切ったのは、袴をつけない着流しのお侍さん。
全体にうっすら青みを帯びている気がした。
車の前を横切ったお侍さんは、道の反対側の木(枝ぶりが特徴的で
今でも覚えている)の前で、刀を構え、じっとこちらを見ている。
怖い。というよりびっくりした。声をあげることもできなかった。
が、何より父も、対向車の人も全然気がついていない。
今見ているものは、疲れが産んだ幻だろうか。
車は何事もなかったのように取りすぎ、また走行し出す。
後ろを振り向くと、お侍さんはまだ刀を構えて静止していた。
そして消えていった。
あれは一体なんだったのだろう。
特に武士に関連があるような土地ではない。
お侍のお化けが出るような場所とは思えなかった。
余談ではあるが2年前、祖母が他界し約30年ぶりに母の実家の
近くに行く機会があった。
(場所が不便なので、祖母や母方の叔父叔母従兄弟達と
会う時は、山の下にあるホテルや旅館、近隣の温泉宿を借りて
いた)
斎場の手配したマイクロバスで、親族一同、あの細い山道を
母の生家のある場所へと向かう。変わらぬ細い山道。
お侍さんが背にしていたあの木は、今もそこにあった。