エクス・ノーヴォ公演、 アレッサンドロ・スカルラッティのオラトリオ『カインまたは最初の殺人』日本初演
超大型台風がもたらした大雨が鉄道機能を一網打尽にした最中に、エクス・ノーヴォ公演によるアレッサンドロ・スカルラッティのオラトリオ、『カインまたは最初の殺人』日本初演が浦安音楽ホールで開催された。こんな状況で聴けて、いささか倒錯的な快感を味わった。
エクス・ノーヴォの公演は、今年の11月に私の好きな『洗礼者ヨハネ』(作曲があのストラデッラ!)のオラトリオを上演するので楽しみにしている。
『カイン』の演奏は、聴いている時には不満でした。だけど終演後の帰り道に公演を想いかえしたら、良い印象が湧いてきたし、この公演をみせてくれたことには感謝しています。
観劇できて、本当に良かった。カーテンコールの後で、指揮者の福島さんがマイクでご挨拶し、大雨で中止を考えたともおっしゃっていたが、予定通り公演でき、その上演に立ち会えたのだから、もう最高の快感だった。いささか倒錯的ではあったが。
アレッサンドロ・スカルラッティは天才作曲家だったが宮廷人で、主君のご機嫌をとるために曲を書いていた。その彼が、宮廷詩人の書いた主君へのごますりを籠めた台本に曲をつけてオラトリオ『カインまたは最初の殺人』が生まれたのだから、美辞と美音には虚栄と虚言がたっぷりと漂っている。
それでも名手は、名手としての答えを曲と言葉で示すのだ。
2部構成でできた『カインまたは最初の殺人』は、第2部になるとその本領を露わにする。カインとアベルの「バトルの物語」を強烈な個性で描いているのだ。
羊飼いのアベルは、自分と、自分が捧げる供物が神に愛されていると疑わず、天井と地上の愛と喜びは自分に最大の恵みをあたえてくれると絶対的に信じている。
しかし、アベルを殺したカインは、自分の罪を恥じて、永遠に生き続けるという罰を自分が背負い込んだことに承服し、勇敢さを奮い立たせる。
カインとアベルのバトルに、神はドローの判定を下した。
カインは罪を犯したが、それを恥じて高潔な人間になった。
ところがアベルは天界から父母アダムとイヴにむかって、自分は死んだけど楽園で永遠に愛されていると欣喜雀躍し、カインが高潔さを身に着けたにもかかわらず「あのひとでなし」と呼ばわる。自分の正しさをその死後も疑わないアベルは自分の勝利を信じ込んでいる。
兄弟の諍いは最後の審判の日まで、永遠に続くことを、『カインまたは最初の殺人』は示唆していた。
という感じで、『カインまたは最初の殺人』台本と曲には、いろいろな妄想の引き出しが仕掛けられていて、とても興味深かった。
また再演してほしいですね。
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