「好き」の先、仕事でつながって結びつきを深める働き方 | 12/6 #meets岡山 開催レポート
好きな場所、好きな仕事、好きなひと。誰だって「好き」に囲まれて生活したい。でもそれって難しいような気がして、妥協してしまうことも多いのではないでしょうか。
2019年10月4日に「私らしい仕事や暮らしの見つけ方とは?~岡山で見つけた好きなまちで好きな人と働く生き方~」が開催され、2人のゲストを迎えて岡山での暮らし方・働き方についてお話を伺いました。「好きなもの」に向き合うことで好きな仕事、暮らしに近づくことを感じました。
つづいて、ゲスト2人のナビゲートで岡山・西粟倉を巡る現地交流会を11月16日、17日に開催しました。観光とは違った視点で、旅行では見られないようなところまで見ることができ、岡山、そして「好きなもの」を探すヒントになった時間となりました。
2回のイベントを経て、2019年12月6日、UNKNOWN KYOTO五條楽園にて「岡山・西粟倉ってどんなところ?京都からできる関わりづくり」を開催しました。これまでMeets Localでは、さまざまな地域からゲストを招いたイベント開催や、実際に現地を訪れる現地交流会が行われています。今回のイベントは、京都在住で、西粟倉で物件運用をする近藤さんと、#meets岡山 を通じて現地交流会に参加した方のお話をもとに、地域との関わり方のヒントを探りました。
「岡山県 県民生活部 中山間・地域振興課」石川良江さんのお話
岡山県庁の中山間・地域振興課で働く石川良江さんは、学生時代以外は岡山で暮らしてきたそうです。Meets Localの“拠点を持ちながらいろんな地域と関わる”という考え方が好きだそうで、「いろいろな地域のひとと関わりながら岡山を盛り上げていけたら」、と話します。
岡山は、山にも海にも接している豊かな土地。関西エリアからも高速道路で2時間ほどの場所にあり、中国山地と四国山地のおかげもあって台風などの直撃がほとんどないところです。
本イベントのテーマにもなっている西粟倉村は、岡山と鳥取の境目に位置する村。面積の95%が森林で、そのうちの85%がスギやヒノキなどの人工林だそう。
「今から約10年前の平成の大合併で、西粟倉村も隣りにある美作市との合併の話がありました。しかし、西粟倉村の林業では財政が苦しく、そんな状況のまま合併するのは申し訳ないという村民の気持ちがあったそうです。合併の是非を村民に聞いたところ、過半数以上のひとが合併を反対。西粟倉村は住民の意見を尊重して合併することをやめ、村としてのこるという方向に舵を切りました。ここから自主自立への道を模索するようになり、現在の“上質な田舎へ”というまちづくりへとつながっています」
西粟倉村にあるスギやヒノキなどの人工林は、50年前の住民が残した宝。それを活かして、50年かけて育てていこうというのが「100年の森林(もり)構想」というスローガンです。所有者から森林を預かって効率的に森の伐採を行ったり、作業道路の整備をしたり、採れた木を有効活用するための会社ができたりしているそうです。
(西粟倉村HPより)
また、関係人口の創出に向けてつくられたのが「西粟倉アプリ村民票」。
「視察旅行などで訪れるひとが年間2000人くらいいて、それとは別に、鳥取と岡山の間にある道の駅『あわくらんど』利用者は約50万人。でも通過される人がほとんどで、そういうひととも関係をつくれないかと開発されたのが西粟倉アプリ村民票です」
実際に登録して使ってみたのですが、観光情報やふるさと納税の紹介だけでなく、村の人や暮らしについて見ることができたり、アプリ村民の認定証も発行してもらえます。
つづいては岡山市。県庁所在地も位置する岡山市は、後楽園や岡山城があることでも知られています。また、西大寺観音院で開催される「はだか祭り」は日本三大奇祭のひとつとしても知られています。
「岡山市内は1DKでも5万円くらいで住むことができ、東京と比べると約半分くらいの価格。車社会なので通勤も車の人が多く、通勤時間の平均は20分くらいです。また、総合スーパーや百貨店の数が全国2位で、少し車を走らせると買い物することができます。市民のアンケートでも8割の人が安心、安全に暮らしていると回答していて、住み続けたいという人も8割です。大都市ではありますが本当に暮らしやすいまちであると思います」
住みやすさを支える一つに、行政が支援する自転車シェアサービスがあります。「ももチャリ」と呼ばれ、市内の一部エリアで利用でき、1時間100円という破格。Suicaなどの交通系ICを利用できたり、ポートからポートに乗り捨てすることができたりするので、観光客はもちろん通勤で使う住民も多いそうです。
「西粟倉村と岡山市では規模も成り立ちも全然違いますが、それぞれにいいところがあります。共通して言えることとしては、住民の意見を尊重したり住民に寄り添ったサービスが充実していること。暮らしやすさだけでなく、その良さを少しでも知ってもらえたらと思います」
「現地校交流会 参加者」寺田さん、野田さん
2019年11月19日〜20日の2日間、西粟倉村と岡山市、瀬戸内市のゲストを訪れる現地交流会が開催されました。実際に交流会に参加した寺田さん、野田さんを中心に、現地交流会の内容を振り返りながら岡山について学びを深めました。
寺田章展さん
金融関係の会社で働くサラリーマン。学生時代から地域活動や商店街をフィールドにしたイベントを開催。
日本で行ったことないところに旅行することをテーマにしていて、富山や岡山といった今まで馴染みがなかった土地を取り上げているMeets Localに興味を持った。
野田康介さん
徳島県出身、京都の大学一年生。地元が小学校の同級生が3人という小さなまちだったこともあり、現地交流会に参加。
1日目は西粟倉村へ。旧影石小学校は、ローカルベンチャー企業のオフィスやショップ、カフェがあり、村の活性化のシンボル的な施設です。
野田「中には帽子屋があったり、日本酒を売ってるお店があったり、食堂があったり。そこでお昼ごはんもいただいて、とても美味しかったです」
先ほども紹介したとおり、西粟倉は95%が森林。そのため田んぼや畑として使えるスペースが少ないそう。しかし、鳥取が近いこともあり新鮮な海鮮を楽しむことができるそうです。
寺田「そのあと、たまたま鹿の解体を見せてもらったんです。解体をしていた男性は横浜出身だそうで、西粟倉村がおもしろそう!と思って移住したそうです。言われたこと、おもしろそうなことはなんでもやるというスタイルでやっていくうちにいろいろなことができるようになったスーパーマンみたいな人でした」
その男性や、西粟倉を案内してくれた「西粟倉・森の学校」で働く羽田知弘さん、そして西粟倉を介して関わるすべての人から「熱い思いや愛を感じた」と、寺田さんも野田さんも話します。
西粟倉・森の学校 羽田さん
西粟倉村の林業に関する学びもたくさんあったそう。一番上等なA品でもたったの1本3000円だという丸太、だからこそ林業のひとが全然儲からないという現在の仕組みをどうにかしたいという意識で、羽田さんは活動しています。
寺田「模様が悪くて使えないものも加工してチップにして売るなど、有効活用する工夫によってお金を生み出そうと考えているそうです。僕自身、普段は会社員として働いていて、レールに乗っているような状況なので、もっといろいろなことを工夫するという意識で仕事に取り組んでいけたら、という点でも勉強になりました」
宿泊先はゲストハウス「あわくら温泉元湯」。第1回目のイベント登壇者である鈴木あすみさんがお出迎えしてくれました。
2日目には岡山市・瀬戸内市へ。第1回目のイベントの登壇者・「瀬戸内かわいい部」の梅﨑泰佳さんオススメのランチを食べ、牛窓オリーブ園や牛窓神社、山の上ロースタリーへ。都市的な一面だけでなく、自然や文化がしっかりと残されている町並みを体験したそうです。
野田「普通に旅行に行こう、と思って訪れても見られないような場所、裏側をたくさん見せてもらえるのがこういうツアーのいいところだと思います。ここで働こう、住もう、と思わなくても自分自身の生活をどう工夫していくかを考えるきっかけになると思います」
「株式会社OND」近藤淳也さんのお話
株式会社ONDの代表をつとめ、不動産エンターテーメント「物件ファン」や、京都五條楽園にて食事ができて働ける宿泊施設「UNKNOWN KYOTO」を運営している近藤さん。岡山県西粟倉村のシェアハウス「照葉舎」のオーナーもされているということで、西粟倉をふくめ、多拠点との関わり方についてお話を伺いました。
「とにかく西粟倉に行ったほうがいい、ツアーをやるから来て!」と知人に言われて訪れたのが、西粟倉との関わりのはじまりだそうです。1500人の村でローカルベンチャーが元気にやってるってどういうこと?と興味を持ち、さまざまな経営者とツアーに参加しました。
「5年前くらいにツアーに参加して、西粟倉の森や林業の話を聞いて、おもしろそうだからまた遊びにいきたいなと思っていたんです。2017年に『ローカルベンチャースクール』というプロジェクトの講師に呼んでいただくことがありました。そこでA0(エーゼロ)のメンバーと仲良くなって関係が深まりました。そのあとに、今運営しているシェアハウスの物件を購入しない?ということになって買うんですけど、西粟倉の雰囲気が気に入ったのはもちろん、はじめて訪れたときから村のひとたちに惹かれてたんだと思います」
村の人たちに惹かれたのと同時に、日本の村の人口は減っていく一方で西粟倉村は人口増に転じたタイミングだったことから「すごいな」と村の可能性を感じ、物件購入に至ったそうです。
「物件はシェアハウスとして運用することに決め、『照葉舎』という名前を付けました。DIYをしたり駐車場の手配をしたりで何回も足を運びました。シェアハウスは個室3部屋とリビング、そして予備の1部屋があります。また、A0の社員の女の子も入居してくれていて、彼女が管理人のような存在でもあるので助かっています。ありがたいことに、オープンからほとんど満室です」
シェアハウス照葉舎
トレイルランが趣味だという近藤さんは、西粟倉には高い山がたくさんあるので楽しいです!と嬉々として話します。週末、お子さんを連れて仕事ついでに遊びに行くことも多いそうで、第二の地元のような場所に育っているようです。
「仕事でつながると、結びつきが深まるんだと思います。最初はおもしろい場所だなと思っていただけの西粟倉に、遊びにいくようになり、家をもたせてもらうことになって、A0と仕事をするようになって。足を運ぶ回数が増えたのと同時に。自分がいなくてもそこに存在しているような気持ちになれました。でもいきなりすべての人に家を買いましょう!とは言えないので、いろいろな形で地域との関わりを探っていけたらいいなと思います」
今回のイベント開催場所である「UNKNOWN KYOTO」は、11月末にオープンしたばかりのコワーキングオフィス、宿泊施設、飲食店を兼ね備えたスペースです。遊郭だった建物をを改装していて、不動産投資型のクラウドファンディングを行っています。(※現在は終了しています)
このようなプロジェクトのオーナーになることで、「物件を持たなくても、地域との関わりをつくることもできるのではないか」と、近藤さんは提案してくれました。
UNKNOWN KYOTOの紹介をしてくれた女将の菊池さとこさん
岡山でも、もちろんほかの地域でも、自分が魅力に感じるのは何?という問いを考える会になったと思います。交流会では多くの参加者から「素敵な人と一緒に活動したい」「熱い思いを持っている人のサポートがしたい」など、人を中心としたつながりに関する発言が多く見られました。好きなものが明確でなくても、好きな人たちとつながっていくことが、つながりを深めていくのだと思います。
インターネットでつながれる時代。だけど、ずっとリモートで仕事をしてもさみしい。だからって、自分が住んでいる場所でしか仕事ができないわけはない。好きな人たちがいる場所に、自分の居場所をつくっていくことで、仕事になる可能性があるだけでなく、豊かに働く人生につながるのかもしれません。
文章・写真/Nana Takahashi