見出し画像

ミーツLABO:北海道の地域課題解決に向けた、コープさっぽろとミーツとデジタル公共財の展望

北海道の地方都市では、人口減少と超高齢化が全国に先駆けて進行し、広大な地域に住民が分散することによる担い手不足が深刻です​pref.hokkaido.lg.jp。こうした状況下で、高齢者の生活や地域インフラを支えるために、行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)と、生活協同組合コープさっぽろおよび関連会社ミーツ株式会社による共助の仕組みが注目されています。本レポートでは、北海道の地方都市が抱える社会課題と行政DXの現状、コープさっぽろの事業と組合員活動、ミーツ社のデジタルプラットフォームの役割、データのデジタル公共財としての活用可能性、そしてデジタルとアナログの融合による解決策について包括的に分析し、これらを踏まえた持続可能な共助モデルの未来像を考察します。

1. 地方都市の地域課題と行政DXの現状

北海道の地方都市では、少子高齢化と人口流出により地域社会の維持が大きな課題です。2020年時点で北海道の高齢化率は32.2%と全国平均(28.7%)を上回り、2050年には約42.6%に達すると見込まれています​jp.gdfreak.com。つまり10人に4人以上が高齢者となる計算で、特に過疎地域では既に高齢化率が5割を超える自治体もあります。以下の表は、北海道と全国の高齢化率の現状と将来予測を示したものです。

https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050000001001000/2#:~:text=%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E3%81%AE2020%E5%B9%B4%E3%81%AE%E7%B7%8F%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E3%81%AB%E3%81%97%E3%82%81%E3%82%8B65%E6%AD%B3%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%89%B2%E5%90%88%EF%BC%88%E9%AB%98%E9%BD%A2%E5%8C%96%E7%8E%87%EF%BC%89%E3%81%AF32

広域分散した人口構造の下、買い物困難者(食料品など日常の買い物に不便を抱える人々)の増加も深刻です。農村部だけでなく都市郊外でも高齢者を中心に車を運転できず日常の買物に困難を感じる層が増えており、全国で約910万人、総人口の7.1%が「買い物困難者」に該当します​akitakeizai.or.jp。北海道ではその割合が10.0%と全国平均を大きく上回り、約45万人にのぼります​akitakeizai.or.jp。一方、東京は4.1%と低く、地域差が顕著です(長崎県が10.6%で最も高い)​akitakeizai.or.jp。次の表に都道府県別の買い物弱者人口比率の一例を示します。

https://www.akitakeizai.or.jp/journal/20130202_topics.html#:~:text=%EF%BC%881%EF%BC%89%E5%85%A8%E5%9B%BD%E3%81%AE%E8%B2%B7%E3%81%84%E7%89%A9%E5%BC%B1%E8%80%85%E3%81%AF910%E4%B8%87%E4%BA%BA%20%E8%BE%B2%E6%9E%97%E6%B0%B4%E7%94%A3%E6%94%BF%E7%AD%96%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80%EF%BC%88%E5%B9%B3%E6%88%9024%E5%B9%B4%EF%BC%93%E6%9C%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB%EF%BC%89%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%80%81%E8%B2%B7%E3%81%84%E7%89%A9%E5%BC%B1%E8%80%85%E3%81%AF%E5%85%A8%E5%9B%BD%E3%81%A7910

買い物困難者が生まれる背景には、高齢化による自家用車運転者の減少、競争激化による地元小売店の閉鎖、大型店の郊外進出、そして路線バス廃止など複合的な要因があります​akitakeizai.or.jp。北海道では広いエリアにわたりこうした問題が生じており、過疎地域では日常品の店舗がなくなり「フードデザート(食の砂漠地帯)」化する地域もみられます。さらに、冬季の豪雪や地震などの防災課題、寒冷地特有のエネルギー確保、農林水産業の担い手不足や若年層の雇用創出など、多岐にわたる社会課題が山積しています。
これらの課題に対し、自治体ではデジタル技術を活用した行政サービス改革(行政DX)が模索されています。政府(霞が関)は各自治体に対し情報システム標準化やオンライン手続の推進を求め、デジタル庁や総務省がガイドラインを示しています。例えば、自治体業務システムを統一仕様へ移行する計画や、マイナンバーカードを活用したサービス展開などが進行中です。また、自治体の保有データをまちづくりに活かす動きも重視され、オープンデータの公開が推奨されています。実際、2021年4月時点で自治体の約65%(1,157団体)が何らかのオープンデータ提供を行っています​soumu.go.jp。しかし、小規模自治体では職員数やICT人材の不足からデータ利活用が進んでいない例も多く、内部データをPDFで公表するに留まるなどの課題も指摘されています。また、EBPM(証拠に基づく政策立案)の重要性は認識されつつも、現場では庁内データの連携不足セキュリティ・プライバシーへの懸念から活用が進まないケースもあります。そのため、自治体DXの推進には、国の財政支援や専門人材の確保、近隣自治体や民間との連携による体制強化が求められています。

2. コープさっぽろの役割とビジネス・組合員活動の融合

こうした地域課題に対し、北海道最大の生活協同組合であるコープさっぽろは、事業と組合員活動を通じて重要な役割を果たしています。同生協は北海道全域を活動エリアとし、2024年3月時点で組合員数約201.8万人を擁します​sapporo.coop。これは北海道内世帯数の81.3%に相当し、道民の大多数が組合員として参加している計算です​sapporo.coop。コープさっぽろの2023年度事業高は約3,186億円に達し、その内訳は店舗事業1,983億円、宅配事業1,134億円、共済(保険)事業22億円、その他(エネルギー供給や葬祭事業等)46億円となっています​sapporo.coop。事業規模3,000億円超の協同組合として、北海道経済・地域社会への影響力は非常に大きく、「道民ひとりひとりをつなぐプラットフォーム」として行政とも連携し地域課題解決に取り組むビジョンを掲げていますnote.com

主要事業と社会課題への取り組み

 コープさっぽろは創立以来、「安心して暮らせる地域づくり」を目的に多角的な事業を展開してきました。その柱となるのが店舗事業と宅配事業(コープ宅配システム「トドック」)です。道内109店舗(2024年時点)を構えsapporo.coop、生鮮食品や日用品を提供するとともに、宅配トドックで週1回程度の商品お届けサービスを行っています。トドックは電話・Web・アプリ等で注文できる宅配サービスで、道内全域を配送カバーしており、遠隔地や過疎地の生活インフラとして機能しています。宅配トドック事業は年間1,100億円超規模に成長し​sapporo.coop、買い物困難者対策に大きく貢献しています。
さらにコープさっぽろは、組合員活動を通じて地域共助を促進しています。生協は組合員による自主自立の組織であり、組合員同士が協力して地域社会や環境に良い活動を行う文化があります。例えば、食の安心安全を守るため産直産品の利用拡大や「食べる・たいせつフェスティバル」(食育活動)、エコ活動(買物袋持参推進、ダンボール回収など)を組合員とともに進めています​epohok.jp。農業分野では「コープさっぽろ農業賞」を創設し、新規就農者や優れた生産者を表彰・支援することで地域の農業振興にも寄与しています​sapporo.coop。これは消費者である組合員が生産者を応援し、顔の見える関係を築く取り組みで、生協が中核となって地産地消と地域経済の循環を実現しようとするものです​epohok.jp
また、食品ロス削減や福祉支援の取り組みも先進的です。2016年に「トドックフードバンク」を開始し、宅配での注文ミス等で発生した返品食品や余剰在庫を回収して道内の児童養護施設などに届けています​hre-net.com。たとえば毎年正月用の鏡餅が売れ残る課題に対し、2022年から販売ロスとなった鏡餅約26kgを児童養護施設に寄贈する取り組みを始め、今年が4回目を迎えました​hre-net.com。このように、事業活動で生じる廃棄物を地域の必要な場所へ循環させる仕組みを構築し、環境負荷低減と社会貢献を両立させています。
コープさっぽろはそのほか、共済(保険)事業による安価で保障範囲の広い保険提供、病院給食・学校給食の受託運営、高齢者向け夕食宅配サービス、再生可能エネルギーの供給(「トドック電力」や「エネコープ」ブランドで電力小売)​apps.apple.com、葬祭事業(葬儀場運営)など、生活のあらゆる場面をカバーする事業を展開しています​note.com。これらの事業群は、地域住民のニーズから生まれたものであり、営利追求よりも地域のくらしの安心を目的としている点に、生協事業と共助の融合が表れています事業収益は組合員に還元される仕組みであるため、利益が地域内で循環し、新たなサービス拡充に充てられる好循環を生み出しています。

DXへの取り組み

コープさっぽろ自身もデジタル化を積極推進しています。宅配では従来の紙カタログ注文に加え、公式スマートフォンアプリ「トドックアプリ」を提供し、チャットボットUIで商品注文ができるなど利便性向上を図っています​yumemi.co.jp。このアプリには「デジタル組合員証(スマホ版ちょこっとカード)」機能が実装されており、従来プラスチックカードで提供していた組合員証・ポイントカードがスマホで代替可能となりました​sapporo.coop。買い物時にアプリ画面のQRコード提示でポイント加算・利用ができ、貯まったポイントは宅配料金や電力料金の支払いにも充当できます​apps.apple.com。さらに、購買データ分析にも注力しており、組合員の購買履歴をもとにした品揃え改善や個別提案、セグメント分析による福祉ニーズの把握など、データ駆動型経営を志向しています。こうしたDXの推進は、若年層へのアピールにもつながり、新たな組合員獲得や事業効率化に寄与しています。
コープさっぽろは協同組合のネットワークとビジネス基盤を活かし、「社会性と事業性を兼ね備えた次の50年の安心と革新を築くために事業をすすめる」という長期ビジョンの下​note.com、行政や企業とも連携しながら北海道全域の課題解決に取り組む意向を示しています。その具体的な共助モデルの進化形として連携が強化されたのが、次に述べるミーツ株式会社との協働です。

3. ミーツ株式会社のデジタルインフラとしての役割

「ミーツ株式会社(Meets Inc.)」は、北海道勇払郡厚真町(人口約4,200人)で創業したスタートアップ企業で、「共助型困りごと解決プラットフォーム」の企画・開発・運営を行っています​note.com。ミーツはMaaSを「Mobility as a Service」ではなく「まちづくり as a Service」と位置づけ、少子高齢化・過疎化が進む地域の暮らしの課題をテクノロジーと住民の力で解決する仕組みづくりに取り組んでいます​note.com potluck-yaesu.com。ミーツが提供するプラットフォームは、高齢者の移動支援に端を発しつつ、買い物代行、通院付き添い、除雪・草刈り、さらにはスマホの使い方サポートまで、日常生活の様々な「困りごと」を住民同士の助け合いで解決しようというものですmlit.go.jp

共助型困りごと解決サービス「ミーツ」の仕組み

ミーツでは、利用者(困りごとを抱える住民)と協力者(お手伝いをする住民)の双方に事前登録をしてもらい、電話またはLINEで依頼を受け付けています​mlit.go.jp。高齢者には電話での依頼が7割と多く、若年層にはLINEアプリでの受付を用意することで、デジタルに不慣れな人にも配慮しつつICTを活用しています​mlit.go.jp。寄せられた依頼内容(例:「週末にスーパーで買物を代わりにしてほしい」「病院まで乗せていって」「庭の雪かきを手伝って」など)をスタッフがデジタルデータ化し、登録協力者のネットワークへ配信しますmlit.go.jp。その上で、対応可能な人をマッチングし、必要に応じて双方に連絡・調整を行います。依頼が完了すると、法律の範囲内で定められた謝礼金を協力者に支払う仕組みになっており​note.com、有償ボランティア活動に近い形でありながら持続性を意識した設計となっています。
厚真町での本格稼働は2022年から実証実験を開始し、2023年に事業化されました​mlit.go.jp。その結果、サービスの評判は口コミで広がり、2025年2月末時点で登録利用者数は300名超と町の人口の世帯カバー率では14%程度に達しています​。協力者(サポーター)は約80名が登録しており、1か月あたり平均60件ほどの依頼が寄せられるまでになりました​。マッチング成功率は月平均9割以上と高く、行政の手が行き届かない多様な困りごとに対して住民同士の助け合いで解決ができています​mlit.go.jp。例えば、高齢夫婦のみの世帯で重い荷物の運搬に困っていたケースで近所の若者がお手伝いする、といった“昔は当たり前だった隣人同士の助け合い”がデジタル技術によって復活している状況です
このサービスが注目される点は、地域のモビリティ課題からスタートしながらも、住民のニーズに応じて共助の範囲を生活全般に広げていることです。当初は「交通インフラが衰退する中で移動手段を確保する」取り組みとして発案されましたが​mlit.go.jp、住民と向き合う中で移動以外にも「庭の草刈り」「雪かき」「家の電球交換」「機械の使い方を教えてほしい」等、様々な困りごとが顕在化しました​mlit.go.jp。かつて地域の中で完結していた助け合いが機能しにくくなっている現実をふまえ、ミーツは対応範囲を柔軟に拡大しています。このようにデジタルとアナログの融合(IT技術の活用+現地での密な対話)を重視したことが、サービス定着の鍵となりました​mlit.go.jp。開発者は「いくら素晴らしいアプリを作っても使われなければ意味がない」とし、利用者のニーズを高い解像度で把握するため敢えて職員自ら足を運び住民と関係構築したと述べています​mlit.go.jp。その上で、高齢者を支える協力者となる若年層の取り込みが不可欠であり、そのためにはサービスの「アプリ化」が必要と考えて若者に響く世界観づくりを行い、デジタル人材(CTO)も採用して本格的なプラットフォームを構築しました​mlit.go.jp。このように「DXの2乗」と現場の「泥臭い」✖️「デジタルトランスフォーメーション」の先端技術の導入を両立させた点は、他地域のスマートシティ施策にも示唆を与えています。

コープさっぽろとの連携と役割分担

ミーツ株式会社は2023年7月、生活協同組合コープさっぽろの関連会社となりましたmlit.go.jp。これは、地域課題を住民の共助で解決しようとするミーツの理念と、道内隅々で事業を展開し組合員互助を促進してきたコープさっぽろの理念が一致したことが背景です​mlit.go.jp。コープさっぽろ理事長の大見英明氏は「社会性と事業性を兼ね備え、北海道で暮らす一人ひとりの幸せのために、ミーツ株式会社と連携していくことで、若年層ネットワーク拡大やデジタルについてもさらなる推進が期待できる」とコメントしています​mlit.go.jp協同組合とスタートアップ企業の協働という全国的にも先進的な試みであり、「協同組合 × 共助型プラットフォーム」による新たな未来を創る挑戦と位置付けられていますnote.com
連携により、コープさっぽろは経営資源(人材・資金・インフラ)をミーツに提供し、ミーツ側は培ったノウハウとシステムをコープさっぽろの組合員ネットワークへ展開することが可能になります​potluck-yaesu.com。具体的には、コープの持つ全道の宅配・物流拠点や店舗網、そして200万人の組合員情報を下地に、厚真町以外の地域にも共助プラットフォームを広げられる潜在力が生まれました。「厚真町に限らず、道内における買い物難民や宅配・配食利用者データ活用の可能性」が開けたとされ​mlit.go.jp、実際コープさっぽろの宅配利用者データや組合員の高齢者見守り情報などとミーツの困りごとデータを組み合わせて分析することで、支援が必要な人を早期に発見したり、サービスを届けたりすることが検討されています。
また、コープの組合員がミーツのプラットフォームに参加することで、組合員同士の共助の輪を広げ循環させることが期待されています​potluck-yaesu.com。生協組合員はもともと地域活動への意識が高い層が多く、例えば退職後のシニア世代で時間にゆとりのある方が協力者として登録し、買い物代行や子どもの送迎を担うといった形も考えられます。一方で、コープ店舗の若手職員や大学生協など若者組織と連携し、デジタルネイティブ世代にも協力者になってもらうことで世代間交流を図ることもできます。このように民間(協同組合)と行政をつなぐハブとして、ミーツのプラットフォームが機能すると期待されています。現に、厚真町での成功を受けて道内外10以上の自治体から相談が寄せられており、各地域のプレイヤーと手を組みながらそれぞれの地域の課題に合わせた形でサービス提供を検討する段階に入っています​。今後、公共交通の維持が難しい地域での乗合サービスや、過疎地での配送効率化(複数世帯分をまとめて宅配)など、ミーツの仕組みを応用した新展開も考えられます。MaaS的観点から見ても、既存のバス・タクシー・デマンド交通とミーツの共助送迎をデータ連携し、一体的に地域のモビリティを支えるといったスマートシティ的プロジェクトも実現可能でしょう。

4. デジタル公共財としてのデータ活用可能性

地域課題解決において、データの利活用は重要なカギとなります。コープさっぽろとミーツが連携することで生まれる最大の強みの一つは、膨大な購買・物流データ共助活動データを統合し、地域の実情を可視化できる点です。これらのデータは、特定企業や団体の利益に留まらず、地域社会全体のために活かせるデジタル公共財となり得ます。
コープさっぽろは全道規模で店舗POSデータや宅配の注文データ、組合員属性情報を蓄積しています。例えば、宅配の利用頻度や注文品目の変化から、高齢者の健康状態や生活変化を間接的に捉えることが可能です。生協の配達担当者は日々決まった組合員と顔を合わせるため、注文頻度や応対の変化から高齢の組合員の体調異変に気付く場合もあります。そうした気付きがあれば自治体の見守り担当部署や家族に伝えるなど、配達を通じた安否確認機能も果たしています。一方、ミーツで蓄積される「誰が・どこで・どんな困りごとを抱えているか」というデータは、住民の生活課題をリアルに反映した一次情報であり、行政の保有データにはない貴重な視点を提供します​mlit.go.jp。厚真町では、このミーツのデータを個人情報保護を利用規約やプライバシーポリシーで確認した上で町職員と共有し、高齢者の外出頻度の変化やニーズを把握して医療費への影響を分析するなど、まちづくり政策への活用を試みています​mlit.go.jp
両者のデータを組み合わせて公共目的に活用するシナジーは計り知れません。購買データ × 困りごとデータを地理情報と紐付ければ、買い物弱者が多いエリアの特定や、そのエリアで必要とされる具体的支援内容が明らかになります。行政がこのデータを基に移動販売車のルートを設計したり、福祉サービス提供エリアの優先順位を決めたりといったデータ駆動型の政策立案が可能になります。国の提供するRESAS(地域経済分析システム)等の統計データと比べても、より微細でタイムリーな住民生活データとして価値があります。
また、こうしたデータをオープンデータとして公開すれば、地域のNPOやスタートアップ企業、大学研究機関などがそれぞれ分析・サービス開発に活用し、新たなソリューション創出につながるでしょう。例えば、ある地域の困りごとデータから「雪かき依頼」が多発しているとわかれば、民間企業が高齢者宅向けの安価な除雪サービスを企画するかもしれませんし、「スマホの使い方相談」が多ければ、地元の学生ボランティア団体がITリテラシー教室を開催する足掛かりになるかもしれません。データを公共財的に活かすことで、多様な主体によるオープンイノベーションが促進されます。
データ活用にあたって重要なのは、個人情報の保護と当事者の同意を得た上で行う信頼性の確保です。コープさっぽろやミーツでは、利用者から提供された情報を扱う責任があり、プライバシーに配慮しつつ社会全体で価値を共有するためのデータガバナンスが求められます。幸い、生協は組合員の信頼を基盤とした組織であり、ミーツも地域密着で信頼関係を築いてきた企業です。両者が協働してデータの匿名加工やセキュアな共有基盤を整備すれば、地域コミュニティ内で安心してデータを共有・活用できるモデルケースとなるでしょう。
さらに視野を広げると、デジタルIDや地域通貨との統合による新たなサービス展開も考えられます。現在、コープさっぽろの組合員証(ちょこっとカード)はデジタル化が進んでおり、将来的にこれを自治体のデジタルID(マイナンバーカード等)や地域ポイントシステムと連携させることで、ワンストップで行政・生協サービスを利用できる仕組みも構築可能です。例えば、ミーツでボランティア活動を行った協力者に対し、自治体からデジタル地域通貨やコープポイントを付与するインセンティブ制度を設ければ​potluck-yaesu.com、共助活動の継続性を高めつつ地域経済への還元も図れます。こうしたポイントはコープの店舗や宅配で利用でき、協力者の利便性につながります。実質的にボランティア時間を地域内通貨化するような仕組みで、経済価値と社会価値の橋渡しとなるでしょう。このモデルは行政DXが目指す「デジタル田園都市国家構想」にも合致し、行政・民間データ基盤の相互接続による住民サービスの高度化として期待されます。

5. デジタルとアナログの融合による解決策と新たな共助モデル

北海道の地方都市で共助の仕組みを持続可能な形で発展させていくには、デジタル技術とアナログな人的交流を両輪で進めるアプローチが不可欠です。前述のミーツの事例が示すように、高齢者が多い地域ではいきなり高度なデジタルサービスを導入しても利用が進みません。そこで、対面や電話といった従来手法を残しつつ、裏側でデジタルマッチングやデータ分析を行う「ハイブリッド型」が有効です​mlit.go.jp。この節では、デジタルとアナログの融合による具体的な解決策をいくつか提案・考察します。

  • 高齢者へのデジタル支援と参加促進: デジタルデバイドの解消は共助参加者の裾野を広げる上で重要です。地域の公民館や生協店舗でスマホ教室やIT相談会を定期開催し、高齢者がスマートフォンやLINEを使えるようサポートする取り組みが考えられます。実際、ミーツの利用者からも「スマホの使い方を教えてほしい」という依頼が寄せられており​mlit.go.jp、これは逆に言えばデジタル支援のニーズの大きさを示しています。生協の若手職員や大学生協の学生ボランティアが講師となって、高齢者に寄り添った指導を行えば、信頼関係の醸成とデジタル活用力向上の一石二鳥が期待できます。習熟した高齢者は、今度はデジタル見守りサービスなどを受けられるようになり、例えばタブレットで健康チェックや離れて暮らす家族とのテレビ電話といった恩恵も受けられるでしょう。

  • アナログな地域活動のデジタルマッチング: 地域には従来から自治会による支え合いやボランティア団体の活動があります。こうした既存の共助リソースをデジタルと結びつけることで、より効率的かつ参加しやすい仕組みに進化させることが可能です。例えば、町内会で行っている高齢者宅の見回り訪問サービスに、事前に訪問予定をウェブ登録し緊急時はオンラインで通知が飛ぶ仕組みを加える、子育てママ同士の送迎助け合いにマッチングアプリを導入する、農繁期の農作業手伝いを募集するプラットフォームを作り都市住民が参加できるようにする、等です。買い物代行についても、現在は個別に声掛けして頼んでいるケースを、ミーツのようなシステムで「〇〇スーパーに行く人募集」といった形で共有できれば、助けたい人と助けてほしい人を効率よく引き合わせられます。

  • 共創による新サービス創出: 自治体、企業、生協、NPO、住民が共創して新たな共助モデルを生み出すことも重要です。たとえば、防災分野では、地域住民による防災情報の共有アプリを開発し、避難行動要支援者(高齢者や障がい者)の安否確認を平時から共助で行えるようにする試みが考えられます。また、エネルギー分野では、家庭の太陽光発電余剰電力を近所で融通し合う仕組みをブロックチェーン技術で実現し、参加者に生協のポイントを付与する、といった分野横断的な共助モデルも未来には登場するかもしれません。実際、コープさっぽろは再生可能エネルギー事業を持ち、道内他企業とも「北海道エネルギー共同体」のような連携を進めています。こうしたリソースとミーツのような住民プラットフォームが結びつけば、エネルギーの地産地消×助け合いという新機軸も生まれるでしょう。

以上のようなデジタルとアナログ融合の取り組みを進めることで、地域の共助システムはより強靭で包括的なものになります。その際、大切なのは誰も取り残さないことと、関係者全員にメリットがある仕組みにすることです。高齢者も若者も、提供する側も受け取る側も、楽に気持ちよく参加できるプラットフォームであれば、共助は自然と広がり、定着します。

6. 共助の仕組みの持続可能性と未来展望

北海道の地方都市における共助モデルは、コープさっぽろという地域に根差した巨大協同組合と、ミーツのような機動力あるデジタル企業、そして行政DXの推進という三位一体の連携によって新たな段階に進みつつあります。この共助の仕組みを持続可能なものとするためのポイントと、未来に向けた展望を以下にまとめます。

(1) 人的ネットワークの拡大と世代交代: 共助活動の担い手である協力者(ボランティア)の確保は常に課題です。厚真町のミーツでも協力者約80名で月60件の依頼に対応していますが、更なる需要増に備え協力者の裾野を広げる必要があります。今後、コープさっぽろの組合員ネットワーク81%という圧倒的カバレッジを活用し、若年層からシニア層まで多様な人々を巻き込むことが重要です。組合員活動で培われた信頼関係や口コミ力は、新規参加者の勧誘にも有効でしょう。また、参加者にとって適度なインセンティブ(謝礼金・ポイント・社会的承認)を用意し、無理のない範囲で関われる仕組みにすることで、ボランティア疲れを防ぎ長期的な関与を得られます。

(2) 財政的持続性と事業性の両立: 共助サービスを継続・拡大するには、収支のバランスにも目配りが必要です。多くの買い物弱者支援策は採算面で厳しく補助金なしに黒字化が難しいと指摘されています​city.kitahiroshima.hokkaido.jp。ミーツのように利用者からわずかながらも料金を徴収し協力者に謝礼を渡すモデルは、完全な無償ボランティアよりは持続しやすいものの、事業単体での利益は見込みづらいでしょう。そこで、コープさっぽろの事業性と組み合わせる工夫が考えられます。例えば、宅配トドックの配送ルートとミーツの依頼を統合し、宅配車両が協力者となって買い物代行を担う代わりに手数料を頂くとか、生協の有料サービス(ハウスクリーニング等)と共助サービスを棲み分けて提供するなどです。また、行政から委託費用を得て一部公的サービス(見守り訪問など)を共助ネットワークが請け負う形も有効です。共助を公共サービスの補完として位置づけ、民間の創意工夫と行政の資金支援を組み合わせることで、ビジネスとしても社会貢献としても成り立つモデルを追求すべきです。

(3) テクノロジー進化への対応: デジタル技術は日進月歩で進化しており、AIやIoTの活用も視野に入ります。将来的には、AIが困りごとの内容と言動から必要な支援を自動マッチングしたり、音声対話で高齢者の相談を24時間受け付ける仕組み、さらには自動運転車による移動サービスや宅配ロボットによる買い物配送なども現実味を帯びてきます。北海道のように冬季の移動が厳しい地域では、ドローン配送や自動除雪ロボットなどの導入も検討されるでしょう。ただし、これらハイテクを導入する際も「アナログの融合」が肝要です。例えばAIがマッチング結果を出しても、最後は地域のコーディネーターが目利きをして調整する、人とロボットが協働してサービスを提供するといった、人間の温かみを残す設計が望まれます。技術の力で共助の質と効率を高めつつ、人間らしい触れ合いも維持する――それが持続可能な共助DXの姿と言えます。

(4) 地域間連携とスケールアウト: 厚真町発の共助モデルは現在、道内各地そして全国へと関心が広がっています​potluck-yaesu.com。北海道内でも地域の実情は多様で、過疎の農村と都市近郊では必要とされるサービスが異なるでしょう。しかしコープさっぽろのような全道組織がハブとなれば、各地域ごとのミーツ的プラットフォームをネットワークでつなぎ、ノウハウや人材を融通し合うことも可能です。例えば、ある町で協力者が不足した場合に別の町の協力者グループが応援に行く、人手が余っている地域の協力者にオンラインで別地域の高齢者と話し相手になってもらう等、地域を越えた共助経済圏が形成されるかもしれません​potluck-yaesu.com。これは「まち全体が長屋家族になる」というビジョンにも通じ、広域連携によって共助コミュニティの裾野を拡大しつつ、各地域では顔の見える関係性を保つという、新しいスケールのあり方です​potluck-yaesu.com

(5) 政策へのインパクトと住民主体の地域づくり: 共助活動が盛んになりデータが蓄積されていくと、それ自体が地域政策の立案や評価に直結していきます。行政が把握しきれない住民ニーズを現場から吸い上げる仕組みとして、コープさっぽろ×ミーツの共助プラットフォームは極めて有効です。例えば、高齢者の外出回数が増えれば健康維持につながり医療費が抑制できる可能性がある、といった仮説を​mlit.go.jp、実際のデータで検証し政策にフィードバックするサイクルが生まれます。こうしたEBPMの積み重ねにより、将来的には行政サービスと共助サービスの境界が溶け合い、住民が主役となって地域の課題を解決していく自治の姿が実現するでしょう。それはまさに「協働による地域づくり」であり、デジタル技術はその裏方を担う縁の下の力持ちとなります。

7. 結論:地域共助モデルの未来像

北海道の地方都市が直面する課題に対し、行政DXと地域共助の融合は希望の光をもたらしています。コープさっぽろという生活インフラを支える協同組合と、ミーツ社のようなデジタル共助プラットフォームが連携することで、生まれつつある新たなエコシステムは、単なる福祉サービスの補完に留まらず、地域経済を活性化し人々の暮らし方そのものを変える可能性を秘めています。
このモデルのキーワードは「支え手と受け手の境界をなくす」ことです。誰もが助け、誰もが助けられる存在となり、データと仕組みがそれを見える化して繋いでくれる世界です。高齢者も子育て世代も若者も、それぞれが得意なこと・できることで地域に貢献し、それが評価され見返りも得られる——そんな共助経済圏が北海道から始まろうとしていますpotluck-yaesu.com。そこでは、多様性と包摂性(D&I)の進んだコミュニティが育まれ、テクノロジーに秀でた若者と温もりある知恵を持つお年寄りが対等に協働する、新しい「長屋家族」のような地域社会が描かれています​potluck-yaesu.com
もちろん、持続可能性を確保する上で乗り越えるべきハードルも存在します。財源の問題、参加者のモチベーション維持、技術への過度な依存リスク、そして何より人と人との信頼関係というアナログ要素をどう醸成し続けるか。しかし、コープさっぽろが半世紀以上にわたり築いてきた組合員の絆と、ミーツが証明したような草の根の熱意、さらに行政の後押しが三位一体となれば、そのハードルを下げていくことは十分可能です。
最後に、北海道の広大な大地に暮らす人々が、デジタルで「つながり」、アナログで「支え合う」未来図を思い描いてみます。それは買い物も移動も安心な地域、災害にも強くエネルギー自給も進んだ持続可能な地域、そしてお年寄りも子どもも笑顔で暮らせる活力ある地域です。コープさっぽろとミーツが主導する共助の仕組みは、その未来図を実現する大きな原動力となるでしょう。北海道で育まれたこのモデルは、やがて日本全国の地方都市、さらには世界の寒冷・過疎地域にも波及し、「共助」をキーワードにした新しい地域づくりの潮流を生み出す可能性があります​potluck-yaesu.com。デジタル技術と人間の優しさが融合した共助の輪が、地域社会を支える一本の太い柱となる——本分析から浮かび上がったのは、そんな明るい未来への展望です。

参考文献・資料:

本レポートは、総務省・デジタル庁等の行政資料、北海道庁の公開統計jp.gdfreak.com akitakeizai.or.jp、生活協同組合コープさっぽろのCSRレポートや公式発表​note.com sapporo.coop、ミーツ株式会社の事例報告​mlit.go.jp mlit.go.jp、および新聞記事・専門家の分析​hre-net.com potluck-yaesu.comなど、多岐にわたる情報源をもとに作成しました。各所に示したように、データや事例には出典を付してあります。今後の北海道における地域共助モデル研究の一助となれば幸いです。