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在日米宇宙軍トップは調達畑、日本企業取り込み担当?

4日に発足した在日米宇宙軍の司令官、ライアン・ラウトン大佐は、調達・事業管理の専門家だそうだ。新編の司令部要員は10人程度と極小所帯。宇宙領域における作戦運用面での自衛隊との連携はおまけで、日本の宇宙産業を米軍ないし米国の宇宙システムに取り込むことが主な目的なのでは、と勘繰ってみたくなる。

というのも、在日宇宙軍の上級部隊である米インド太平洋宇宙軍のマスタリア司令官が、「キャリアを通して調達・事業管理の専門家として米宇宙産業と緊密に協力してきた宇宙軍兵(ガーディアン)」であることを在日宇宙軍の司令官選びの基準にしたと公言している、と聞いたからだ。

では、米宇宙軍はどういったプログラムで日本企業との連携を狙っているのか。以下、まったくの憶測になると断った上で、順不同で二つ挙げてみたい(繰り返しますが、私はこの分野の素人で、本稿の内容も「書き殴り」に近いので、「いや違う、そうじゃない」という事情通の方がいらっしゃったら是非ご連絡ください、わりと本気で背景を知りたい)。

一つ目は、「戦術即応宇宙(TacRS=Tactical Responsive Space)イニシアチブ」での協力だ。シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)に在籍していた日米関係の専門家、ベンジャミン・リムランド氏が提唱している。

TacRSの中身は、物量で押すいかにもアメリカンな発想に基づく。簡単に言えば、切迫した状況下で、24時間以内に必要とされる小型の宇宙アセットを小型ロケットで打ち上げかつ運用まで持っていく、という構想。地上戦で戦闘不能に陥った部隊の後詰めを送り込むように、宇宙でも戦況に合わせて即応できる体制をつくろう、ということだ。宇宙軍は2025会計年度(24年10月~25年9月)のうちに初期運用能力を得ることを目標に掲げている。

既に米ファイアフライ・エアロスペース社がTacRSの実証ミッションを実施済みで、これに日本企業が一枚噛んでくるとなれば興味深い展開になる。日本発の小型ロケットとしては、宇宙ベンチャー「スペースワン」が「カイロス」を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が「イプシロンS」を開発中だ(この間爆発したが)。リムランド氏によれば、固体燃料を使用している日本製小型ロケットは、液体燃料式より運搬が容易という利点があるのだという。

米国は、1000機以上の小型衛星で構成する軍事用低軌道コンステレーション「拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ(Proliferated Warfighter Space Architecture)」を完成させるとしており、TacRSは有事の際の衛星網の現状回復だけでなく、このコンステレーションの構築に必要な能力ということなのだろうか(間違ってるかも)。

なお、軍事用コンステレーションについては、北朝鮮などが地上・洋上のセンサーでは追尾が難しい極超音速兵器の開発を進めていることを踏まえ、日本政府も2020年改定の「宇宙基本計画」で「米国との連携を踏まえながら検討を行い、必要な措置を講ずる」方針を打ち出した。現在では、政府は日本独自のシステムとして27年度からの運用開始を目指し構築の準備を進めている。

日本のコンステレーションを巡っては、米国のそれに加わろうと望んだが断られたといった話をする人もいるが、真相は分からない。ともかく、日本としては先行する米国の知見を分けてもらいたいところだろう。

米国としても、日本のコンステレーションに北朝鮮や恐らく中国のミサイル探知という目的がある以上、日本と調整、連携していく必要がある。まして同盟国でもあるし。在日米宇宙軍が、現場レベルで日本側と――例えばどういった情報が米軍として必要かを日本側に伝達するなど――調整に当たるであろうことは想像に難くない。

日本企業と米軍の連携として想定される二つ目のプロジェクトは、危機や有事の際に商用衛星を軍事利用に転換する「商業補強宇宙予備プログラム(CASR)と呼ばれるものだ。危機や有事に商業用の宇宙サービスを迅速かつ安定的に利用できるよう、あらあじめ企業と契約しておく枠組みで、空軍が有事の際に民間機を兵員輸送などに活用するため航空各社と契約しておくのと同じ発想だ。

米宇宙軍は2025年1月からCASR契約を始める見通しで、現状では米企業のみを対象にしている。ただ、将来は日本を含む外国企業にも契約の機会があるかもしれない。

宇宙に関しては、日本には実は結構な技術的蓄積がある。まず、日本のように自国開発のロケットを実用化できている国は実はそれほど多くない。さらに、地球重力圏外の天体(小惑星イトカワ)からサンプルを採取して帰還した「はやぶさ」のミッションで証明されたように、相当先進的な宇宙空間での機動技術も持っている。ロボットアームなどで他国の衛星を妨害する「衛星攻撃衛星」(キラー衛星)に必要な基礎技術は、既に備えている。

今年5月には日本経済新聞が、衛星を使った宇宙状況監視(SSA)でスカパーJSATが米軍と協議を進める、と報じた。コンステレーションでネックとなるのは、安全で大容量の宇宙通信網の維持で、スカパーJSATはこれに不可欠な光通信技術を持つ。スカパーJSATは恐らく一例にすぎず、これから米軍と日本企業の連携の話はもっと出てくるだろう。(了)

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