映画「メッセージ」 言語理解とコミュニケーションを越えた先にあるもの
もし、宇宙から、何も攻撃をしてこない得体の知れない物体が現れたらあなたはどうする?
危害を加える危険なエイリアンだ、攻撃される前に攻撃して撃退せよ…!
ひと昔前のSF作品なら、ここで軍が登場してどう彼らをやっつけるかにフォーカスし、人間の強さを描く。
しかし、この作品は違う。なぜ、彼らは現れたのか…。この作品は、言語学者の女性ルイーズが、彼らが現れた目的を探るストーリーだ。
レビュー
彼女のを回想をちりばめたかのようなシーンを織り交ぜながら、ストーリーは進んでいく。
冒頭の出現シーンで、誰も出席していない大学の講義に向かう彼女に、私は違和感を感じた。
こんな危機的な状況で、普通講義しようと大学に行こうとするの?と。たぶんちょっと変わり者なのだろう。もしくは、相当意思が強く真面目で責任感が強い人物なのかもしれない。それはストーリーが進むにつれて分かる。
アメリカ軍の大佐から、彼ら(エイリアン)が発する言語を解読しろと言われ、「録音音声から解読するのは難しい、会わせて」という彼女に、やはりプロフェッショナルな雰囲気を感じた。
殻(シェル)と呼ばれる宇宙船は、そのフォルムはまるで鉄のバカウケだ。それはポスターからもわかる。当時、Twitter上でも話題になっていたのを覚えている。
しかも鉄のバカウケは日本の北海道にも出現し、そのほか世界11箇所、合計12体が地球上に現れ、各国が厳戒態勢を取る。特にロシアや中国の姿勢は過去や現代の情勢にも通ずるようなリアルな動きが垣間見えてハラハラする。
さておき、鉄のバカウケの中は、なんと無重力に近いのである。それに彼らと研究者である彼女たちとの間には壁があり、お互いに守られている。
従来のエイリアンものの映画であれば、この内部潜入捜査あたりで、エイリアン側が人間を襲ってくることが多い。しかしそれもこの作品ではないのだ。
彼らの発する船が軋むような不気味な音。その音声から、彼らの言語を解読しようとするが、それは困難だとルイーズは判断する。そして、視覚言語(文字)から彼らとコミュニケーションを取ることを試みる。
彼らとのセッションを重ねるうちに、彼らの表意文字のパターンを解析し、ついにコミュニケーションを取ることに成功する。
しかし、肝心な彼らが伝えたいことが理解できなかった。その間に、他国はそのメッセージから彼らに対し戦線布告をしていく。ルイーズは、それは誤った解釈だということを伝えようと、再び鉄のバカウケの中に乗り込む。
果たして、彼らの伝えたい本当のメッセージを探り、各国の戦闘体制解き、ひとつにまとめることはできるのか…?静かに進んでいくストーリーと、緊張感を持たせる展開。ルイーズのまるで数学のように綿密な言語学の分析が、観ているものをグッと引き込んでいく。
ストーリーの中盤で、「言語というのは、学ぶ言語によって考え方や思考に違いがある」という、とある論文の仮説が出てくるが、これはこの作品の大事なキーとなる。
時を越えて各国の文化に根付く言語は、私たちの考え方に大きな影響を及ぼしていることは明らかだろう。同時に、言語ほど時を越えて力を持つものは、ないのではないだろうか。武器という表現は、少し乱暴かもしれないが、言語とは武器となり得るほど強力なもので、言語を理解するということは、思っているよりも遥かに大きな次元の物事を理解するということなのだということに気づかされる。
言語を理解するということは、思っている以上に複雑なことだ。ルイーズの全てを受け入れる覚悟と、強さや責任感があってこそ成し遂げられたことなのかもしれない。理解する苦しみとそれを乗り越えていく強さが、美しく儚く描かれている。
映像・描写
言語として彼らが描く文字は複雑だが、どこか美しさを感じる。登場するエイリアンたちは、どこかハリーポッターに出てくるディメンターに似ているが、それよりももっと温かみのある印象でタコに近い。
また、回想シーンの描写が美しく切ないところも見どころで、ストーリーが終盤になるにつれハッとさせられる。
音楽・音響
謎めいた深みのある音楽がストーリーにさらに不気味さや壮大さを生み出している。理解しがたい存在に気味悪さを表現するために不協和音を奏でているが、不協和音なのにあまり嫌な感じがしないのは、響き渡る重低音に支えられているからかもしれない。この重低音は、ストーンヘンジで有名なスコットランドのバグパイプを彷彿とさせ、それがもっと低く深く鳴り響き、幻想的で美しい異世界を表現しているように思う。
洋題ではArrivalという、本作品。
彼らが出現した目的と言語といった視点から、メッセージという邦題になったことも頷ける。
言語やコミュニケーション、時の流れや人の愛と強さについて考えたくなる、今までにないアートなSF作品である。
映画「メッセージ」公式サイト
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