宝石を餞に
Attention
(※此の物語はフィクションです。実在の人物とは
何の関係も有りません。と言えば少し嘘に
なりますが、少なくとも京都に来た事以外は全て
フィクションとなります。後、家庭の文化に則り、
“ママ”と呼んでおります。何せ日中ハーフなので。
他の人に「文化では無いから」と言う様な些細な
理由で各々の呼称を貶す事を禁じます。)
本編
知り過ぎない方が良い、なんて事も有る。
そう思ってはいたが。
“知って得する事”なんて物が有るんだな。
今日はママと弟と買い物に出掛けている。
場所は京都。八坂神社から戻る所である。
流石は都会。私は人混みが苦手だ。其れは弟も
同様なので、姉弟二人は少し疲れ気味である。
「買いたいものあったらちゃんと見るんだよ。」
ママが言った。買い物に行く前の何時もの口癖だ。
其の時、私の視線の全てが目の前に在る宝石店に
絡め取られる様に惹かれ、
「ごめん、此処寄って良い?」
あーあ。言って仕舞った。絶対「駄目」と
言われる。知ってます。済みません本当に。衝動に
駆られるなんて……極めて残酷では無かろうか。
「あー、……まあ、良いよ。」
「え。」
……ん?え、否待て。今明らかママが否定する所
では。……気の所為か。有難く其の言葉を受け取り、
3人で足を踏み入れた。
……わあ、綺麗。と言うか、不思議だ。何の店からも
感じられなかった“煌めき”に当たった。
待って此れ好き過ぎる。私が手に取ったのは、
乱反射で虹色に光る透明の代物。まるで天使の光の
様な柔い輝きの…。其の刹那、虹色の世界、少しの
目眩と耳鳴りに苛まれたが、終わると周りから
感じる綿菓子の様な感覚だけ残って元に戻った。
(後、ちょっと誰かさんの言葉遣いが好き過ぎて
「刹那」使いました((( )
「此方ですか?此方の商品は、お買い上げに
なられた瞬間、死ぬ商品となっております。」
ほう、此れは此れは面白そうではないか。……でも、
変だな。此の考え方。何時もと違う気がする。
……ま、良っか。
「ママ、此れ買って良い?」
「良いよ。」
ママがレジで会計を済ませた。其の瞬間、私だけが見える謎の空間に私だけが包まれて、…………。
「あれ。」
……ん、如何言う事だ。ママと弟は実物で見えるが、
私は透明なのか。何だ。何なんだ。誰にも私は
見えていないのか。そうなのか。若しかして……。
……うわあ、……終わった。終わって仕舞った。嗚呼、
やって仕舞った。終わらせて仕舞ったのだろう、
人生を。如何やら、本当に死んで仕舞った
見たいだ。
「え、みみは?」(←解説:一番呼ばれる仇名)
おっと、ママも気付いたのか。……ん?待ってスマホ
使える。送信するか。多分ママだから信じて
くれるのではなかろうか。変人家族だし。
『ごめん、ママ。自分死んだ』
『さっきの買って貰ったら』
『なんか、スマホは使えるっぽい』
『こっちからはママ達の声
とかも聞こえるし見える』
『ママの近くで歩いとうけど
死んでるから触ろうとしても
無理だと思う』
…無理かな。無理なのだろうか。無理だろうな。
「あ、そっか。」
否分かるんかい。良かった。認知された。
……でも、可笑しいよな。何が可笑しいのかなんて、
私には分からないが。そんなこんなで、死んでから
初めてのベッドに寝転ぶ。純白で汚れの無い姿の
ベッドの柔く包み込んでくれる感覚は有るが、
矢張り体が幽体な物でシーツの皺や枕の形も
変わらぬ様だ。
何か。此処では無い気がする。
私の目を閉じる棺桶は、此処では無い気がする。
異変の空気を感じる。帰る所、では無い気がする。
……ま、良っか。
……そう言や、ボイスメッセージは使えるのか?
亡き者だから使えない…なんて誰か言ってたか。
気の所為か。レコーダーに録音しておこう。
「あの、聞こえてる?美甘ですー。何かね、受け
入れて貰いたいんだけど。死にました。自分。
何か、分かんないけど、死んじゃったんよ。
パート分けからまだ数日しか経ってない気がする
けれども。でも此のボイメが聞こえるんなら、
歌えると思うんよ。聞こえるかな?」
一回聞いてみる。
「あの、聞こえとる?美甘ですー。何かね、受け
入れて貰いたいんだけど。~…。」
お。声帯に膜が張る様な声で、滑舌は悪く少し
聞き取り辛いが、何とか音声になっている様だ。
送信しよう(合唱団のグループに)。夜だが、返信が
来た見たいだ。
『おお、マジ?』
『そっか~聞こえてるけど、
ほんの少しだけ聞きにくいかな』
おお、聞こえるんだ。此れ、若しかして。
誰にも認知されない身体を手に入れてから、初の
朝だ。絶望も希望も無い朝。空間に在るのは、
未だに変に感じる空気とママと弟。横並びで一つ
ずつ棺桶が並んでいる。様なイメージだ。純白な
だけのベッド。弟を部屋に残してママと京都の
美術館に行った。展示された文化を一通り見た後の
パンフレット置き場。
「これ、みみ好きそうじゃない?」
ん?此れは……ボーカロイド展…?え……?某青の鰻の
少女が大きく写った……チラシ?可笑しい。何だ?
此の次から次へと湧き出る疑問は。勘が鋭いのか、
将又、気の所為か……。
「あ、そうだな。確かに好きかも知れない。」
「そっか。」
ママも聞き取り辛そうなのだが、疎通は出来る
様だ。あ、忘れてた。言わなきゃ。そうだ。
ボイメが送れた事の報告をしなければ。
「あのさ、LINEのボイメ有るじゃん。あれがさ、
今のでも使えるっぽいんよ。」
「あーそう。」
矢張り何時もの様に他人事として知らんぷり。
知ってるよ。其れが愛情だって。私が死んでも、
貴女は美しいから。額に入れて飾りたい位。そう。
愛らしい訳で、目の中に永遠に留めていたい訳で。
私は何度救われた事か。貴女の優しさ、勇ましさ、
明るさ、面白さ。好きな曲を私に聴かせて「ねえ、
長調?」と聴いてきてジャスト長調だったとか、
虐められた時守ってくれたとか、最近よく笑って
くれる様になったとか。ああ、毎日がまるで琥珀や
アメジストやガーネットとかの、あの宝石見たく
輝いていた。煌めいていたのに。様々な色で包み
込んでくれていたのに。其の筈なのに。
其れなのに……
涙が止まらない。立ち竦む私、そして色の無い
世界。独りぼっち。そうだよ。屹度そうだよ。私を
見てくれる人なんて、もう誰もいないんだよ。
あーあ。気付くのが遅かったんだよね屹度。サ終。
気の所為か、とか、ま、良っかとか気軽に
思ってるんじゃ無かった。涙が止まらない。嫌だ。
死にたくない。まだ貴方達の側にいたい。痛い。
幼気な想いだ。弱者だ。あんな宝石、目をくれて
やるのでは無かった。涙が止まらない。辛い。
辛いな。ああ辛いな。あーあ。やらなきゃ
良かった。涙が止まらない。苦しい。寒い。寒気
なんて感じた事無かったのに。涙が止まらない。
止まらない。止まらない。止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない__。
何時から可笑しかったんだ。
「此方ですか?此方の商品は、お買い上げに
なられた瞬間、死ぬ商品となっております。」
ほう、此れは此れは面白そうではないか。
違う。
其の刹那、虹色の世界、少しの目眩と耳鳴りに
苛まれたが、終わると周りから感じる綿菓子の様な
感覚だけ残って元に戻った。
違う。
「あー、……まあ、良いよ。」
「え。」
……ん?え、否待て。今明らかママが否定する所
では違う。
「ごめん、此処寄っ違う。
違う。
違う。
違う。
違う。
違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。
違うよ。
じゃあ何?
何なの?
答えは?
分からない。何で。何で。
涙が止まらない。
涙が止まらない。
涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止まらない。涙が止ま
「みみー、朝ー。10時ですー。さくら祭り行きます
よねー。起きてー。朝ー。」
桃色の可愛らしいベッドの上、母の呼び掛け。
……夢か。
「んー、分かったぁー。」
……悪夢だ。死ぬとか。怖いな。そっか。夢か。
良かった。皆と歌える。高校に入学出来る。家族と
話せる。当たり前か。……当たり前って、当たり前
じゃ無いんだよな。何時でも側にいてくれるとか。
誰かが死んだら無理だもんね。でも、夢の中は側に
いられた。話せた。……人間と幽霊が
コミュニケーションなんて取れる訳、とか
思ってたけれども。死んだら何もかも忘れて一緒に
時を過ごした魂とはバラバラになって二度と
会えないとか思ってた。
でも、違うよね。だって少なからず側に
いられたもん。色んな焼却処理の方法が
有るけれど、ママは海に、と言った。一生
泳いでたいって。海から見守ってくれてる。
もしくは身体は海に浸かりつつ私の方まで
某22世紀の猫ロボ見たく特殊な手法で陰から支えて
くれるよね。私が先に死んだとしても。海に散骨
して貰いたい。永遠に側にいるよ。迎えてあげる
から。永遠を手に入れたとしてもいたいから。
……此れって、マザーコンプレックスの範疇内に
入るのか。否、例え此れが歪んでいたとしても。
迚も大きな家族愛だから。依存しても良いよね。
もう死ぬの、怖くないや。
今日はさくら祭り(←4/7)。今日は思い切り楽しんで
明日の入学式に備えるの。新しい羽衣を身に纏い、
いざ、新しい世界へ。