雲雀丘の先に Ⅰ
工場の跡地にあなたは立っていた。
ただそこに在るなにかに、引き込まれるように。
そして私はそこでただ煙草に火を点けた。
「やめろよ」
瑶(よう)は、静かに、確実に、私の手を止めた。
「え?なにあんた。誰なの。」
そんな出会い方をした私たちも、もう四年の付き合いになる。いつしか瑶のすべてが、当たり前となっていた。
「真悠子、ん。」
差し出されたのは手袋。
瑶はいつも私の手袋を持ち、私にいってらっしゃいと言い、見送ってくれ、私はそのまま会社へ向かう。
瑶は自宅でフリーランスの仕事をしている。
優しい彼の言動、行動、全てに満足していた。
「真悠子、なあ、こっちきてよ」
瑶がいつも私に送るサイン。
四年経っても、変わらず私の唇に優しくキスを三回、そして耳、首へと身体と唇を優しく這わせていく。
ソノサキに在る絶頂が、私は好きだ。
でも彼はもういない。
次の朝に、跡形もなく、なにもなくなっていた。
私に残されたのは、二人でローンを組んで買った中古のプジョーだけ。