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尺八と缶ビール

 「なあ、お前の仲間がいるぜ」
 ホームレスらしき中年男性を見て皮肉交じりに富谷は言った。
 数年後、富谷はホームレスになったから、おめでとう。僕たちの仲間入りをしたってわけだ。


 家がないことを細かく言ってしまうと、ほとんどの人間はホームレスなんじゃないかと思うし、そもそも土地とかそんなこと全て借り物なんだって嘯いてみたくもなる。
 ただ悲観的になったことはない。僕には家に泊めてくれる友達もいるし、大好きなギターがある。
 時々、駅前でギターを弾くと優しい人たちは僕にお小遣いをくれる。
 大きな夢を叶えるために頑張っている人としてみんなの目には映るみたいだけど、ただギターを弾くのが好きだからそうしてるだけだし、お客さんと一緒に音楽を楽しむことができるのは幸せなことだと思っている。

 僕と富谷は寮付きの仕事を見つけて一緒に働くことになった。
 昔ほど何かに対して意見を言うことは少なくなった富谷だが、横顔は昔より穏やかな表情をしている。
 僕のことも友達だって言う。ちょっと気持ち悪いけど。

 残業が続いてヘトヘトになった夜、富谷は缶ビールを差し入れしてくれた。僕はお礼にギターを弾いた。

 隣の部屋に住んでるはっちゃんもやって来た。八ちゃんは尺八が趣味で、名前も八兵衛だから「いや冗談?」なんて思ったけど八ちゃんの尺八を聴いたら、その凄さにただただ驚くばかりだ。その日も僕のギターと尺八のコラボが始まった。

 「流石だね、八ちゃん」
 「ありがとうございます」
 「敬語やめてよ」
 そう言うと八ちゃんは笑った。僕も笑った。富谷も。

 最高な一日。もう思い残すことはないって、多分こういう日のことを言うんだよ。
 夜の缶ビールは冷えて、めちゃくちゃ美味しかった。
 


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